塗装
(終わった……)
私は天を仰いだ。
ワールドカップ予選でゴールを決めることが出来ず、進出を逃した日本代表の気分はこんな感じなのかも知れない。
膝から崩れ、そんな感情に浸っていると、女性から声をかけられた。
「ねぇ、聞いてる?」
……慰めてくれていたのかしら?
全く耳に入らなかった。
「……いいんです。 結果が全てですから」
「結果? まだ不採用って決まった訳じゃないけど」
「えっ」
「1時間あげるから、ここら辺にある建物の壁をよく見てきなさい。 まじまじと壁なんて見たことないでしょ?」
壁……
そうか、壁の塗装を見てこいって言ってるんだ。
それで、本当にそういうことに興味が持てるか、再確認してこいってことだ。
とりあえず、まだ不採用とは決まっていないらしい。
「14時に戻ります!」
私は慌てて部屋からから飛び出した。
ビルから出ると、私は辺りを見回した。
ここら辺は所狭しとビルや店が立ち並んでいる。
観光するなら少し先の中華街やショッピング街の方が色々と店があるから、人通りもほとんどない。
それが理由かは分からないけど、建物は古ぼけていて、塗装を新しくしたような痕跡はない。
それが逆に趣がある、という意見もあるだろうけど……
それでも、ビル一つ取っても、壁にくすんだ汚れが目立つ。
「……あれ?」
ふと、今出てきたビルを見返した。
「塗装が、新しい?」
近くで見ると、やはり、最近塗ったばかりのような光沢がある。
白い壁だけど、くすんだ汚れはない。
塗りにムラもないし、もしかしたら、ここのペンキ・ストリートの社員が塗り直したのかもだ。
(そりゃそっか。 塗装やってる会社のビルの外壁がボロボロじゃ、お客からしたら心配だもんね)
一歩引いて、改めてビルを見る。
「……これが、塗装をする意味ね」
古ぼけたビルの中で、浮き上がって見えた。
私は理解した。
真新しい建物は目を引くのと同じように、その建物をもう一度、「主役」にすることが出来るんだ。
「これ、ウチの人らが塗ったんだぜ」
いきなり、背後から声をかけられた。