心の声
どうしようかと迷っている内に終点まで来てしまった。
人の流れに身を任せて、気がつくと私は中華街までやって来ていた。
行きたくないけど、行かなければならない。
でも、バックれても死にはしない。
大体、こういう時は行かないで終わってしまうのが世の常だろう。
サボるかと決めると、私の気持ちは急に軽くなった。
(このまま中華街をブラブラして、気乗りしなかったら帰っちゃお)
そうだ、中華街にはタピオカの店とかもあるし、丁度いいや。
鼻歌交じりに中華街の入口を通過しようとすると、腕を組んでこちらを睨みつける男の人がいる。
髪は金髪で、上は白いTシャツ。
下は作業着みたいな無地のズボン。
所々ペンキが飛び散っていて、多分、ペンキ職人だろう。
(やっば……)
職場の同僚って訳でもないのに、何となく後ろめたくなり、俯きがちに歩く。
(……ふう)
門を潜って、一息付いたその時だった。
「ふう、じゃねーし」
突然、背後から声を掛けられた。
振り返ると、今私を見ていた男の人が立っている。
私は、心の蔵が飛び出すかと思うくらい、ビックリした。
「え、あ…… 何ですか?」
「お前、立野エリだろ? たまたま電車ン中で見かけたんだよ。 バックれるつもりだったろ?」
何故バレた!
そんなオーラを纏わせていたのかしら?
ドギマギしていると、相手が口を開いた。
「兄さんから聞いただろ、エリスマン亭の補修なんて、そうそう携わらせて貰えない仕事なんだぜ」
兄さん。
ペンキストリートで色々教えてくれた、高身長のあごひげ兄さんだ。
あの人の説明によると、ペンキストリートでは社長のコネで横浜にある市の所有物の塗装を主に取り扱っている。
社長は元々市の職員で、後に独立してペンキ屋を始めたという萎縮の経歴持ちだ。
「異色、な」
「……え」
また、だ。
この人、私の思ったことが分かるのかしら?
そんな馬鹿な……




