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幾つになってもガールズトークはガールズトーク

 しばらく休んで体調がいくらか戻った俺は、力仕事を手伝わされていた。

 馬力で言えば俺より強力なエンジンを積んでるマキナさんの方が圧倒的に上なのだが、男性がいるときには力仕事を頼りたいという乙女心らしい。


 夜の空、リーンリーンと虫が鳴く風情のある空気の中、井戸から水を汲んで、水瓶に注ぐ作業を繰り返す。


 これが済んだら薪割りだ。

 本来夜中にやれば騒音で苦情が出るが、あやかし丸で斬るのであれば、音はしない。


 鉈で薪を割るのに比べて、少し高い台の上に薪を横に置く。


「お前で薪を割ってると、昔を思い出すな」


『ああ、懐かしいのう。ここに来たばかりの頃の、月影流剣術修行、初歩の初歩【薪割り】。ちゃんと習った事覚えておるか?』


「当然だ」


 当時、俺に修行をつけてくれていたあやかし丸の口調を真似て、


「物を斬るときに大切な事はな、”目”を狙う事じゃ。どんな物でも、斬りやすい場所、斬りにくい場所がある。斬りやすい場所である”目”を正しく捉えれば……」


 あやかし丸を鞘に納め、身体を沈めて抜き打ちの体制を取る。


 刀を抜き放ち、横一閃。

 正確に薪の”目”を通り抜けた手応えと共に、薪が割れる。


「例え子供の力であっても、綺麗に割れる。だから泣くでない清十郎、最初から上手くできる奴なんて例外じゃ。ほれ、もう一回挑戦しようぞ……だったな」

『余計な事まで覚えておるの』


 薪を手に取って、断面を確かめる。

 カンナを掛けたように、滑らかな断面。

 ここで生活している間、何万回も繰り返した動作だ。

 多少時間が空いても腕は鈍っていない。

「さ、一撃に時間を掛けるのは止めて、とっとと仕事を済ませるか」


 俺がこうして働いてる間、ククとマキナさんが二人きりになるわけだけど、何を話しているだろうか。


 ……俺の悪口だったらやだなぁ。

 二人共そんな人じゃないと分かってはいるんだけど。


 ○


【ククキール・ククール】


「ククク……ついに二人っきりになれましたね、ククちゃん」


「似合わねぇ笑い方してどうした、シスター」


 アタシの目の前で、シスターがその目をピカピカと輝かせる。ああ、これは面倒くさいノリが始まるな。


「ガールッズトォークしましょう、ガールズトーク! 清十郎ちゃんには仕事を任せましたから、しばらく戻って来ませんよ!」


 こんな夜中に薪割り頼むとか何事かと思ったが、それが目的か。


「何を話せっつーんだよ。アタシもアンタも恋人なんていねぇだろ。いや、そもそもシスターはガール何て歳じゃな……いや、なんでもありません」


 何を始めるかと思ったら……適当にあしらってさっさと寝るか。

 水を一杯飲む。冷えてて美味い。


「あら、そういう事言いますか。じゃあストレートに聞きますが、清十郎ちゃんにもう告りましたか」


「ごぶ、があ、ゲホ、ごほっ」


 突然の不意打ちで、水が喉に、いやそんなことはどうでも良い。


「何でそれを知って、いや違う、アタシはアイツの事をそんな風に見てねぇよ!」


「え、むしろ何で気づかれてないと思ってたんですか? ここに居たときはいっつも清十郎ちゃんに突っかかって、清十郎ちゃんが独り立ちを決めたら真っ先に後を追って、気付いて無い子の方が少なかったですよ」


 他の奴らもだと……!

 アイツ等、あたしのが孤児院を出る時妙にニヤニヤしてやがったが、そんな事考えてたのか。


「……違ぇよ。あの頃突っかかってたのは、そんなんじゃねぇ」

 昔の、清十郎がこの孤児院に来た時の事を思い出す。


「アタシさ、皆に怖がられてただろ。魔法の力を持って生まれて、喧嘩を売ってくる相手には全力で魔法叩き込んでさ」


「魔法が制御できなくて、ではなく、積極的に使ってる辺り、怖がられるのは自業自得ですが」


「うっさい、黙って聞け。それでさ、新しい男が来るって言われてさ、聞けば、魔剣使いらしいじゃねぇか。どんな奴かと思って見てみれば、誰とも仲良くならずに、お姉ちゃん、お姉ちゃんってあやかし丸の奴にべったり。

