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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第五章:欧州塵滅編
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14-闇

 ビームで焼き捨てられた島田は死体も回収することが出来なかった。鉄の棺桶だけが彼女の存在証明。葬式にはアレの破片でも持って行くのだろうか、とイスカは不謹慎なことを考えた。悲しみは擦り切れてどこかに消えてしまった。


「島田さんのことは残念だったな……まあ、あんまり落ち込むなよ」


 ぼんやりと機体を眺めていると、御堂に肩を叩かれた。どうやら落ち込んでいるように見えたらしい、とイスカは困ったように笑みを作った。


「大丈夫だよ、御堂さん。僕は平気だ」

「一番近くにいたから、気に病んでたんじゃないかって思ってな」


 確かに、あの時島田の近くにいたのはイスカだ。突き飛ばせば助けられただろうか? ビームを回避するには間に合わない。どちらも死んでいただけだろう。あの時自分だけで避けた、その判断は恐らく間違っていないとイスカは思った。


「それより、これからどうするんだろうね。火星軍は撤退したけど」

「んっ……石動さんが上から指示を受けてるって。まあ、俺たちのすることはそう変わらないだろうけどさ。前に進むだけさ」


 少しだけ御堂は面食らったような表情をした。


「海東、それに御堂」


 話していると、アスタルが近付いてきた。


「島田が抜けた穴を埋めなければならん。シフトを組み直すぞ」

「了解です。一人シフトにするわけにはいきませんから……」

「六時間交代シフトだ。休憩時間は短くなったが、仕方があるまい。このあたりでは人員の補充もままならんからな。この作戦が終わるまでの辛抱だ」


 眠る時間が短くなるのは面倒だな、とイスカは思い息を吐いた。


■◆■◆■◆■◆■◆■


 パリ中心街には尖塔が立っている。エッフェル塔ではない、二百年以上前に取り壊された。いまそこに立ち、都市を睥睨しているのは、兵器だ。

 全高400m。対空レーザー、機関砲、ミサイル、砲門完備。地面に突き立てられた剣のような形をしたそれは、火星軍の拠点侵攻・制圧用の機動要塞。『テュルフィング』と名付けられたそれは衛星軌道上から降下し、目標を貫き押し潰す。


 テュルフィング、機動兵器格納ブロック。アッシュは壁を強く叩いた。


「八つ当たりですか、大尉。あなたらしくありませんね」

「すまんな……だが、私は。二人の部下を死なせてしまった」


 アッシュの面持ちは沈痛だった。こうなった責任は、少なくともその一端は、自分にある。責任感の強いアッシュはそう考えていた。

 そして、それは当たらずしも遠からずといったところだった。皇帝親衛隊に任命され、火星へ戻り、皇帝との謁見を行ったその日から迷いが生まれた。


 百年単位の地球化(テラフォーミング)が行われたとはいえ、火星の大地は未だ過酷だ。地球に降りてからその思いが更に強くなった。緑の大地、青の星。それと比べれば火星には『赤』がしみ込んでいる。住民たちの血で彩られた『赤』が。

 希少な水は行政によって管理され、市民たちの手に届くのはごく僅か。僅かな飲水を求めて殺し合いを行うものたち、それらを独占し不当な利益を得るものたち。そしてそれを摘発するものたちとのいたちごっこが未だに続いている。


 食糧事情も逼迫している。火星本土と周辺コロニー群で食料を賄ってはいるものの、コロニーの設備は老朽化し頻繁に止まる。かといって本土で潤沢な食料が作れるわけでもない。食物の生育に適した土地が、火星全体の居住可能区域の半分にも満たないことが原因だ。結果として人々に行き渡る食料は少なくなる。

 誰もが飢えと渇きに苦しんでいる。このまま戦争を続ければ、早晩行き詰るだろう。アッシュは謁見の折り、国連軍との講和を進言した。しかし。


「貴様の懸念はもっともなものだ、シュナイダー大尉。だが、案ずることはない。我に策はある。お前たちは迷うことなく……戦い続けて行けばいい」


 穏やかだが反論を許さない厳しい口調だった。むしろ、あの場で処断されなかっただけ幸運だったのかもしれない。分かったのは、皇帝は決して戦いを止める気はないということ。そして火星本隊もそれに同調しているということだ。


(いったいどのようなお考えがあるというのですか、陛下。これ以上泥沼の戦いを続けたところで、どんな未来があるというのですか……)


 そしてアッシュが思っていた以上に、国連への、地球への恨みは深かった。火星へ上がったアッシュがこうして地球へ戻されたところからも分かる。皇帝か親衛隊の上層部か、そのどちらかは分からないが恨みを買ったのだろう。

 戦いを終わらせるために軍人になった。それを実現するために努力もしてきた。だがそれは、本当に正しいことだったのだろうか。正しいと認知されることだったのだろうか。疑念が膨らみ、段々と自分自身さえ信じられなくなる。


「……本当にどうしたのですか、大尉?」


 マルグリットは怪訝な表情でアッシュの顔を覗き込んだ。


「お疲れのようですね。次回の会議には私が出席しますから、お休みになられてはいかがですか? 私でも、それくらいのことは出来ますし……」

「いや、気にしないでくれ少尉。こんなことでへこたれていては死んだ部下に申し訳が立たんよ……私は、大丈夫だ」


 アッシュは無理に笑みを作り、顔を上げた。


(偉そうなことを言っておいて、アンタも人を殺すことしか出来ないのか!)


 イスカの言葉を思い出すと、胸の奥がムカムカとした。


(何も反論出来ない……私はただ、いたずらに死を広めているだけでは……)


 一度そう考えてしまうと、止まらなかった。余計なことまで考えてしまう。


(私だけではない。皇帝陛下も、欧州方面軍司令も……ここのところ敵と当たっては撤退を繰り返しているだけではないか。これでは、まるで……)


 まるで、敵を懐深くに誘い込んでいるようではないか?


(『テュルフィング』の膝元まで誘い込んだとして、いったい何をするつもりだ? この一件無秩序な作戦行動の先に、いったい何があるのだ?)


 膨らむ疑念。

 拭い切れぬ猜疑。

 アッシュは一つの決断を下した。


(……調べてみるか。いったい、彼らが何を考えているのかを……)


 相手の心を見通すことなど出来ない。何を考えているのかなど完全には分からない。だが、分かろうとすることを止めれば世界は闇に包まれる。


◆■◆■◆■◆■◆■◆

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