第99話 転魂前 その5 メリル視点
この世界には欠陥があった。
500年に一度、セスナの月食時、異世界とのゲートが開いてしまう。
その異世界よりの来訪者を保護する。それが魔術師メリルの使命だった。
神々に付き従って世界を去っていった仲間たち(エルフたち)。
エルフの王族の血筋でありエルフの中でも優秀な魔法使いだったメリルは世界の欠陥を見張るために、神々に追随して異世界へ渡ったエルフたちと別れ一人この世界に残ったのだ。
今年がその500年に一度の日。
セスナの月食で異世界人が招かれる。
メリルの使命はその異世界人を保護し、害になるものなら排除すること。人間の老婆の姿になり、500年に一度召喚される異世界人を保護するために森の中でひっそりと暮らしていた。
そして今回召喚された異世界人――紗良はとてもかわった女性だった。
セスナの月食の時刻になっても異世界人が召喚されるはずの遺跡に何も現れず、仕方なしに周りを探索していると、本来なら召喚されるべき場所から少し遠くで彼女は召喚されていた。
彼女を保護し、この世界で暮らしていけるように環境を整える。
それがメリルの役目だった。
そのため、この環境に慣れるようにと異世界人を強くするために用意された小型のダンジョンである試練の洞窟に案内すると、まるで勝手知ったる我が家かのように歩き回り、回復の魔方陣、敵消滅の魔方陣、ワープの魔方陣のある部屋でいそいそと罠を作り始めたのだ。
このダンジョンは召喚された異世界人だけが入れる特別な場所。
誰も詳細など知るはずがないのになぜか彼女は的確に位置を把握していた。
「あんたそんなところで何をしているんだい」
他のエリアにあった檻をもってきて回復の魔方陣の上に檻を置いた紗良に問うと
「まぁ見ていてください」
ふふふと笑いながら檻の中に捕まえたモンスターを投げ入れた。
檻の中に呼び出したのは叫ぶ野菜。子供でも倒せる初級モンスター。
野菜は叫んでランダムで野菜を召喚する。そして召喚したことで力尽き勝手に死んでしまう
固定されて動けないうえに野菜を召喚するだけなので冒険者にとっては脅威でもなんでもないモンスター。
檻の中にいれた叫ぶ野菜は叫ぶと野菜を召喚し、回復の魔方陣で回復されまた叫んで野菜を召喚する。
「見てください!叫ぶ野菜は常に回復されるので、延々野菜を召喚する自動野菜増産装置です!!」
「……あんたはやることがかわってるね。その発想はなかったよ」
「常に効率を求めるのはゲーオタとしての性だと思います!」
そう言って彼女は「これで無料野菜ゲットで、異世界転生でおなじみアイテム!コンソメやら乾燥野菜でも作ってお金持ちになるぞー!」ガッツポーズをとる。
今まで何人も異世界人を世話をしてきたが、このようにエルフの試練の洞窟を「宝の宝庫♪」と最大限に利用したのは彼女だけだ。
みな慣れぬ環境に順応しようとレベルをあげて強くなろうとするのに、彼女は溶岩と地熱たぎる【火の間】にいくと「地熱!これなら光熱費無料、資材不要でいろいろできる!!」とはしゃいだのだ。みなその異様な光景に気後れするのに、溶岩を前に歓喜の声をあげる異世界人は見たことがない。
そして【氷の間】に行くと、「天然冷蔵庫―!!」【風の間】では「干物に最適―!!」と全力で儲ける事を考え出す。
「あんたは商魂たくましいね」
メリルが呆れたように言うと、「ちゃんと稼いで他国に行かないとですから、メリルさんも一緒に行きましょうね!」と屈託のない笑顔でメリルの手をとった。
異世界にきたのに、悲観することなく前向きで、何事にも全力で、それでいて発想が斬新で見ていて飽きない。
(まぁ、次の月食まで500年ある。この子の寿命が尽きるまで付き合うのも悪くないかもね)
メリルは、紗良に「はいはい」とから返事をしながら思うのだった。











