-10-
「資料集めはもう行かないよ。」
「・・・でも・・・澄子さん、やっぱり一人じゃ
大変なんじゃないですか?・・・課題のお手伝いなら・・・。」
「そんな事ないよ、だいたい課題の資料集めとか言って、
結局あちこち連れ回されただけで、買い物にも付き合わされたし。
ほとんどデートみたいなもんだったんだぞ?」
「で、でーとぉ・・・?」
「そーだよ、だからあんなのもう手伝わなくていいの。
こっちが疲れるだけだよ・・・。」
「・・・むー・・・ずるい・・・私だって先輩とデートしたいです。」
俺と澄子ちゃんがデートしたと聞いて、ナルは口を尖らせた。
そんな顔をするところが少し子供っぽくてまた可愛い・・・と思ったけど、
“俺とデートしたい”と素直に感情を口にしてくれた事が
俺は嬉しかった。
「俺だってナルとデートしたいよ。」
ナルの尖らせた口にキスしようと俺は顔を近づけた。
「でも、当分はダメです。」
だけどナルは口を尖らせたままプイッと顔を背けた。
「えー、なんで!?」
やば・・・マジで怒ったのかな・・・?
「病人だからですよー。」
あ・・・そーゆーコト?
「じゃ、治ったらデートしてくれる?」
「はい、もちろんです。」
ナルはにっこり笑った。
「ところで・・・先輩。」
「ん?」
「おなかすいてませんか?」
「あ・・・減ってるかも・・・。」
そういえば、何も食べてないんだった・・・。
いつもなら週末、ナルと一緒に買い物に行く。
だけど先週は澄子ちゃんとの“強制デート”があってナルと会えなくて
まともに買い物もしていない。
今からナルとメシを食いに行くにしても
俺はまだ熱で動けそうにないしなぁ・・・。
「先輩、鍋焼きうどんなら食べられそうですか?」
「うん。」
・・・この辺に鍋焼きうどんの店なんてあったっけ・・・?
「じゃあ、出来たら呼びに来ますから、それまで寝ててください。」
ナルはそう言うと寝室を出て、キッチンへと消えていった。
・・・“出来たら”って・・・ナル、買い物行って来たのかな?
それにこのアイスノン・・・
しかもおでこに貼ってあるこの冷却シート・・・。
こんなの家になかったよな・・・?
それから15分くらい経った頃、ナルが寝室に俺を迎えにきた。
ダイニングテーブルの上には鍋焼きうどんが用意してあった。
「ナル・・・買い物行ってきたのか?」
「はい、ついでに先輩の部屋なんにもなかったから最低限のモノだけですけど、
買ってきちゃいました。」
「重くなかった?」
「大丈夫でしたよ。」
「ごめん・・・いろいろありがとな。」
「・・・だって、私は先輩の“彼女”ですから。」
ナルはそう言うと少し照れたように笑った。
「あ・・・そういえば、ナル。」
「はい?」
「今朝、矢野から電話があった時に聞いたけど、
ナルも昨日、風邪で会社休んだんだろ?
もう大丈夫なのか?」
一昨日の雨の中、俺の部屋を飛び出した後、
ナルはしばらく待ってもアパートへは戻ってこなかった。
多分ずっと外にいて、その時に風邪ひいたんだろう。
「あ、私の方はたいした事なかったですし、
昨日一日寝てたらすっかり治りました。」
「そっか、それならよかった。」
考えてみればたいした事あったら俺のところに
こうして来てるはずいないか・・・。
“最低限のモノ”・・・ナルはそう言ったけど、
家の中にはなんだかいろいろと増えていた。
さっきのアイスノンといい、冷却シートといい、
そして今、目の前にある風邪薬。
食事が終わった後、水と一緒にナルが出してくれた。
さらにさっき冷蔵庫を開けたら、ポカリまであった。
しかも1リットルサイズのが。
鍋焼きうどんの材料といい・・・
絶対これ二往復くらいしてるだろ・・・。
その日の夜、ナルは俺の部屋に泊まった。
夜中に何度か起きて俺の布団を掛け直してくれたり、
アイスノンや冷却シートを取り替えてくれたりした。
ここ数年は風邪なんてひくこともなかったし、
ナルが来てくれるまで死にそうだったけど・・・
たまには風邪をひいて熱を出すのも悪くない・・・と思った。
・・・だって・・・ナルがいろいろ世話を焼いてくれるから。
ナルの方は大変なんだろうけど。
ちなみに、ナルは付き合い始めてから毎週末、
俺の部屋に泊まっているから急に泊まることになっても
困らなかったりする。
・・・て、言うか・・・俺達・・・別々に暮らす意味ってあるのか?
俺は常にナルと一緒にいたいと思っている・・・
日曜日の夜、ナルをアパートまで送って一人でこの部屋に
帰って来る時なんてものすごく寂しいと感じるもんなぁ・・・。
ナルは・・・どう思ってるのかな・・・?