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教会で懺悔を

 カカリア区は治安の悪い地域である。

 貧民が集まり、スラム街を形成するこの地域の教会では、大抵慈善事業として炊き出しが行われている。


 件の大レギオス教会でもそれは例外でなく、昼過ぎのこの時間、炊き出し目当てに集まってきた貧民でごった返していた。


「皆さん、食事は全員に行き渡る量がありますから、慌てないで並んで下さーい!」


 列を整理している女性の声が響くと、乱れつつあった列が形成され直す。


 全員、慌てる乞食は貰いが少ないと言う事を理解している。


 大レギオス教の信徒が長テーブルを幾つも並べて、寸胴鍋から使い捨ての容器にポトフのようなスープを注いで配る。



 そんな忙しそうな炊き出しを横目に、俺達は一般礼拝者として教会に足を踏み入れた。

 ここに来るまでの道中に、満月を模した大レギオス教のシンボルを購入してある。

 これさえ有れば常識の範囲内の行動なら疑われずにすむだろう。


 礼拝堂の中には、神父様が一人だけ。他の人は炊き出しの為に表に出ている。


 耳の長い、エルフ族の男性。

 寿命の長いエルフであるにも関わらず、外見はいくらか老け込んで見えた。

 間違い無く300歳は超えているだろう。

 凝った意匠の杖を支えにはしているものの、足腰はしっかりしている……というか細身に見えてかなり鍛え込んである。


 鋭い眼光で見つめられると、心の奥底まで見透かされていそうで肝が冷えた。


 おっかねえなこのエルフ。


「こんにちは、リーデトラック神父様」

「ええ、こんにちは。本日はどうしましたかな」

 この人物がリーデトラックで間違い無いようだ。


 挨拶して、頭を動かさず目の動きだけで教会の様子を確認する。

 一見して、おかしな場所は無い。


 過激派の連中は、自分達の信仰こそが正当であるという思いがある為、儀式を行う際は必ず教会内の何処かで行われる。

 恐らく、隠し部屋があって、そこで儀式の準備をしている筈だ。


「俺があの神父を引きつける。その隙に部屋を探ってくれ」


 二人に小声で伝えると、神父様の方へ歩み寄った。


「神父様、私は罪深い行いをしました。どうか、懺悔させて頂けないでしょうか」


 寄付金としてお札を手渡し、懺悔を乞う。真っ当な神父なら断れない筈だ。


「よいでしょう。懺悔室へどうぞ。お連れの方は、そこでお待ち下さい」


 部屋の探索を二人に任せて、俺は懺悔室へ足を向けた。


 ○


 暗く、仕切り越しにお互いの顔が見えないように配慮された懺悔室。


「迷える子羊よ、貴方の中にある罪を打ち明けなさい。心から悔い改めるなら、神は貴方を許されます」


 向かいの部屋の神父に対して、何を懺悔するべきか悩んでいた。


 この神父様が黒と確定していたら大嘘をついても心は痛まないが、もし白だったなら真摯な神父様に対して嘘をつくのは心苦しい。


 だから、本当の事を懺悔する事にした。その方が真剣味が出て良いだろう。


「私は自分の姉に対して欲情しています。

 母を失って落ち込んでいる私を慰めようと、優しく接してくれた彼女に対し、邪な感情を抱いてしまうのです」


 あやかし丸は実の姉ではないが、姉同然の存在だ。

 あの艶やかな黒髪、すらっとした体型、胸に広がる大平原、

 外見に似合わない、長く生きた者特有の落ち着いた笑顔。

 相棒としての頼りがい、趣味の一致。

 全てが俺の心を惑わせる。


 たまに、思うのだ。彼女にとって俺は単なる使い手に過ぎず、このような思いを知られたら嫌われるのではないかと。


 長い交流を経て、あやかし丸はそんな薄情な妖刀ではないと分かっている。


 それでも不安を拭い去る事は出来なかった。


 全く、不出来なものだ

 使い手と刀だと割り切る事も出来なければ、深い信頼関係で結ばれていると信じる事も出来ていない。


 ……はて、懺悔とは恋愛相談のことだったか。

 懺悔の内容を間違ってしまった気がするが、そんな懺悔に対して神父様は


「迷える子羊よ。罪に思う必要はありません。我らが大レギオス様も、兄妹の神々が結ばれた結果お産まれになられたのです。姉弟を愛したとしても、神は貴方を許されますよ」


 どうやら、教義的に問題ないらしい。

 一番メジャーな宗教が近親相姦有りだったとは、不勉強だった。何だか少し大レギオス教への親近感が湧いてきたぞ。


「有難う御座います、神父様。心が軽く成りました。寛大なる我が主に、感謝を」


 ブレイズ様以外の神を我が主と呼ぶことに歯が浮きそうになるが、我慢する。


 なお、ブレイズ教では姉弟姦どころか親子姦、不倫まで許容されている。

 恋は情熱の炎の赴くままに、がブレイズ教の合言葉だ。


 最も、不倫を認めると同時に復讐まで許容される教義なので、不倫してもいいが不倫した奴を刺す事も許す、という世紀末な結論になってしまうが。


 このあたりの過激さがいつまでもマイナー宗教な原因だろう。


 主へのお祈りのフリ・・を済ませて、懺悔室を後にする。


 ○


「どうだった、何か見つかったか?」


 教会を出て二人に尋ねると、待ってましたとばかりに答えが帰ってくる。


「地下やら隠し部屋の入り口は見つからんかったが、これが落ちておった」


 あやかし丸が差し出すのは、白い毛。

 根元の部分が少し茶色くなっていて、茶色い毛を白く染めた物である事が分かる。

 この手触りは、獣人の毛だな。


「これは……イエナさんの毛で間違いないだろうな。これで裏は取れた。……本人が見当たらなかったのは残念だけど」


「あと、盗聴器仕掛けておいたぜ。これで突入のタイミングはバッチリだ」


 後は、儀式が行われる夜まで待って、過激派のみになった所で突入する。

 先にイエナさんを助けておければ楽だったのに。

 下手すれば守りながらの戦いになってしまうのは嫌だな。


 夜までは長い。食料を買い込んで、教会から少し離れたビルの屋上に陣取った俺達は、双眼鏡で監視を始める。

 本当は聞き込みであの教会の評判も調べたいところだが、嗅ぎ回っていると感づかれるのもよろしく無い。


「あの建物上部の明かり採り窓、使えるな。あそこからなら、丁度大レギオス像の前に立ってる奴が狙える」


「盗聴してると神父が今日の当直は自分一人でやるとか言ってるな。敵は少なそうだぜ」


 意外だ。5、6人は相手をするつもりだったのに。

 ドナルディが加わる予定だったとしても、二人しか居なかったのか。


「なんじゃ、楽勝じゃの。老エルフを一人捻るだけじゃ」


「う~ん、どうだろうなー」


 さっき見た神父の体格を思い出す。

 あれは、全盛期は過ぎているがかなり鍛えていた。

 眼光も鋭く、寄付金を手渡した時、手には剣タコが有ることを確認している。つまり……


「リーデトラックは、かなり強い剣士かもしれん。エルフの武闘派ってのは厄介だ。人間が何十年しか鍛錬を積めないのに、あいつ等は100年単位で鍛錬出来るからな」


 ドナルディのような雑魚と違って、切り結べば命の取り合いになる。


 俺は戦闘狂じゃない。自分より強い相手との戦いで燃えたりしないし、命掛けのスリルも楽しめない、だから……


「最初の一撃、不意打ちで仕留めるぞ」


 最も安全な方法で、片を付ける。


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