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不意打ちからのインタビュー

 ゲートンシティの南部、カカリア区。

 かつてはカカリア村と呼ばれていたこの場所は、拡大を続けるゲートンシティに飲み込まれた結果、ゲートンシティ、カカリア区となった。


 乱雑に立ち並ぶ廃材利用のボロ家、ダンボールハウス、バラック小屋。

 ゲートンシティのならず者がここに集結するのだという。


 その一画、ガラの悪い酒場から出てきたばかりの男がいる。

 背が低く、ガッシリとした体格。背中には大きな斧を背負っている。

 恐らくはドワーフ。


 俺達が追っている血球は、その男に向かって行き、服に付いて小さなシミとなった。


「あいつが誘拐犯の片割れか」


 その様子を、箒に乗ったまま上空から眺める。

 男が逃げ場の無い狭い路地に入るのを確認して、

「クク、準備を頼む」

「急降下するぜ、しっかりと捕まえろよ」


 既にこれからの方針は話し合っている。

 あいつを、捕まえて、ボコって、仲間とイエナさんの居場所を吐かせる。シンプルな計画だ。


 箒の先端が下へと傾き、誘拐犯に照準を合わせる。


「アイツの左側を抜けるようにしてくれ」

「りょーかい!」


 箒のアクセルが捻られ、加速。

 重力に逆らわない下方向への加速は、一気に箒を最高速度まで引き上げる。


 標的に後ろから肉薄、俺はあやかし丸の峰を男の首筋を狙って構える。


 月影流剣術、《夢落とし》。

 力を調整して首を叩き、首の骨を折らずに衝撃のみを相手に与え昏倒させる、捕縛の為の剣術。


 しかし、俺の間合いに入る前に箒のエンジン音に気が付いた男が振り向く。

 あやかし丸を振り抜くが、咄嗟に男が地面に伏せて回避された。

 そのまま俺達は男の頭上を飛び抜け、再び空へ。


 奇襲は失敗、作戦を第二段階に切り替える。

「クク、上空で待機していてくれ」

 まだ地面が近い内に、箒から飛び降り、男の前に着地した。


「月影流剣術、月影 清十郎」

『その得物、妖刀あやかし丸』

「少々お尋ねしたい事があって、不意打ちさせて頂いた」


 ゲートンシティにおける武人精神に従い、名を名乗る。

 不意打ちをした事については詫びない。

 この世界の武人精神において、俺や目の前の大斧を背負ったドワーフの様に、武器を収納袋に包まず持ち歩く者は、常に自分が襲われる事を覚悟している者とされる。


 だから、襲いかかる正当な理由が有れば、不意打ちは咎められる事ではない。

 避けられない奴が悪いのである。


 地面に伏せていた男が立ち上がり、俺と向き合う。

 その形相は怒りに歪んでいた。

「ドワーフの戦士、ドナルディだ! テメェ、何故俺を狙う!」


「今朝、ハイエナ族の少女が誘拐された。その事について、話を聞かせて貰おうと思ってな」


「知らねぇな! 人違いだろうよ!」


 ナイフについていた血がこの男に向かった以上は無関係ということは有り得ない。


「素直に答える気が無いなら、身体に聞くまでだ。斧を抜きな」


 俺が促すと、ドワーフの男、ドナルディは背中の斧に手を……伸ばすように見せかけ、素早く懐からリボルバーを取り出し、即座に引き金を引いた。

 見事な早撃ち。並の武人なら反応出来ずに撃ち抜かれただろう。

 破裂音と共に、二発の弾丸が飛来する。


 遅い。頭に向かってくる一発を首を傾け交わし、胴に迫る一発をあやかし丸の抜き打ちで切って捨てる。


「随分と姑息な戦い方だ。その拳銃は見た事無い型だが、手作りか? 流石ドワーフ、鍛冶を得意とする種族、いい出来だ」


