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「澄子ちゃん・・・っ!?」


ナルと一緒に夕食の買い物を済ませ、俺のマンションに戻ると


澄子ちゃんが部屋の前に立っていた。




「・・・千秋さん・・・?」


澄子ちゃんは俺の隣にいるナルに視線を向けた。




「どうして千秋さんが広瀬さんと一緒にいるんですか?」


彼女が少し強い口調でそう言うと、繋いでいた手から力が抜けたナルは


ほんの少しだけ後退りした。




「俺の彼女だから。」


俺はナルの手をぎゅっと握った。




「・・・。」


澄子ちゃんは驚いた表情のまま、今度は俺に視線を移した。




「澄子ちゃん・・・どうしてここに?」




なんとなく理由はわかっているけれど・・・。




「・・・明日・・・どうしてもダメですか・・・?」




・・・やっぱり・・・あの事か。




「今井先生にも言われただろ?」


「明日はちゃんと資料集めに専念しますから・・・っ!」


「一人でできない事ないだろ?」


「でも・・・一人だと・・・」


「だったら同じ大学の子と協力してやれば?」


「私・・・っ、広瀬さんに手伝ってもらいたいんですっ。」


「悪いけど・・・無理だよ、手伝えない。」


「パパに言われたからですか?」


「違うよ・・・例え先生にまた命令されたとしても俺は断ってた。」


「じゃあ・・・どうして・・・?」


「彼女との時間を大切にしたいから。」


「それなら・・・せめて土曜日か日曜日のどちらかだけでも・・・」


「ダメ。」


「・・・。」


「とにかく・・・俺が手伝うことはできないから。」


そう言い放ち、俺はナルの手をひいて澄子ちゃんの横を通り過ぎた。


部屋の鍵を開けて、先にナルを入れてから俺も部屋に入ろうとした時、


澄子ちゃんが泣き出した。




「・・・せ、先輩・・・。」


ナルにも澄子ちゃんの泣き声が聞こえたらしく、


不安そうな顔で俺を見上げていた。


俺は澄子ちゃんを振り返ることもせずドアを閉めた。




「先輩・・・澄子さん、放っておいていいんですか?」




「いいよ、俺が行ってもしてやれる事は何もない。」




「でも・・・」




「それに今、俺が行けばナルを放っておく事になる。


 ナルはそれでもいいの・・・?」




「それは・・・」




いいわけないよな?




「・・・例え、ナルがそれでいいって言っても俺は嫌だから。」


ナルの事だから無理してそれでも行ってやれと言うかもしれない・・・


そう思った俺はナルの口が開く前に言った。




そして俺がリビングに入ってもナルはまだ外の様子をなんとなく気にして


玄関に立ったままだった。


「おいで・・・ナル。」




「・・・はい。」


俺が呼ぶとナルはやっとリビングに入ってきた。




「澄子ちゃんてさ、一人っ子で甘やかされて育ってきた所為か、


 何でも自分の思い通りにならないと気が済まない性格なんだよ。」


実はスーパーでナルと買い物をしている時も


澄子ちゃんから携帯に電話があった。


マナーモードにしてて出なかったからナルには気付かれなかったけど。




「今朝も散々、先生に叱られて俺も何度も断ったのに・・・。」




「そうなんですか・・・。」




「それより、ナル、何からすればいい?ジャガイモの皮むき?」




「え・・・?あ、はい。」




買い物袋からコロッケの材料を出し、ナルと一緒に夕食作り。


これがまた楽しかったりする。


ナルは以前、“自称・三流シェフ”だとか言ってたけど、


実は全然そんな事はない。


味はもちろん、手際だっていい。


手が込んだ物は無理です・・・と、この間も胸を張って言っていたけど、


レパートリーは少なくない方だと思う。






「できたーっ!」


「んー、うまそー!」


揚げたてのコロッケと野菜スープ、ほかほかの炊き立てご飯と


冷蔵庫から冷やしておいたサラダを出してテーブルに並べた。


まさしく“幸せ家族の食卓の図”。




「「いただきまーす!」」


コロッケを一口食べると中からほくほくと湯気があがった。




「おいしい!」


「ホントですか?」


「うん、やっぱナルのコロッケ最高!」


「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです。」


ナルは少し照れながら嬉しそうに笑った。




最高なのはコロッケだけじゃないんだけどな。




あんまり褒めるとナルの場合、真っ赤になって俯いてしゃべらなくなるし。


照れながら嬉しそうに笑う顔がすごく可愛いから、


褒めるのはとりあえずこれくらいにしておく。


付き合い始めて2ヶ月目で覚えた“小技”・・・だったりなんかする。

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