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あー・・・疲れた・・・。
ホテルの部屋に戻った俺はすぐさまベッドに倒れこんだ。
今朝早くにいきなりトラブルが起きて大阪に来て
それからずっとろくにメシも食わずに仕事をしていた。
本当なら死ぬほど腹が減っているところだけど
脳みそまで疲れきっている所為か空腹なんてまったく感じていなかった。
油断したらなんかこのまま寝てしまいそうだけど、
その前にナルに電話、電話・・・。
ナルの声が聞きたい。
俺は携帯を手探りで出し、ナルの携帯へかけた。
数回コール音が聞こえ、なかなか出ないな・・・と思いつつ、
腕時計で時間を確認した。
11時前か・・・。
寝るにしては早いし、風呂にでも入っているのかもしれない。
まぁ、後で折り返し掛けてくるだろう。
俺は携帯を閉じてナルからの電話を待つことにした。
―――1時間後。
もう一度ナルに電話をしてみたけれど、やっぱり出ない。
どこかに携帯放置してるのかな?
おやすみメールだけ送っておくか・・・。
俺は睡魔と闘いつつ、なんとか1時間粘って起きていたけれど
もう限界だった・・・。
重い瞼をこすりながらメールを打ってすぐに目を閉じた。
―――翌日、朝。
ホテルのモーニングコールに起こされ、目が覚めた俺は
そういえば大阪にいるんだった・・・と思い出し、
朝から気が沈んだ。
最近はずっとナルの声に起こされていたから余計だ・・・。
ナルからメール来てるかな?
ナルのモーニングコールが聞けないならせめてモーニングメール・・・
と、思った俺は携帯を開いてまたがっかりした。
ナルからはメールも着信もなかったからだ。
おかしいな・・・。
いつもなら返してくれるのに。
忘れてるのか、それともまだ寝てるのかもな・・・?
だってまだ7時30分だし。
しかし、それからずっとナルが電話に出る事はなかった。
折り返し掛け直してくる事もなかった。
メールもまったく返って来ない。
おかしい・・・。
最初はただタイミングが悪いだけだと思っていた。
けど、いくらなんでも電話はともかくメールくらい普通返すだろ?
だって、俺はナルの彼氏なんだし・・・。
・・・まぁ、明日帰れることになったからいいけど。
トラブルはなんとか無事に4日で解決し、明日の朝東京に帰れることになった。
帰った後はそのままマンションに戻りたいところだけど
事務所に顔を出して先生に報告しなければならない。
あ〜ぁ、・・・早くナルに会いたいな・・・。
たった3,4日離れているだけなのに俺はもう禁断症状が出そうだった。
大阪に来てからずっとナルの声も聞けてないから・・・というのもある。
そしてやっとの事でようやく仕事を片付け、東京に戻った俺は
事務所に顔を出した。
先生との話を終え、マンションに帰ろうと席を立つと
澄子ちゃんが話しかけてきた。
「広瀬さん、一緒にランチ行きませんか?」
時計を見ると12時を少し過ぎたところだった。
ランチに行くにはちょうどいい時間だけど、
俺は少しでも早くナルに会いたかった。
「あー、ごめん。今日はもう帰るから。」
「えー、じゃー、ランチ食べて帰るっていうのはどうですか?」
「いや・・・早く帰りたいし・・・」
「私、広瀬さんがパパと話し終わるの待ってたんですよー?」
澄子ちゃんて、言い出すとしつこいからなぁ・・・。
「こら、澄子。」
どうしたものかと考えていると、今井先生が助けてくれた。
「広瀬は大阪から帰ったばっかりで疲れてるんだぞ?」
「わかってるけどー・・・。」
「だったら、今日のところは勘弁してやれよ。
それに広瀬だって早く帰って彼女の顔が見たいだろうし。な?」
先生は俺の顔をちらりと見た。
「・・・。」
ハイ、まったくもってその通り。
「・・・わかった。」
澄子ちゃんは先生に諭され、ムッとした表情で踵を返した。
それを見た先生は深いため息をつき、
「じゃ、広瀬。気をつけて帰れよ。」
と、言った。
先生・・・ありがとうっ。
先生のおかげで澄子ちゃんから解放された俺は
ようやくマンションに戻った。
「ただいまー・・・。」
シーン・・・―――。
あれ・・・?
ナル、いない?
「ナルー?」
リビングにもいない。
「ナル?」
寝室にもいない。
「ナルちゃ〜ん?」
風呂でもない・・・。
あとは・・・どこだ?
俺の書斎かな?
「ナルさ〜ん?」
あれ・・・いない。
じゃあ・・・後はもう一つの部屋?
てか、これだけ呼んでるのに出てこないって事は
やっぱいないのか。
買い物にでも行ってるのか、また面接にでも行っているのかもしれない。
・・・だけど、俺はなんだかものすごく嫌な予感がした。
数日前からずっと繋がらないままのナルの携帯。
いつもなら折り返し掛けてくるはずなのに
まったく掛かって来ない事やメールすらない事・・・。
それに・・・部屋の中をよく見ると
ナルが使っていた物が全てなくなっている。
俺は急いでナルのアパートに向かった。