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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第六章:宇宙滅亡編
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16-虚空への旅立ち

 西暦2315年、1月7日。

 パリ陥落から二週間余り、急ピッチで進められた国連軍の大規模兵員輸送プロジェクトが始められようとしていた。彼らが目指す場所は、宇宙。


 地上からの攻撃で質量兵器を撃墜することは出来ない。また、宇宙に展開している戦力を集中させても質量兵器を破壊することは出来ないだろう。質量を削り、軌道を逸らし、圧縮断熱効果による溶解や大気に弾かれての軌道脱出を期待する方がよほど現実的だ。

 宇宙へと上がった国連軍の兵士に要求される任務は、ただ一つ。質量兵器の護衛とコントロールを行う火星軍を撃破し、地球への攻撃を阻止することだ。


「まさか生きているうちに地球から出ることになるとは思わなかった……」


 イスカは宇宙服のフィッティングを確かめながらぼやいた。軽量、薄手の特殊合成繊維で作られた宇宙服は有害な放射線を遮断するように出来ている。強烈な光線を防ぎ、ARで視界を確保するヘルメット。背中に取り付けられたエアタンク。単独で宇宙空間に放り出されようとも、24時間は生きられるように設計されている。


『かつては宇宙に出るのが人々の夢だったそうですよ』

「時代は変わったもんですね。僕は行きたいなんて思ったことがない」

『お前たち、無駄口を叩いている暇があればさっさと機体のセッティングを終了させろ。打ち上げまで何時間もない、宇宙に上がった瞬間死にたくなければさっさと作業しろ』


 ソルカと話していると、アスタルが不機嫌な声でそれを遮った。あの鉄人のような男も宇宙に怯んでいるのだろうか、と考えると少しだけ親近感が湧く。

 宇宙用の機動兵器セッティング。重力も地面も存在しない宇宙空間で、しかも国連軍のバトルウェアが戦うのは初めてだ。自分たちがテストケースになるのだ。指針となるのは、僅かに解析することが出来た火星軍機のデータ。


(火星の奴とは全然違う。でもあれを基にするしかないんだよな……)


 スラスターの噴射圧。手足の動きの一つ一つ。起こしたアクションの一つ一つがエネルギーを生み、しかもそれは減衰しない。下手をすればスラスターを噴射したまま永遠に等速直線運動を続け、宇宙の果てまで送られてしまうのではないだろうか。下らない妄想だが、切って捨てるのも憚られた。

 調整を行いながら考える。火星皇帝グスタフのことを。


(これはもはや戦争じゃない。ただの虐殺だ。虐殺に意味なんてない。利益もない。皇帝は無意味な虐殺を肯定しているんだろうか……?)


 戦争は経済的な目的で始まる。流れる血も破壊される生活もすべて金銭的利益に帰結する。少なくともイスカはそう習ってきた。

 だがいまの戦争は、違う。ありとあらゆるものを根こそぎ破壊し、殺戮の限りを尽くさんとするその様はもはや戦争ではない。すべてを平らにした後、いったい何が残るというのだろうか? そこにどんなものがあるのだろうか。


(それとも……そうしなければいけない理由があるのか?)


 人類を滅ぼし、地球を破壊してでも達成しなければならない目的。それはいったいどんなものなのだろう? どんな崇高さを帯びているのだろう。自分のしていることは、本当に正しいことなのだろうか。答えの出ない疑問がグルグルとイスカの頭を駆け回る。


『総員、持ち場にて待機。発進許可が出ました、200秒後に決行します』


 オペレーターの無機質な声が聞こえて来た。イスカはシートベルトを締め、ヘルメットのバイザーを下ろした。視界が制限されるのであまり使いたくないのだが、コックピットハッチが損傷した時命を助けてくれるのはこれだけだ。これから、宇宙に昇るのだから。

 マスドライバー施設に設置された航宙戦艦『ストレイン』の格納庫に、いまイスカたちはいる。鉛筆のような円錐形の戦艦の側面をぐるりと回るように格納庫は設置されており、地上では使い物にならないが宇宙空間では360度、あらゆる場所から機動兵器を出撃させられるようになっている。


 そう。地上では使い物にならない。

 だから周囲を取り囲む敵に手も足も出せない。


(僕たちを宇宙に上げるために、どれほどの人が犠牲になっているんだろう?)


 いまも外では戦いが続いている。戦局を表す簡易図上では赤い点がいくつも明滅しては消えて行く。概ね火星軍優勢で進んでいるが、200秒後に発進出来るということは最低限の仕事は果たしているのだろう。


 消えて行く。命が。

 何の感動もなく。


『ストレイン、発進! 総員、衝撃に備えてください!』


 ストレインのブースターが作動、重い機体がゆっくりと押し出される。同時にマスドライバーの電磁加速機構が作動、それを後押しする。襲い掛かって来る凄まじいG、前進が押し潰されるのではないかと思うほどだ。イスカは歯を食いしばって、それに耐えた。

 天地が逆さまになり、全身の血液が肉体から分離しどこかへ飛んで行ってしまうような感覚を覚えた。やがてそれもなくなり、唐突に浮遊感が全身を包み込んだ。


「重力が、なくなった? 宇宙に、出たんだ……」


 重力の軛から脱した。地球から出たのだ。

 だが感慨を抱いている暇さえもない。


『機動兵器隊、出撃準備を! 前方距離100、質量兵器護衛隊が視界内に!』


 休む暇も、無重力に慣れる暇さえもなく、次の戦いが始まってしまった。


「行きましょう、アスタルさん。御堂さん。ソルカさん。みんな」


 ストレインにいるのはイスカたちだけではない。地球で組み込まれた精鋭たちもだ。誰もがこの星を守るため、一丸になって戦っている。


(正しいとか、正しくないとか、そんなものはどうだっていいんだ)


 ストレインのアームがイスカたちを固定、ハッチへと運んで行く。


(戦う……! いまの僕に必要なのは、それだけなんだ!)


 ハッチが開く。無限の虚空が広がる。

 想像していたより、宇宙は美しくなかった。


 当然だ、この虚無は無数の死によって出来ているのだから。


 各機、発進。

 ふわりとした不愉快な浮遊感に包まれながら、彼らの戦いは始まった。

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