 ドナルディが舌打ちして、今度こそ背中の斧を抜く。

 縦に構え、俺が迫ると同時に振り下ろそうとする。

 しかし、ドワーフの戦士と名乗った割には、その構えにも振り下ろしにも冴えは無い。

 今までの敵を全員、あのリボルバーによって仕留めていたのだろう。

 とろくさいその一撃を身体を逸らして躱し、肉薄。


「月影流剣術、《夢落とし》」

 すれ違いざまにあやかし丸の峰を、今度こそ首に叩きつけて、失神させた。

『安心せい、峰打ちじゃ。……清十郎、今の打ち筋は良かったぞ、合格点じゃ』

「そりゃ良かった」


 ○


 気絶したドナルディを抱えて、箒で人気のない廃屋に運ぶ。


 使われていない埃っぽい廃屋の中で、椅子に攫って来たドナルディを縛りつける。

 安全の為に両腕と股関節を外して抵抗を封じておいた。


 バケツに水を汲んで、ぶっかけて起こす。

「ぶ、げば、ごほ、ごほ」

 意識を取り戻したドナルディが口から血を吐き出だした。

 《夢落とし》のダメージによる物だ。

 身体を揺らして暴れようとするが、外された関節に激痛が走ったのだろう。

 うめき声を上げておとなしくなる。


 さて、心情的にはここで椅子を蹴っ飛ばしてこちらが圧倒的優位であることを示したい所だが、ここは落ち着いて状況を理解させるべきだろう。

 あやかし丸を突きつけながら、話しかける。


「ドナルディさん。今、どんな状況か分かりますか?」


「糞、テメエら何処の手のモンだ。こんな事をしてタダで済むとおもってんのか!」


 会話をする気は無いようだ。だから一方的に話しかける。


「ドナルディさん。貴方は、罪深い人間です。貴方は獣人を一人攫って、一人を殺しかけた。生きていたのは、たまたまです。正直、斬り殺してやろうかと思います」


 俺の中では、もはや斬っても問題無い極悪人と認定されている。だけど、今回最も優先するのは、イエラさんの命。


「だけど、貴方にはまだ引き返す道が有る。幸い斬られた子は一命を取り留めました。貴方が自分の罪を認め、悔い改めて、攫った子を助ける為に知ってる情報を洗いざらい吐き出すのであれば、貴方を解放しようと思います」


 この言葉に嘘は無い。言葉に嘘が有れば、それはどうしたって態度に表れてしまう。

 だが、俺の気持ちは伝わらなかったようだ。


「獣人? 何の事だ! 俺はそんなもん知らねぇぞ! さっさと解放しやがれ!」


 ……どうしたものか。尋問か、拷問か。

 取り敢えず尋問から始めるか。


 顔面を思いっきりぶん殴った。鼻の骨が折れる手応えが伝わってくる。


「とぼけてんじゃねえよゴミクズ。

 今度余計な事言ったら目ン玉潰すぞ」


 汚い言葉遣いは苦手だ。使ってると精神がすり減ってくる気がする。

 だけど、今は仕方がない。脅して、威圧しなければ。反吐の出そうな言葉を叩きつける。


 椅子ごと倒れてしまった男を髪を掴んで引っ張り起こす。


「おい、馬鹿、止めろ!やりすぎだ!」

 ククが俺を止めに入る。

 勿論、男を心配しての事ではない。

 いい警官悪い警官メソッドと言う尋問の手法だ。


 一人が横暴に振る舞い、もう一人がそれを止め、友好的に振る舞う事で、信頼関係を発生させる手法。悪い警官に脅されて話すよりは、いい警官に話す方がマシだと思わせる。

 ドラマなんかでもたまに見る奴だ。


「いや~、悪いな。コイツ喧嘩っぱやくてよ。ドナルディさんっつたっけ。アタシ達さ、アンタに聞きたい事が有るだけで、アンタ自身をどうこうするつもりは無いんだ。だからさ、質問に素直に答えてくれたら無事に解放するからさ、ちょっと付き合ってくれねぇかな」