 ムカつくじゃねえか。ここの奴らは皆家族を失ってるのに、アイツは仲の良い家族を持ち込むなんて。

 だから、シスターが留守の間に喧嘩売ったんだよ。アイツが寝てる間に、あやかし丸を盗んでさ。返して欲しけりゃ掛かって来いって」


「よく、あやかし丸ちゃんを盗めましたね。

 あの子自身が抵抗しそうなものですが」


 確かにそうだ。あの時自分は上手く盗めたと思っていたが、違ったのだろう。


「多分、あやかし丸も、今のままじゃいけないって考えてたんだろうな。人と関わるきっかけを作る為に、ワザと抵抗しなかったんだ」


 昔から、あの妖刀はしっかりと姉をしてた。

 流石に今は弟離れをしている……うん、している、筈だ。

 一緒にいるのはあくまでも武器だからであって、決してそういう関係では無い筈。


「それで、結果はどうなりましたか?」


「結果は、アタシがボロ負け。いい勝負どころか、一撃当てることすら出来なかった。アタシの攻撃全部見切って、接近されて、マウント取られて、ボコられた」


「あの子のお母さん知ってますけど、頭がおかしい戦闘馬鹿でしたからね。何か、仕込まれてたんでしょう」


 初耳だぞそれ。アイツあんまり自分語りしねぇからな。


「それで負けてな、アイツが何て言ったと思うよ。『遊んで貰えて凄く嬉しかった、これからも相手をして欲しい』だとよ。頭に来るよな。私を敵とすら認識して無いんだから」


「あの頃は……あの子自身が引っ込み思案ってのも有りましたが、本当に誰も、あの子に近寄ろうとしませんでしたからね。何せ常に魔剣を手にしてるんですから。話し相手なんて、私の他はあやかし丸ちゃんくらいしかいませんでしたし」


「まあ、それでな。あんまり悔しいもんだから、その時心に誓ったんだよ。絶対コイツに吠え面かかせてやるって。敵として認めさせてやるって。

 だから突っかかってたのはそんな気持ちがあったからでな、決して、アイツの事が好きだからとかじゃ無いんだ」


 そう、きっかけは確かに悔しさだった筈なのだ。それがいつからだったか……


「でも、清十郎ちゃんの方は、きっとククちゃんの事好きだったと思いますよ。何せ、たった一人、自分を恐れない、しかも女の子のお友達ですし。あの頃に告白してたら100%成功してましたね」


「信じられるかよ」


「データだってちゃんと有ります。私の高性能集音器でリサーチした結果、清十郎ちゃんがナニする時に呟く名前は、あやかし丸ちゃんとククちゃんで5:5でしたからね」


 え、マジで。なら結構アタシにも勝算が……違う、そうじゃない。


「アイツにプライバシーは無いのかよ! 最悪! 本当に最悪だなこの破戒シスター! 踏み込んじゃいけない領域ってモンが有るだろ!」


 いくらなんでも可哀想だ。

 育ての親にオカズ全てを把握されてるとか自殺ものだろう。

 脅しに使えるかもしれないな、覚えとこう。


「まあ、冗談は置いといてですね」


「本当に冗談なんだよな」


 スルーされた。


「ククちゃん、人生の先輩、いえ、育ての親としてのアドバイスです。清十郎ちゃんが本気で欲しいなら、今が最初で最後のチャンスだと思って行動した方がいいですよ」


「何でだ? 別にその気は無いけど、チャンスなんてこの先幾らでも有るだろ」


「あくまでもそのスタンツを崩さないんですね……あの子は、きっとこれから先、沢山の女の子に囲まれますから」


「は?」


「あの子の父親が、そういう人でしたからね。困ってる女の子を助けては、まるで気の有るような事を言って意識させつつ、最後には沢山の女の子の中から一人を選んで結婚。他の子は皆、負けヒロインになりました」


「負けヒロインって漫画じゃあるまいし……それって、もしかしてシスターの体験談か?」


「いえ、友達の女の子の話です。自分が一番仲が良いと油断してたら、ある日突然空から降ってきた剣術家の女に全てを持っていかれました」


 友達の女の子って大抵自分の事だろう。

 またえらく典型的なヒロインに負けてるなこのシスターは。


「一夫多妻とか考え無かったのか? たしか手続きすれば出来る筈だろ」


「そんな提案をした子も居ましたけどね……大好きな人の一番になれない、独り占め出来ない、そんな愛なら要らない。友達を含めて、そう考える子が大半でしたから」


 そうだよな。私がその立場でも、同じ事を考える。

 他に女を侍らせておいて、君の事は他の女と同じぐらい好きだよとか、皆が一番とか抜かしたら、アタシならその男をぶっ殺す。というかまず好きにならないだろう。


「ククちゃん、くっつくなら、今です。ライバルが少ない内にくっついとくべきです。警告はしましたからね」


 ガールズトークの筈なのに、しょっぱい話題になってしまった。


「ただいまー。全部終わりましたよ、マキナさん」

「あら、お疲れ様です」

「お疲れさん」


 話題にされてた本人が帰ってくる。


「なあ清十郎、お前って、モテるか?」


 さっきまでの話題が話題だったので、つい聞いてしまった。どうせ答えはノーだろうが。


「どうしたクク、突然そんな事聞いて。モテるかどうかと言われれば……ククク俺はモテるぞ」


 !? 清十郎の奴がメチャクチャドヤ顔で言う。

 莫迦な、いつ、誰にモテてたんだ!?


「あれは俺がこの孤児院にいた時の話だ。毎年の菓子送りの時期になると匿名のクッキー袋が枕元に置かれていてな、俺は常に女の子から菓子を貰える派閥に居たんだ。他の奴らは『匿名とか怪しい、自演だろ』って信じてくれなかったけどな……何だその生温かい笑顔は」


 だってそのクッキーやったのアタシだもの。ああ良かった。よく考えたら色々とだらしないコイツがそうそうモテる筈ないよな。


「んな顔してね~よ、馬鹿。アタシはもう寝るからな、お休み。シスター、言われた事、ちょっと考えてみるよ」


 ボロが出る前にさっさと退散することにした。


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