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決戦開始!

 深夜。月が天頂に登ろうとする時間の30分ほど前。

 盗聴器で内部の動きを確認した俺達は、ククの箒に乗って、教会の屋根に静かに着地して明かり取りの窓から教会の中を覗く。


 視界の中では、神父が大レギオス像を動かして地下への入り口を開けようとしていた。


「大レギオス像の下に入り口が隠れてたのか」

『あれ、押しても引いても動かなかったんじゃが、何かロックがかかってたんじゃろうか』

「土台に宝石を嵌めてロックを解除してたな。バイオ的な仕掛けか、いい趣味だ」


 あやかし丸で音も無く窓の一部を斬って、そこから手を差し入れて鍵を外す。


「地下室の場所が分かったなら、もう用は無い。死んでもらおう」


 イエナさんもきっとそこに居る。

 ゆっくりと窓を開けて、無防備な神父の背中目掛けて静かに飛び降りる。


 あやかし丸を下に向けて、神父を串刺しにするべく落下。


 だが、事態は俺に都合良く動いてくれなかった。

 神父の首に刃が届こうとする直前。

 神父が手にした杖を振り上げ、俺の一撃を受け流す。


「『ちっ!』」

 思わず舌打ちしてしまう。

 予想出来ていたとはいえ、あのタイミングで俺の不意打ちを防いだというのか。

 コイツ、手練だ。


 俺は地面に着地すると、勢いを殺すために床を転がって、同時に神父と距離を取った。


「ドナルディが時間になっても来ないので、何かあったのかと警戒していたのですが……貴方ですか、儀式を邪魔しようとしているのは」


 あくまでも、穏やかな表情のまま、しかし声には怒気が含まれる。

 神父が杖の取っ手を軽く捻って、引く。

 仕込み杖だ。細身の刀身が窓からの明かりを反射して輝いた。


「彼はそれなりに出来る戦士だった筈ですが……どうせ、今みたいに不意打ちで倒したのでしょうね。雑魚のよくやる事です」


 仕込み剣を握り直し、一度、二度と素振りする神父。

 風を斬る、鋭い音が鳴った。


「一応、殺す前に聞いておきましょう。何者ですか」


「問われて答える馬鹿は居ない……と言いたい所だが、剣士としてこれから手合わせする相手に名乗らない訳にはいかないな」


 息を吸って、堂々と名乗りを上げる。

「月影流剣術 月影 清十郎、及び妖刀あやかし丸。貴様が攫った獣人を取り返す為に、貴様にやらかした事のケジメをつけさせるために、参上した」


「名乗る程度の誇りは持ち合わせていましたか……銀の森のエルフにして、大レギオス教の神父、リーデトラックです、以後、お見知りおきを」


 エルフは性を持たない。全員が出身地を性の代わりに名乗る。

 お陰でこの街にはゲートンシティの何とかさんというエルフが溢れかえっている。


 しかし、銀の森か。

 確か、150年前、比較的初期にゲートンシティの拡大に呑み込まれて失くなった森。

 そこが出身地ということは、最低でも150歳、見た感じでは300歳。俺とは経験が違い過ぎる。


 だが、こちらにはあやかし丸が居る。

 江戸時代には生まれていたのだから、えーと何歳だ。

 元の世界の歴史なんて勉強する前にこっちに来たからな。200歳くらいか。


 とにかくこっちには200歳のロリババアが居る。

 たかが経験の差、あやかし丸の力で押し返してくれる。


「問われて答えたのだから、お前にも答えてもらうぞ。儀式って何の魔物を召喚する儀式をするつもりなんだ。ぶっ潰す前に聞かせてくれ」


「何、大した魔物ではないよ。今日の儀式で完成する予定だったのだけど、まあいい」


 リーデトラックが懐から半透明の魔石を取り出す。半分が赤、半分が白と綺麗に色の分かれた魔石。


 あれは、魔物を閉じ込めておく為の封印の魔石。


「今のままでも、君の連れの相手くらいは出来るだろう」


 そう言って……天井の明かり取りの窓、俺が突入した場所に向かって、魔石を投げつけた。

 そこには、身を潜めて介入のタイミングを測っているであろうククが居て……。

 糞、バレていたか!


