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月曜日、夕方。
もう少しで定時という時、携帯にメールが届いた。
仕事中は一応、マナーモードにしているから
携帯がブルブルと震えるだけで着信音は鳴らない。
先輩かな・・・?
そう思い、メールを開くと・・・
意外な人物からだった。
−−−−−
話したい事がある。
『Aruru』で待ってるから
仕事が終わったら来てほしい。
−−−−−
康成さんからだった。
話って・・・何?
今さらなんの話があるっていうの?
私は康成さんの話なんて聞くつもりも『Aruru』に行くつもりもなかった。
もちろん・・・その事を伝えようとメールを返すつもりもない。
それから、次の日もまた次の日も康成さんからメールが来た。
だけど私はそれでもメールを返さないでいた。
そして木曜日、仕事が終わって更衣室で着替えていると携帯が鳴った。
着信表示を見ると康成さんからだった。
出たほうがいいのかな?
月曜日からずっとメールしてきているし、
何かよっぽど重要な用なのかもしれない・・・。
思い切って出てみようと思い、携帯の通話ボタンを
押そうとした時、更衣室に佐伯さんが入ってきた。
私は思わず携帯の終了ボタンを押して電話を切った。
それを見た佐伯さんは無言で私を睨みつけた。
何なの一体・・・。
気分を害したまま更衣室を出て、帰宅しようと会社を出ると
いきなり後ろから誰かに腕を掴まれた。
「っ!?」
誰っ?
振り向いて見ると、康成さんだった。
「ごめん・・・驚かせて。」
もしかして・・・待ち伏せしてた?
「話があるんだ。」
「・・・。」
私は、どうしようか迷った。
別に今さら康成さんの話を聞くつもりもないし、
聞いたところで何が変わるわけでもないだろう。
だけど、何度もメールが来て電話がかかって来て
こうして待ち伏せまでするという事は・・・
聞くだけでも聞いたほうがいいんだろうか?
それとも・・・
「康成さん。」
不意に康成さんの後ろから声がした。
康成さんはその声に振り向くと少し眉を顰めた。
・・・佐伯さんだった。
康成さんの手から力が抜け、私は掴まれていた腕を離して
咄嗟に無言で踵を返した。
「・・・愛美っ!」
「康成さんっ。」
康成さんが私を追いかけようとした瞬間、
佐伯さんがそれを制した。
後ろで二人の声が聞こえる。
ケンカしているみたいだ。
康成さんと佐伯さん・・・上手くいってないのかな?
でも、婚約までしてるんだし・・・
・・・て、別に私が気にすることじゃないか。
―――翌日、金曜日。
いつもなら仕事が終わると先輩の部屋に行くんだけれど、
今日は出張で先輩はいない。
明日の夜に帰ってくる予定だ。
だから私は自分のアパートに帰る事にした。
電車に乗って外の風景を眺めていると先輩のマンションが見えた。
・・・早く会いたいな・・・。
本当は先輩と毎日でも会いたい。
康成さんと付き合っていた時はそんな事思わなかったのに・・・。
でもそれは会社が同じだから顔だけでも見ようと思えば
見ることができたからかもしれないけど。
先輩、早く帰ってこないかなぁ・・・。
明日何時に帰ってくるのかな?
アパートに着いて、2階にある自分の部屋へと
繋がっている階段をあがると人影が見えた。
黒っぽいスーツを着た長身の男性だ。
しかも、その男性は私の部屋の前にいる。
・・・誰?
私はゆっくりと男性に近づいた。
「・・・康成さん。」
私の部屋の前にいたのは康成さんだった。
「愛美。」
康成さんは私に気がつくと、立ち止まってしまった私に近づいてきた。
「どうしても話がしたくて・・・。」
・・・どうしても?
「愛美・・・もう一度、俺とやり直してくれないか・・・?」
・・・何を言っているの・・・?
「あいつ・・・嘘だったんだ・・・。」
・・・嘘?
「どういう・・・事?」
「千鶴のヤツ・・・妊娠なんてしていなかったんだ。」
「え・・・?」
それって・・・
「子供なんて出来てなかったんだよ。」