 ドナルディが無言で頭を縦に振る。


「そっか、良かった。今朝な、ハイエナ族の女の子が誘拐犯に襲われたんだよ。その子が言うにはな、一緒にいた友達が拐われたんだと。アンタ、何か知らねえか」


「し、知らねぇ……そんなの聞いたことも」


 ドナルディの耳を切り飛ばす。汚い悲鳴が響き渡った。

「つまんねぇホラこいてんじゃねぇ!テメェが関わってるこたぁ分かってんだよこんボケ!」


 俺はあまり頭が良くない自覚が有るので、こうして思考停止で脅すだけの役は非常に楽だ。


「止めろつってんだろ! あー、コイツな、さっき言ってたハイエナ族の友達でよ、今回の件でかなりいきり立ってんだよ。アンタが話してくれるなら私が取りなすからさ、どうだい、話してくんねぇか」


 ここで話してくれるなら楽なのだが、どうか。


「ケッ聞きたい事が有るうちは殺せねぇだろ。喋れば殺されると分かって誰が吐くか」


 意外と冷静な奴だな。

 素直に話せば楽になれるものを、中々強情だ。

 俺が腕でも切り落とそうとすると、ククが手で制する。


「ああそうかい、そういう態度を取るのかい。 いいぜ、ちょうど、新薬の実験がしたかったんだ」


 ククが帽子から丸底のフラスコを取り出す。

 中では黄土色の液体がゴポゴポ泡立っており、蓋を外すととんでもない腐臭が辺りに漂う。


「これは、自白剤つってな、コイツを飲むと頭が馬鹿になって、聞かれた事に何でも答えちまう。

 異世界の薬でよ、原理を聞いてアタシなりに再現してみたんだが、丁度実験台が欲しかった所なんだ。馬鹿になった頭が元に戻るかは知らんが、飲んでもらうぜ」


 ククは錬金術の知識を活用して、薬屋を営んでいる。

 大抵の薬を作る技術は持ち合わせているはずだが、今回の薬は俺の自白剤についての曖昧な知識から実験的に作った物だ。


 本当にそんな効能が有るのかは分からないし、そもそも動物実験すら終わらせていない。そんな恐ろしい薬を飲ませようとすると、とうとう観念したらしい。


「分かった、話す、話すから止めてくれ!

 ……俺は雇われたんだよ。ゲートン家の分家のお子さんにな。 あのハイエナに一目惚れして欲しくなったらしいぜ。 さあ、俺のバックにはあのゲートン家がついてるんだ。 分かったらさっさと解放しな」


「ゲートン家、ねぇ……」


 ゲートン家はこの街最大の権力者だ。

 その話が事実なら、コイツに手を出す訳にはいかないが……


 ドナルディの口に木の棒をねじ込み、無理矢理開かせる。

 その隙に、ククが自白剤を口に流し込む。

 まるでモイカ棒でも突っ込まれたかのように、ドナルディが暴れ、苦しみ、もがき出した。


「つまんねぇ嘘ついてんじゃねぇよ。

 ゲートン家がお前みたいなチンピラをわざわざ雇うかよ。雇うにしたって、仲介を通して名前は出さねぇだろうよ。……それにしてもこの薬、嫌がる相手に飲ませるのは面倒だな」


