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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第五章:欧州塵滅編
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14-雪よりも深く

 膨大なエネルギー同士が衝突し、弾けた。衝撃波が雪を舞い上げ崩れかかった建物を破壊した。イスカはステップを踏みながらビームライフルを連射、アッシュも左右に機体を揺さぶりかわす。数発ごとにプルバップマガジンめいたバッテリーが排出される。


「偉そうなことを言っておいて、アンタも人を殺すことしか出来ないのか!」


 島田の死に怒っているわけではない。むしろ、イスカは冷静だった。これまでの戦い、人死にが出ることも少なくなかった。戦いの中において、守りたい人が死ぬのは当たり前。イスカの心は冷え切っていた。凍土の大地よりも。


『くっ、黙れ……! 私に、間違いはない……!』


 一方で、アッシュの動きは精彩を欠いていた。アッシュは長大なライフルをイスカに向けトリガーを引く。直線的な攻撃、回避は容易かった。

 三か月ぶりにアッシュと戦ったが、イスカは彼との戦いを鮮明に覚えていた。欧州を転戦し、エースパイロットと呼ばれる人間とも何度か戦った。そして尽く滅ぼして来た。アッシュほど腕の立つパイロットは存在しなかった。


 そのアッシュが精彩を欠いている。チャンスだった。


「アッシュ! ここで死ねぇっ!」


 降下してくるブリッツフントを、イスカは弾幕で出迎えた。肩のキャノン、両腕のアサルト、ガトリングガンとレールキャノン。更に脚部ロケットランチャー。キャバリアーに搭載された一個小隊にも匹敵する火力が前面に集中した。

 アッシュはジグザグ飛行でそれを交わそうとするが、避け切れず右肩に被弾した。ショルダーアーマーを丸ごと粉砕され、苦し気な声を上げる


「これでとどめ……」


 被弾し体勢を崩したアッシュを追い詰めようとするイスカ。だがそれを阻むものがいた。地平線の彼方から飛来する弾丸をイスカは見た。

 エスピル基地でイスカを撃墜した狙撃機体。頭部を狙って放たれた弾丸が少し前を通り過ぎ、少し遅れて音が聞こえた。避けられたのはほとんどラッキーだ。二発、三発と撃ち込まれるが、そちらは発射炎が見えるので余裕があった。


「ソルカさん、アーサーさん。スナイパーです、対処願います」


 弾倉を回転させ散弾をセット、ノールックで狙撃機に向けて撃ち込んだ。砲弾は100m手前で爆発し、ベアリング弾を周囲に撒き散らした。機体自体はともかくセンサー類に当たれば十分な威力を期待出来る。敵も防御せざるを得ない、その隙を仲間が突いた。

 狙撃機に銃火が収束する。これで打ち合いに集中出来る。


『大尉、下がって! こいつは俺がどうにかします!』


 そう思ったがもう一機、割り込んで来る機体があった。それは大型の斬馬刀めいた奇怪な得物を携えたドラッケンで、両肩にシールドを装着していた。背部にはスラスターユニットを増設、機動性と瞬発力を高めている。普通であれば扱うのも難しいであろう長物を、まるで手足のように操って見せる。

 イスカは舌打ちしバックジャンプを打った。胴体を両断せんと放たれた恐るべき一撃は空を切る。イスカはグレネード弾を撃ち込んだが、ドラッケンは逆手に持ったアサルトのトリガーを引き空中でグレネード弾を撃ち落とした。小爆発が起き、破片が二人を襲う。


「その声、レン・グラウツ伍長か! まるで忠犬だな、主の危機に馳せ参じたってか!」

『そりゃ上司が殺されそうになってんなら、助けに入るのが部下の役目だろ』


 イスカの挑発にはまるで応じない。彼とはアラビア半島に入った時に一回、カインドに乗った時に一回戦っている。だが、その時とは比べ物にならない力を持っていると認めざるを得なかった。強敵だ、これまで戦ってきた相手同様。

 イスカはアサルトでレンを牽制。レンは斬馬刀を立てて正中線に撃ち込まれた弾丸を受け止めた。長く広い刀身は盾代わりに利用するにはもってこいだ。どう攻めるべきか、そう考えていると地面に降り立ったアッシュがビームライフルを向けているのが見えた。


「あぶねえ」


 イスカが跳んだのとアッシュがトリガーを引いたのは同時だった。圧倒的な暴威が足下をすり抜けていく。少なくとも三度発射しているが、エネルギー切れが起こるような様子はない。国連軍のビームライフルを解析して出来たもののようだが、出力調整がしっかりしているのか、それともエネルギー量自体が国連軍の機体よりも多いのか。


(息切れまで粘るのは無理だよな。さっさと殺るしかない)


 空中に逃れたイスカを左右から別のドラッケンが追う。どこに隠れていたのか、と思うが灰色のボディは雪の中で隠れるにはもってこいだ。十字砲火を盾で受け止め、イスカはスラスターの角度を真上に調整し噴かす。一機に機体が降下した。

 体を押し潰さんばかりのGに耐えながらもイスカは前を見た。下へと逃れた理由は二つ。一つは地上からレンとアッシュが行った銃撃を避けるため。もう一つは上の二機を真正面に捉えるため。重力制御を持ってしても慣性は消せない。左右から襲い掛かって来た二機は、突然止まることが出来ない。


「消えろ」


 前面に火力を集中させる、もう一度。彼らにはアッシュのような技量も、機体もない。ドラッケンの機動性では十メートル四方に収束した火力を避けることは出来ず、その装甲では耐えることも出来ない。装甲が砕け、四肢が圧潰し、機体が爆散する。イスカは空中でグルリと回転し着地、待ち受けるレンとアッシュを見据えた。

 追撃が来ると思っていたが、そうはならなかった。アッシュたちは困惑したようにイスカを見たかと思うと、後退して行った。


「チッ、逃がすかよ!」

『いや、待てイスカ。逃がせ。深追いは厳禁だぞ』

「あいつの首を取れるかもしれない! いまなら殺せる!」

『待ち伏せの釣りかもしれん。いずれにしろ、ここを取るために今回は戦ったんだ。作戦は成功。余計な戦果を取ろうとして、命を危険に晒すことはない』


 アスタルの弁は妥当なものだ。反論の余地もない。イスカは不貞腐れたように『了解』と答え、通信を切った。火星軍は全軍が撤退を始めた。


(とりあえず勝った……勝ったでいいんですよね、島田さん?)


 戦闘が終わり、冷静さを取り戻したイスカは振り返りそれを見た。胴体を半分溶断され、哀れな骸を晒した島田のアクシスを。


 答えるものはいなかった。

 二度と、二度とそこには。

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