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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第一章:機甲騎士の目覚め
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02-すべてを消し去る青い光

 黒煙とともに砲とミサイルが放たれる。ゲゼルシャフトたちはそれをシールドで受け止めたり、着弾点予測からのサイドステップでかわしたりした。だが、ステップで避けた機体の膝関節が唐突に爆発した。


『我々が足を止める、その隙に!』


 対バトルウェアバズーカを背負った装甲(アームド)歩兵(アーマー)小隊隊長、レイル・ミツルギが遮蔽物の影に隠れながらヘリ部隊に通達する。アスタルが操るヘリは銃火を巧みに避け足を止めた機体に接近、至近距離でミサイルを叩き込んだ。

 ゲゼルシャフトたちは都市部ごと敵を始末しようとするが、それを基地の砲撃が妨害する。雨霰の如く降り注ぐ砲火に、兵士たちは気勢を殺がれた。


『私が砲を黙らせます。皆さん、攻撃部隊をお願いします』


 マルグリットの乗るゲルダが背負っていた手持ち式のキャノン砲を取り出し構える。彼女は基地からの砲撃タイミングに合わせてトリガーを引いた。まるで吸い込まれるように砲弾は固定砲台に着弾した。

 砲が一つ潰れる度にゲゼルシャフトたちの攻撃が段々と激しくなっていく。どうすればいいか、イスカは本能的にそれを理解していた。


「頭を潰す……こいつを殺せばあいつらだって止まるはずだ……!」

『俺は倒れない。火星帝国の理想を成就する、その時まで決して!』


 アッシュが付き込んだ剣を右の刀で逸らし、左の刀で切り返す。だが防御のために動きを制限され、刀は空を切った。突いた剣を引き戻しアッシュはなぎ払う。危うく後方へのショートジャンプでそれを避けるが、胸部装甲板に浅い裂傷が刻まれた。視界の端で(アームド)(アーマー)がゲゼルシャフトに蹴り飛ばされた。

 ゲゼルシャフト2機が反転し、イスカに銃撃を加える。背中を見せた敵を攻撃しようとする国連軍だが、残った4機の攻勢によりそれも上手くいかない。イスカはアッシュの剣とアサルトライフルの銃火を凌ぎながら策を考えた。


(機体性能じゃ負けてないはずなのに押されてる。これは乗り手の問題だ、あいつは僕よりも数段上のところにいる……!)


 腕の競い合いでは勝てない。そうこうしている間に砲台は削られ僚機は撃墜されて行く。ならば勝負を決めるのは腕以外のところだ。

 イスカはバックステップで大きく距離を取りつつ両肩のミサイルランチャーを発射。アッシュは損傷を嫌いサイドに跳びゲゼルシャフトは攻撃を受け止めるべくシールドを構えた。だがイスカは自分が放ったミサイルにガトリングのシャワーを浴びせた。


「なにっ!?」


 銃弾を受けたミサイルが爆発を引き起こし、周囲に黒煙を撒いた。それを側面から見ていたアッシュは仲間に警告を発するが、遅かった。


 イスカは煙幕を迂回しゲゼルシャフトに最接近、構えられた盾の隙間を縫って左の刀をコックピットに突き込んだ。対バトルウェア用の超硬度実体刀と言えど、ゲゼルシャフトの装甲を一撃で切り裂くのは容易なことではない。だが、ハッチの隙間、構造的脆弱点を突く一撃であるならば話は別だ。

 イスカの動きに反応し、もう一機のゲゼルシャフトがアサルトライフルを発砲。イスカは自分が倒したゲゼルシャフトを盾にして攻撃をやり過ごし跳躍。捻りを加えた跳躍からの浴びせ蹴りを打ち込んだ。


『何なんだ、あの機体の柔軟性は!?』


 それはアッシュたちが持つバトルウェアの常識とはかけ離れた動きだった。強くしなやかな人工筋肉、重力制御、運動制御プログラム。そしてイスカの発想。知らぬが故の強みがキャバリアーを無敵の機甲騎士へと変えた。

 ゲゼルシャフトは腕で蹴りを受け止めた。フレームが軋みを上げる。イスカは脚部ロケットランチャーを発射、軌道上にあったゲゼルシャフトの頭部を破壊し反動で反転、着地。目を失ったゲゼルシャフトの胴体を二刀で切り裂き、完全に破壊した。


『荒々しい……! この獣は、ここで確実に仕留めなければ!』


 アッシュは剣を大仰に構え直し、スラスターに点火。質量と速度を持ってして突き込んで来る。マックススピードに乗っていないとはいえ、元々重量で勝るゲルダの突撃を受ければキャバリアーでは受け止め切れないだろう。


「言っただろう、こんなところで死んでたまるかってさァーッ!」


 イスカは右の刀をアッシュに投げつけた。


『くっ……!? 小癪な、真似を!』


 アッシュは剣を薙ぎそれを受け流す。イスカは左の刀を逆手に構え切り返された剣を受け止め、右手をゲルダのコックピットに合わせる。そして右スロットルレバー上部のカバーを外し、これ見よがしに配置された赤いボタンを押した。


 重力フィールド形成。

 エネルギー充填。

 『ビームイレイザー』発射。


 モニターを目まぐるしく文字が躍る。

 右掌が青白く発光するのを二人は見た。


『これは……!? いったい、何だ!』

「何でもいい! これで終わりだ、火帝の兵士!」


 右掌から圧倒的な熱量が放出された。重力フィールドによって制御、収束されたエネルギーは半径数メートル内にある物体を焼き尽くし、消滅させる。それがバトルウェアの装甲であろうとも、何であろうともだ。

 そういう意味でアッシュの勘はよかった。イスカが右手に何らかの仕掛けを施していると直感し、咄嗟に左肩を突き出したのだ。肩が溶融したのを見てスラスターを逆噴射させ機体を押し留める。フィールドの形成時間は二秒ほど、左半身が消えるのには十分な時間だったが、アッシュは何とか命を繋いだ。


『くっ……!? これが、国連の最新兵器の力なのか!』


 アッシュはイスカとすれ違い、大きく距離を取った。そして腰のポーチに取り付けられていた信号弾を発射し、味方に撤退指示を出した。


『情けない……仲間を三人失いながらもおめおめと後退するとは!』

『各機、撤退します! 殿は私が勤めますので、皆は隊長を!』


 バトルウェアの軍勢は弾幕を張りながら、再び海の方に撤退していった。イスカは追いかけようとしたが、アスタルはそれを制した。次の瞬間右腕が爆発し、使い物にならなくなった。


『市民、及び技術班の避難も完了した。我々は一刻も早くここから後退し、木更津方面へと逃れる。お前も来るんだ、イスカ。これは勝ちなんだ』


 勝ち。

 敵を仕留め切れず、逃がし、街にもこれだけの被害をもたらしながら、勝ち。勝ちとはいったい何なのか、分からなくなった。


 そして自然に人を殺す思考を選択していることを自覚し、少し恥じた。

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