この輪廻から外して貰えるのなら…… 恋人目線
どうしてあの人は忘れてくれないの?
どうしていつも出会った時は、後妻なの?
子供さえいれば、こっちを向いてくれるはずなのに……
なぜ、あの人は私の名を呼ばないの?
わたしはしょせん身代わりでしかないの?
「あの人の子供がいるんです。このお腹には。別れてくれませんか」
「子供……ですか……」
「あ、貴女には無理なんでしょう?彼を解放してあげて」
「……わたくしには……なにも、できませんわ」
「どうして!彼に無理矢理迫っているんでしょう!」
「わたくし、何もしておりません」
「あなたが!彼を不幸にしているのよ!好きなら彼の幸せを考えたならどうなの!」
「ですから、わたくしは彼とは何の関係でもありません」
「じゃあ、二度と会わないで!」
「ええ……こちらに来ないように伝えて下さいな。あなたから」
「来たら追い返して!会わないで!」
「ふぅ……何度も言っているでしょう?わたくしは一度たりとて、自分から呼んだことはありません。自分から会おうとすらしたことは無いのです。お分かりになって」
「お腹には……お腹には子供がいるの!彼の子供が!」
「もう、お帰りになって。興奮すると、子にさわりますよ。お大事に……」
彼女が手をふると、お付きのメイドが私を部屋から連れ出した……
なんで分かってくれないの。あんたじゃ彼は幸せになんてなれないんだから!
屋敷を追い出されて、とぼとぼと歩く……
お腹を擦りながら今度こそ、幸せになるんだ。今度こそ……
家についても誰もいやしない……
彼と暮らすために育った家を飛び出したから……
付き合ってると家族に言ったら、遊ばれているだけだとか、身分を考えろとか。誰も喜んではくれなかった。
「あんた、お腹に……」
「うん。彼の子供ができたの」
「堕ろさないと……早くしないと堕ろせなくなるよ」
「えっ?産むよ。彼も産んでいいって言ったの」
「結婚するのかい?」
「そうよ。一緒に住むの。家も探してくれたのよ」
「そうかい?一緒になるんなら……」
「なんで!なんでそんな事を言うの?ここで一緒に住むんでしょ」
「子供は産んでいい。金もだす。だが、結婚はできない」
「どう……どうして!」
「私の結婚が決まったんだ。家の繋がりもあるからな。大丈夫だ、今まで通りここで過ごせばいい」
どうして、どうしてそんな顔をしているの……
そんなに嬉しそうな柔らかい顔をして……
子供ができたって言ったら、喜んだじゃない……
ねえ、こっちを見て。この子を見てよ……
彼は礼服に着替えて、出ていった……
うれし……そうに……
あ、あたし、は、何?
なんなの?
テーブルに用意した夕食のカトラリーを……
思いっきりクロスごと引いき飛ばした……
ガチャガチャと音をたてて落ちていく……
グラスがカシャンと落ちて割れた……
し、幸せだったはずなのに……
子供と3人で始めるはずだったのに……
どうして……
やっぱり、あの女が無理矢理迫ったんだ……
だって、おかしいじゃない。一緒に暮らそうって言われたの……に……
ちがう……
彼は……暮らす家を探して来たって言った……だけ……
全部、じゅんびはしたって……
なんの?じゅんび?
うそ、うそ、うそよ!
この子と暮らすのよ。私と子供と……
「お前、彼女に、何を、言ったんだ」
いつの間にか彼は帰って来ていた。
「おかえりなさい。すぐ片付けるわ」
やっぱりここに帰って来てくれた。
「何故、彼女が、お前の事を、知っているんだ」
「なんのこと?」
「あの娘が知っていた。お前の事も子供の事も!」
「そんな事知らないわ。それより外に食べに行きましょう?いいでしょう?」
「そんな事とは何だ!彼女の事だぞ!私の大事な婚約者の事だ!」
「だったら何で私と寝たのよ!子供ができて嬉しいって言ったのは嘘なの!」
「子供は嬉しいさ。無理に彼女が産まなくてすむからな」
「なっ。なんで……」
「何もしてないならそれでいい。今日は帰る。ではな。また来る」
ばたんとドアが閉まる音……
独り遺された……
「あの娘が死んだ……もう……」
泣き崩れる彼を見て、ああ本当にあの人は死んだんだって。
「大丈夫よ、あなた……」
彼をそっと抱きしめて、言った。
「何が大丈夫なんだ……」
彼の目は狂気に蝕まれて……
ああ……今度は彼に殺されるんだ……そう思った……
ごめんね、赤ちゃん……産んであげられなかった……
うれしい……彼の手で死ねるのね。彼の手の中で……
一筋の涙が流れたが……気にする者は誰もいなかった……
一番損をしている気がするのに……
何故か、ああそうなるよね……って思いながら書いた。
次は彼からの視点かなぁ……