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―――それから一ヶ月。


俺はずっとナルを探し続けた。


大学時代のナルの友達や後輩、先輩・・・


ナルが行きそうな場所も思い当たる場所すべて・・・。




だけど・・・




ナルはどこにもいなかった。




ナル・・・




どこへ行ったんだ・・・?




どこへ・・・






デスクの上で両肘を付き、指を組んだ上に額を乗せて目を瞑っていると


後ろから澄子ちゃんの声がした。




「広瀬さん。」


俺は態と返事をしなかった。


今は誰かと会話する気になれなかったからだ。




だけど澄子ちゃんは俺が“話しかけるなオーラ”を出しているのに


「広瀬さん?」と俺の顔を覗き込んできた。




「・・・何?」


ため息をつきながら、少し不機嫌そうに返事をした俺に


澄子ちゃんは一瞬、眉間に皺をよせた。




「あの・・・明日、ハウスメーカーの展示場が新しくオープンするらしいんですけど、


 一緒に見に行きませんか?」


澄子ちゃんは“強制デート”の件があってしばらくは先生の手前、


おとなしくしていたけど、ここ最近また俺をあれやこれやと


休みの前の日になるといろいろ誘ってきていた。


だけど、俺はその度に断っていた。




ただでさえ、澄子ちゃんとあまり接触を持たないようにしていた。


それに、今はそれどころじゃない・・・。


澄子ちゃんに構っている暇があるならナルを捜したい・・・。




「ごめん・・・用事があるんだ。」




「・・・土曜日も日曜日もですか?」


“用事がある。”・・・そう言えば、だいたい「そうですか。」と言って、


諦めていた澄子ちゃんだけど、今日はなぜか食い下がってきた。




「うん・・・土曜日も日曜日も。」




「・・・彼女・・・ですか?」




「あぁ・・・。」


多分、澄子ちゃんは“彼女とデート”なのか?と言う意味で聞いてきたんだと思う。


それは違うけれど“彼女”の事には違いない。


だから、俺は敢えて“そうだ。”と答えた。




だけど、そんな俺に澄子ちゃんは意外な言葉を口にした。


「千秋さん・・・まだ広瀬さんと付き合ってるんですか・・・?」




その言葉の意味がまったくわからなかった。




「千秋さん・・・もういないんですよね・・・?」




え・・・?




「・・・?」


“もういない”・・・澄子ちゃんはナルがいなくなった事を知ってるのか?




「・・・。」


黙り込んだ澄子ちゃんは俺から少し視線を外し、俯いた。




「ナルがいなくなったの・・・どうして知ってるの?」




「・・・パパがそう言ってたから。」


俯いたまま澄子ちゃんは小さな声で答えた。




嘘だ・・・。




ナルがいなくなった事を知っているのは・・・


矢野と智子ちゃん・・・そして・・・日高・・・。


後はナルの家族だけ・・・。




俺は社内の誰にもナルがいなくなった事を話していなかった。


「最近、元気ないね。どうしたの?」と聞かれても


誰にも話していない・・・。


澄子ちゃんにも・・・先生にも・・・。




「俺・・・先生にその事話してないけど・・・?」




「え・・・?」


澄子ちゃんはハッと顔を上げた。




「澄子ちゃん・・・なんで知ってるの?」


俺は澄子ちゃんは顔を真っ直ぐに見つめた。




「・・・。」


澄子ちゃんは俺と目が合うと咄嗟に視線を外し、


また黙り込んだ。




「・・・何か・・・知ってるの・・・?」




澄子ちゃんが知らないはずの事を知っている・・・。


だとしたら・・・俺が知らない“何か”を澄子ちゃんは知っている・・・?




「・・・。」


相変わらず黙ったままの澄子ちゃんはキュッと唇を噛んだ。


そして、居た堪れなくなった彼女は踵を返し、事務所を出て行こうとした。




だけど・・・そうはさせない・・・っ!




俺は立ち上がって、澄子ちゃんの手首を掴んだ。




「っ!?」


驚いた顔で振り向いた澄子ちゃんの目には涙が滲んでいた。

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