 魔石が割れて、中から巨大な三つ首の化物が、現れた。羽の生えた、4足歩行。

 屋根に着地した衝撃で、教会が揺れる。


「キマイラだ。 せいぜい腹の足しにでもなってくれ給え」


 キマイラ……俺の記憶が確かなら、それなりに凶悪な魔物だ。

 3つの頭それぞれが火球を吐き出し、空を飛ぶ上、僅かながら魔法も操る。しかし、


「なんだ、その程度か。警戒して、損したな」


「……何だと?」


「やっぱ過激派の奴らはロクなもんじゃねーな。 たかが、その程度の魔物を呼び出す為に、獣人を生贄にするなんて」


 とんだ拍子抜けだ。

 その程度の魔物であれば、ククは負けない。

 屋内であれば不味かったかもしれないが、屋外で箒に乗ったアイツは無敵だ。


「おいクク! その雑魚は任せたぞ!」

 何も問題は無い。俺は、リーデトラックに集中出来る。


『清十郎、来るぞ!』

 あやかし丸の一言で、意識を目の前の敵に向け直す。


 既に敵は駆け出して、こちらとの距離を詰めていた。


 真正面からお互い右袈裟に斬りかかる。

 剣がぶつかり✕時を描き、鍔迫り合い。

 剣に全ての体重を掛けて、押し合う。


 両腕に渾身の力を込めて、脚を踏ん張らせる。

 僅かでも力を抜けば、その瞬間押し切られて切り裂かれる。

 数秒の均衡の後、リーデトラックが片膝をついた。腕力においてはこちらが上回っている。

 このまま押し潰して……。


 不意に腕に掛かる抵抗が無くなる。

 リーデトラックが腕の力を抜いて、身体を後ろに倒したのだ。

 そのまま俺は前傾姿勢になってしまう。

 そして、俺の腹を目掛けて、鋭い蹴りが繰り出された。

 巴蹴りに近い体制。

 不味い、即座に自ら飛んで、蹴りの衝撃を和らげる。


 蹴りが命中。そのままでは俺の内蔵を破裂させていたであろう一撃は、腹筋で耐えられる程度の衝撃となって俺を吹き飛ばした。

 相手の意図を読み合った結果、示し合わせた様な綺麗な巴投げが決まる。


 糞、流石に戦い慣れてやがる!

 鍔迫り合いの最中にただ力を抜けば叩き切られるだけだが、脱力、刀の絡め方、脚を突きだすタイミング、全てを持って不意を突かれた。


 投げられた先で、転がって衝撃を逃した上で膝立ちになり、相手を視認する前に、殆ど直感に頼って右腕一本で刀を横に振るう。


 リーデトラックの追撃の突きが、俺を串刺しにする直前であやかし丸に弾かれる。

 切っ先がリーデトラックの頬を掠めて、浅く頬を裂く。


 お互いに剣を即座に振るえない状態。

 俺は開いた左拳を握り、リーデトラックの顔面を殴りつけた。


 リーデトラックの方は目潰しを狙っていたらしい。殴られて軌道の逸れた指が、俺の顔横を掠めて切り傷を創った。


 滅茶苦茶な体勢で拳を放ったせいで、即座の追撃は不可能。殴られたリーデトラックもそれは同じで、距離を取った仕切り直しになる。


 蹴られた腹がズキズキ痛む。まだアドレナリンによる痛覚麻痺は得られない。


「随分といい剣じゃないか。あやかし丸と打ち合えるなんて」


「魔剣とまでは行かなくても、名工の手による物だからね。」


 打ち合いの結果、お互いに僅かな切り傷と打撃を一発づつ。


 行ける。勝てない相手ではない。

 使い手の腕が互角なら……使う剣の格の差で俺達が勝つ!


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