横浜258号館
ぼとり、と手にしていたビニール袋が床に落ちる。
「叔父野さんが、さらわれた?」
「こいつがポストに投函されてた」
長身ひげ面の兄さんが、手紙をこちらに見せた。
「叔父野社長を帰して欲しければ、横浜258号館を放棄しろ。 もし放棄しなければ、社長は帰らない」
手紙を読み上げると、それを机の上に投げる。
イルカが言った。
「昨日、帰りがけに社長はタクシーを使ってた。 あの運転手、胡散臭いと思ったんだ」
そうだ。
昨日、ニューグランドホテルから出て、帰ろうとした時、家まで送迎すると言い出したタクシードライバーがいた。
私たちは、てっきりニューグランドホテルのサービスの一つだと思って、社長を送り出した。
でも、よくよく考えると、あの運転手、どこかで見たことあるような風貌だった。
悪霊に取り憑かれたような、負のオーラを放つ、あの男。
(ヒロシさんだったんだ……)
嫌な汗が滲む。
プリンアラモードを食べてる時、社長から聞いたヒロシさんのその後。
クレセントヒルズはどうにか竣工を迎えたものの、やはりヒロシさん一人で内装の塗装をやり切るのは難しく、苦肉の策で別業者に応援を頼んだ。
しかし、その費用は濱口塗装店持ちで、会社は赤字を抱えることになったらしい。
(……それで、にっちもさっちも行かなくなって、私たちの仕事を横取りしようと……)
「イルカ、エリ、付いてこい」
兄さんに言われて、私たちはガレージへと向かった。
ガレージにある棚へと向かう。
その一番奥に、ブルーシートで覆われた一角がある。
おもむろに、そのシートを引っ剥がすと、黒光りした細長いものが立て掛けられている。
「こいつで、社長を奪還する」
兄さんは、黒光りした細長いもの、銃を手にして言った。
「ちょ、待って下さい! それって、銃刀法違反じゃ……」
「これは玩具だよ。 電動ガンだ」
……え?
電動ガン?
「兄さん、ふざけてんのか? そんなんで戦える訳ないって」
イルカが指摘する。
電動ガンなんて、当たっても我慢できる痛さだろうし、これは遊びじゃない。
兄さんはニヤリ、と片方の口元を上げた。
「ただの電動ガンならな。 これは、俺が特注で作らせた、ペンキを圧縮して打ち出すペイントガンだ。 威力を調整すれば、相手を気絶させることも出来る」
どうやら、兄さんはペイント銃を作って販売する副業をしていたらしく、これはその試作品らしい。
てか、遊びでそんな銃使われたらたまったもんじゃないと思うけど。
「イルカ、お前ならエリを救った時みたく、社長の居場所を察知できるハズだ。 エリ、お前はその間、横浜258号館の仕事を一人で引き受けてもらう」
「……!」




