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断罪と復讐  作者: 野渡 敬
自称:優しい犯罪者と優しくない断罪者
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1話

 はじめまして。野渡敬と申します。

 なろうに小説を投稿するのは初めてですが、どうか温かい目で見守ってください…。





 革命暦七年。

 悪魔封印の年、と、国内で呼ばれ続けることになるこの年に、卑劣な犯罪者と正義の処刑人の間に生まれた不可思議な絆について知る者は、世界中を探してもいないだろう。











 民衆の革命により絶対帝政が崩壊した後、民主主義の風潮が留まることなく広がりつづけている、ここブルガ王国。漸く革命の熱気が治まった王国は、新たな闇に震えている。

 …いや、不定期に起きていた一家惨殺事件のうち最初の事件から二年が経過した今は、震えていた、というのが正しいかもしれない。闇の元凶たる一人の犯罪者が、ひと月ほど前に騎士団によって捕えられたのだ。











 時刻は正午、人々の真上に鎮座する太陽が留置所の外壁を照らしている。内側に鉄格子を立てた小さな窓を北向きに並べる廊下では、外の平穏とは対照的な闇が揺らめいていた。

 死刑囚を収容する独房のうち、一番奥、突き当たりに位置する牢。鉄格子越しにさらりと揺れた黒い髪に良く映える、ブルーグレーの瞳が僕の視線を縫い付けた。



「お客様とは珍しいね、ようこそ私の楽園へ。死刑執行の期日が決まったのかな?あ、もしかしてもしかして、私が知らなかっただけで実はもう処刑のお時間?」



 にへらと笑ったその少女、ルラ・ライアスは、とても連続殺人犯とは思えない風貌をしていた。肩につくかつかないかのところで切りそろえられた髪は幼げな容姿を強調し、どこかあどけなく感じられる笑みは万人の警戒心を緩めるのだろう。

 しかし彼女は凶悪な殺人者のはず、油断などするべくもない。初っ端から思いがけず溶けかけた心を締め直し、僕は息を吸い込んだ。



「…いや、期日が決まった訳じゃ無い。まあそう遠くない未来のことになりそうだがな…お前に残された生は多く見積もって一週間、といったところか。」


「そ?なら特に用事なんて無いだろうに、どうして処刑人さんがこんなところまで来たんだい?」



 ひくり、と自身の眉が動いたのを感じた。何故…と、意図せぬ言葉が唇から漏れる。だって僕はこいつとは今初めて会ったのだし、自分が死刑執行人であるということはもちろん告げていない。

 そんな僕の様子を見て殺人犯は可笑しそうに笑った。今の今まで見せていた優しげな笑みとは違う、純粋無垢な笑顔に一瞬見入ってしまう。



「だって、君は人殺しでしょう?なんとなく分かるよ」


「っ…」



 人殺し、と言われて言葉が詰まった。常日頃から思ってはいるのだ、自分は悪人を裁くためとはいえ日常的に人を殺しているのだ、と。

 とはいえ、その事実に心を痛め悩んでいる訳では無い。心が痛まないことに悩んでいるのだ。



「ああ、ごめんね、言い方が悪かったよね。大丈夫だ、君のはいうなれば大義に殉じた人殺し。正義とやらはそちらにあるでしょ。」



 しかし殺人犯はこちらの反応を見て何か勘違いをしたらしく、そんな言葉をかけてきた。違う、違うんだ。そうではなく。どう話をしたものか。


 僕は自分が優しい人間ではないと自覚している。人を処刑する際だって、恐怖の悲鳴や命乞いの言葉を聞いても心がちくりとも痛まないのだ。だからこそ今の職業は天職ともいえるだろうが、これでは人間としてどうなのかと考えるようになったのはここ数ヶ月のこと。

 僕がここにきた理由の三割程は、優しいなんていう言葉は似合わない犯罪者だからこそ、何か重大なヒントを口走るのではないか、と考えたからだ。残りの七割は、過去に類を見ない重罪を犯した十四歳の少女に純粋に興味が沸いた、という断罪者らしからぬ気持ちからだった。

 是が非でも話をしてみたい、いや、処刑人として不適切だろうかと一ヶ月悩み続けたが、欲望に勝つことはできなかった。ひとつ言い訳をすると、これ程強く何かを望んだことは生まれて初めてだった。


 鉄格子の隙間の瞳を見つめながら話のうまい切り口は無いものかと頭を回転させたが、思いのほか目の前の少女に魅入られてしまった焦りのせいか、考えが纏まる前に僕の口は喋りだした。



「優しくなるには、どうすれば良い?」









 私の名前はルラ・ライアス。ピッチピチの十四歳。だが小さいからと侮ることなかれ。何せこの身はたくさんの人間を殺してきたのだから!

 …と、勢いに乗って胸の内で熱い自己紹介をしてみたは良いものの、この状況はどうしたものだろうか。目の前にいる処刑人が、優しくなるにはどうすれば良いのか、などとのたまっている。


 ミルクティー色の髪に果てしなく薄い水色の瞳の優男。これはどうでもいい情報だが、控えめに言って非常に私好みのお顔の持ち主である。虫も殺したことがありません、とでもいうような顔をしているがこれでも彼は処刑人のはず。どうして法廷にて秒速で死罪を言い渡された私にそんな質問をしているのか。

 …いや、まあ細かいことはどうでもいい。尋ねられたら答えを返すのが人間としての礼儀だろう。膝を立てていた足を地べたに伸ばし、私は思考した。



「さあ?」



 質問に答えるぞ、と意気込んではみたが、思ったより難しい内容だったようで私の脳は考察を一瞬で断念した。短すぎる回答を聞いた処刑人は、表情に若干の後悔と呆れを浮かべている。いやあ、ごめんね、自分でもこんなに間抜けな声が出るとは思わなんだ。処刑人は小さく息を吐くと、くるりと私に背を向けた。



「…いや、こちらも突拍子もない質問をしてしまい悪かった。また来る。」


「え、また来るの?」



 処刑人だって暇ではないだろうに、と思って疑問を口にすると、彼は肩越しに不服そうに私を睨んだ。おおっと、優しげな外見に油断しちゃいけないよね、きっと怒らせると案外怖いタイプだこの人。こちらに向けられる視線のまあ鋭いこと。

 そんな私の脳内を知る由もないであろう彼は、不服の上に多少の寂しさを乗せてから、口を開いた。



「来るな、と?」


「いやいやそんなことは言ってないさあ、また来てくれるのか、ってびっくりしただけ。私は暇を持て余してるからいつだって大歓迎するよ!お茶とお菓子は出せないけど。」


「そうか、じゃあおとなしく待ってろ。」


「そうさせてもらおうかな。」



 私の弁解を聞いて瞳に乗せていた感情を消し去った彼が歩き出したのを確認して、その場に仰向けに寝転ぶ。


 …おどろいた。まさか私が、目の前に存在して言葉を話しているだけのヒトの成体にここまで興味をひかれるなんて。



「…まあ…私の好きな顔の造りではあったけどさあ、ここまで…」



 そこまで言葉にして、口をつぐんだ。今ここにいない人間のことを考えたって仕方ない。あの処刑人が来たことによって遮られた脳内会議を再開しよう。ふふ、と、口元に笑みが浮かんだのが分かった。


 さあ、さあ、存分に考えようじゃないか。

 透明とはどんな色なのか、という興味深い難題について。








ルラ・ライアス(14)

黒髪、七色の瞳、ロリ、連続殺人犯

ロアニウス・ルーンシュタイン(28)

ミルクティー色の髪、薄水色の瞳、優男、死刑執行人

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