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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第三章:熱砂の地獄編
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11-猟犬

 ブリッツフント。

 二枚の羽根とスラスターから噴射する青白い炎で浮遊するミッドナイトブルーの機体の名前。ドラッケンよりもシャープなフォルムをしており、以前の機体より鋭角の少ない、丸みを帯びた装甲が特徴的だった。指先と爪先以外に尖っている部分はない、と言ってもいいほどだ。

 中でも異彩を放っているのが両腕だ。尺骨が肘から飛び出したような形になっており、上腕の半ばほどの長さになっている。腕の下に何らかのパーツを取り付けているのだろう。おかしな外見だが動きに遜色はなさそうだ。


『行け、グラウツ伍長! キャバリアーの、敵の足止めは私がする!』


 アッシュは左腕をイスカに向けた。何の武器も持っていない、そう思ったが突如として手首の下あたりからマズルフラッシュが瞬いた。奇妙な形の腕にはマシンガンが内蔵されていたのだ。イスカはステップでそれをかわし、銃口を上空のアッシュに向けようとした。が、すでに機体はそこになかった。


(速い! 反応速度も機体のスピードも、ドラッケンとは桁違いだ!)


 アッシュは素早くイスカが跳んだのとは反対の方向へ飛び、彼の視界から脱した。彼が描く青白い線に黒が混ざる。バックパックから放出されたミサイルだ。アッシュが軌道上から離脱した0.5秒後に点火。高速で飛翔し基地を破壊した。

 一方で旋回性能も高い。複雑な軌道を取り飛行するブリッツフントはイスカの照準を定めさせない。凄まじい機体、そしてアッシュの力。


(あれだけのスピードで飛ぶ機体を完全に制御するなんて……! これがあいつの力、そしてその力を十全に引き出す機体のスペックか!)


 アッシュはイスカの背後に回り、剣の柄に手をかけながら突撃した。居合めいた一撃を、イスカはギリギリのところで受け止めた。だが受けたシールドは軋みを上げながら変形、使い物にならなくなった。イスカは舌打ちしシールドを破棄。

 アッシュは着地しもう一方の剣を抜いた。イスカの二刀を参考にしたのか、あるいは二刀流の戦術が火星にもあるのかは分からない。だがその構えは堂に入ったものだった。左の剣で牽制しつつ右で鋭く打ち込んで来る。


『ブリッツフントは火星の技術力と資産をつぎ込んだ新型だ! 私の力を見込み、信じ、この機体を与えてくれた皆のためにも負けるわけにはいかん!』

「ぐうっ……!?」


 いままでイスカは機体性能でアッシュを圧倒して来た。だが事ここに至ってついに性能差はなくなった。状況は圧倒的に不利だ。

 どうにかしなければ。左の剣をいなしながら考えるがいいアイディアは浮かんでこない。このままではやられる、そう考えた時唐突にアッシュが引いた。至近距離から砲撃が行われたのだ。攻撃者はもちろんゲゼルシャフト。


『イスカ、遅れたな。無事で何よりだ』

「僕は大丈夫です。ですが、カインドは奪われてしまいました」


 レンの決断は早かった。イスカが離れ、ミサイルが通過するのを見計らって脱兎のごとく逃げ出した。背中を狙うことさえも出来ない鮮やかな逃走だ。

 敵はブリッツフントだけではない。防衛網を突破して来た数機のバトルウェアが基地内に侵入してきている。防衛システムやAA隊が迎撃を行っているが、時折来る流れ弾が掠める度に寿命が縮まるような思いがした。


(それに、あの機体には妙な機能がある。格闘戦でどうこうしてくるようなことはないとは思うけど、警戒しておくに越したことはないな……)


 イスカは盾を捨て二刀を繰り出した。アッシュもまた二振りの剣を抜く。柄の部分が妙に膨らんだ剣で、イスカはそれをかつて見たことがあった。オーストラリア方面軍司令官、イアン・プレゾフが使っていた白熱剣だ。瞬間的に超高熱を発生させ機体の装甲を溶断する恐るべき兵器。

 足が動いた。瞬間、御堂とアスタルはアサルトを発砲した。だがブリッツフントの動きが速い、まさに稲妻の如きスピードだ。キャバリアーの側面へと回ったアッシュはその首を掻き切るため剣を薙いだ。

 イスカは屈んで一撃をかわし切り上げた。アッシュは既にそれを予測しており、左の剣で反撃を受け止める。素早い切り返しとともに左の剣が振り下ろされる。イスカはそれを右の刀で受け流した。十字砲火がアッシュを狙うものの、一発として掠りさえしない。


(神経質に攻撃を避け続けている、装甲自体はそれほど厚くないと見た!)


 俊敏な機動力、高い出力。そんなものを手に入れるために、ブリッツフントはどれほど高い代償を支払ったか。イスカは装甲強度を犠牲にしているのではないかと考えた。飛行形態への変形を考えてもそれほど強力な装甲を導入出来るとは考え辛い。重力制御があるとはいえ機体を飛ばすなら軽い方がいいからだ。

 アッシュは粗末な作りの倉庫を踏み潰しながら着地した。御堂たちは尚も彼を狙うが、アッシュも腕の機関砲で答えた。ガガガッ、という耳障りな金属音がして、ゲゼルシャフトの上体が揺らいだ。凄まじい威力。


 攻めあぐねていたところで、三発の信号弾が空に上がった。国連軍の様式ではない。アッシュは空を見上げ、小さくため息を吐いた。


『撤退か。仕方があるまい、予想よりも多く砲塔が生きている』


 本来ならグラディウス解放同盟がもっと多くの被害をもたらすはずだったのだろう。だが内通を看破されていたから、予想していたような成果が上がらなかった。失敗を割り切りコストを最小限に留める。失敗時のマネジメントだ。

 体勢を立て直した二機がリボルビングキャノンを発射するが、アッシュは容易くそれを跳んで避けた。イスカは剣を投げつけ牽制し、ビームライフルを素早く引き抜き放った。それでもアッシュには届かなかったのだが。


『キャバリアー! 此度の決着は見送りだ、だが次こそ勝つ!』


 アッシュの勝ち誇った声がスピーカーから聞こえて来た。ブリッツフントの両手足が格納され、ウィングが展開。空気抵抗を考慮した鋭角的な形へと変わった。スラスターを展開した機体は垂直に闇夜へと昇って行き、急制動。撤退していった。


(勝った……いや、どうにか生き残ることが出来たってだけか)


 イスカは辺りを見回した。

 破壊しつくされた拠点。

 勝ちとは言えなかった。

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