「言うの忘れてたが、俺の出身世界では注射薬だったんだ、それ」


「あー、成程、ってかそれを早く言ってくれよ」

「酒の席の豆知識にそこまで期待すんなよ」


 自白剤なる物が俺の世界に有ると話した翌日に、ククは自白剤を試しに作ってみたと言い出した。


 明日当たりにでも実験してみようという話になっていたが、丁度良かったかも知れない。

 これで尋問の結果無罪だとしたら、多少高級な解毒薬でも飲ませてやればいい。


 やがて動きを止めて目が虚ろになった男に対して、簡単な質問を投げかける。


「貴方の名前は?」

「ドナルディ……」


「この指何本に見えます?」

「二本……」


 上手く効いているな。


 聞くべき事は2つ。イエラさんの居場所と、もう一人の誘拐犯。

 自白剤で朦朧とした意識でも分かるように、質問は簡潔にする。


「獣人誘拐の共犯者は誰ですか」

「リーデトラックさん……」

「それは、誰ですか」

「大レギオス教会の、神父様……」

「何処の教会の?」

「カカリア区の……」


 よし、スムーズだ。

 カカリア区、大レギオス教会の、リーデトラック神父。覚えたぞ。

 この自白剤は高く売れるかも知れないな。元の世界の知識で大儲け、ゲートンシティ定番のサクセスストーリーだ。


「誘拐した獣人は何処ですか」

「知らない……」

 む、イエラさんの行方を知っているのはリーデトラックとやらの方か。


 しかし面倒だな、大レギオス教の神父か。


 大レギオス教。 この世界で最もメジャーな宗教。この世界に元からあった宗教であり、それ故に一つの問題を抱えていた。


「お前、獣人を拐うって事は、もしかして大レギオス教の過激派か」

「過激派じゃありません……正当なレギオス様の教義に従っています……」

 間違い無い、過激派だ。


 大レギオス教は比較的温和な宗教である。

 人間、ドワーフ、エルフ、皆が等しく神の寵愛を受ける存在であり、助けてあって生きることを説く、調和の神様。


 大レギオス聖書には、それ以外の人種について記載が無かった。

 書かれていない人種は、ゲートン家が200年前から召喚術式によって異世界から呼び寄せたのだから、それ以前に作られた聖書に記載がある筈が無い。


 呼び寄せられた異世界人達が根付いた頃、大レギオス教の中で論争が起こった。


 異世界人達は、神の寵愛を受ける存在なのか。


 長く続いたこの論争は、穏健派、異世界人も神の寵愛を受ける同士であるとする派閥が勝利した。もともと穏健な宗教だったのだ。当然の結果だろう。


 これに反発したのが過激派である。

 神の寵愛を受けるのは人間、エルフ、ドワーフのみ。

 調和とはこの三種族のみで作られた世界の事を示すのであり、それを乱す他種族の存在認めるべきでは無い。


 他の種族は動物と同列の存在である。


 大レギオス教から異端とされた彼ら過激派は、時に異種族に対して危害を加えるようになった。


 彼らは特に獣人族を嫌う。この世界に比較的早くから現れ、完全に根付いてしまった獣人族は、彼らにとって調和を乱す大敵だ。


 今回の事件も、過激派による獣人迫害事件の一つだったのか?


「誘拐して、その後どうするんですか」


「儀式の生贄にすると言っていました……」

「何の儀式ですか」

「屑の命で屑を駆逐する魔物を召喚すると……」

 ……急いだ方が良いかもしれない。

 放っておくと、召喚した魔物でテロでも起こしかねない。


「今まで何人くらい、誘拐しましたか」

「10人です……」

 結構多い。10人も生贄にすれば、そこそこの魔物が召喚出来てしまう。

 それだけの数を拐ったのであれば、紛れもない極悪人だな、コイツは。


「聞きたい事は聞いたな。もう、用は無いか」


 椅子に縛り付けられ、俯くドナルディと向かい合って、

 あやかし丸を引き抜く。


「ドワーフの戦士、ドナルディ。貴方には同情の余地無しと判断する。もはや、許す裁きは有り得ない。

 殺されかけたハイエナ族の少女、シロエナの依頼によって、貴方を殺害する」


 苦しませはしない。

 避けようともしないドナルディの首を刎ねるのは、赤子の腕を捻るよりも簡単な事だった。


 首が転がり落ちて、あやかし丸から流れ込んでくる生命力が、俺に活力を与える。


 あと、一人。今日は最低でもあと一人は斬れる。

 しばらくは生きていられるだろう。


『これで半月位は寿命が延びたのう』

「一人殺しても半月しか延びないなんて、相変わらず難儀な体質だよな、お前」

「本当ならとっくに死んでる筈だからな。文句は言えないさ。取り敢えずここを出よう」


 首の無くなった死体を適当な瓦礫に隠して、俺達は廃屋を後にした。


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