表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第一章:機甲騎士の目覚め
6/121

02-契約

 戦闘を終え、コックピットから出たイスカはなぜか軍服の男たちに銃を向けられた。そして車に詰め込まれ、山間に隠されていた基地に連れていかれた。声を上げようとすると殴られ、身をよじると殴られ、何もしなくても殴られた。

 要するに、彼らにとってイスカは『機動兵器を無断で使用した犯罪者』であり、下手をすると『敵対組織の工作員』と判断されていたのだ。


 後ろ手に手錠をかけられ、イスカは乱暴に引きずられて行った。何度か角を曲がり辿り着いたのは取調室のような場所。頭頂部の禿げあがった中年の先客がおり、イスカは体面の椅子にこれまた乱暴に座らされた。


石動(いするぎ)羅門(らもん)大尉だ、この基地の全権を預かっている」

「海東イスカです」

「海東? 海東というと、あの……そう、こちらに来た研究者の」

「やっぱり父さんは研究を続けるためにこっちに来たのか……」


 見るからに軍人、という風体の男が良治のことを知っていたということは、軍の関係者なのだろう。男の反応ではっきりと理解することが出来た。


「なぜあの場にいた? 民間人であるキミが、どうやってあそこに?」

「港まで父さんを探しに行ったらいなくて、そうしたらあのバトルウェアが落ちて来たんだ。その時、父さんが地下通路に俺を逃がしてくれた。それで、あの格納庫まで案内してくれて……父さんが、あれに乗れって言ったんだ」


 ふん、と石動は小バカにするように鼻を鳴らした。


「軍の機密に民間人を、それも息子を乗せる人間がどこにいるんだ?」

「本当だ! 父さんが何を思ってあそこに連れて行ったのかは分からないけど……でもロケット弾があそこに入って来て! あれしかなかったんだ!」


 もしかしたら良治は、格納庫が破壊されパイロットが死んでいることを理解していたのかもしれない。自分が乗り込み、動かすことは出来ない。だからその怨念を晴らすために、息子である自分を器にしたのではないのかと。

 認めたくなかった。まだ父のことを嫌いになりたくなかった。


「ロケット弾が?」


 一方の石動も顔色を変え、何かを考えるような仕草を取った。


「……それは大変だったな、海東くん。お気持ちは察して有り余るよ。そういう事情があるのならば、今回のことは不問にしてもいい」


 そして態度を一気に軟化させた。

 イスカにはワケが分からない。


「もう心配しなくていい。後は我々が処理する、キミたちは安全な……」


 石動がそう言ったところで、扉が叩かれた。彼は舌打ちをし、尊大な態度で『入れ』と命じた。扉が開き、筋骨隆々とした軍人が入って来る。

 大きい、190cm以上あるだろう。グレーのシャツははち切れんばかりに膨らんでおり、露出した上腕二頭筋もカチカチだ。厳めしい顔つきをまったく崩さず、姿勢もまったくブレない。イスカはごくりと息を飲んだ。


「どうした、アスタル少尉。何か問題でもあったのか?」

「問題も問題、大問題です。こちらをご覧ください、大尉」


 アスタルと呼ばれた男――あの時スピーカーから聞こえた声の主――はノート大の端末を石動に見せた。キャバリアー起動に使ったのと同じものだ。

 モニターを見るなり、石動は不快げに髭面を歪めた。


「生体認証? 固有バイオメトリクスデータ以外は受け付けない……」

「海東博士のものではありませんでした。恐らくは、そちらの」


 と、アスタルはイスカに顔を向けた。


「バカな、それではキャバリアーはあの小僧にしか動かせないと?」

「ロック解除は製造元でも受け付けなくてよい、と最高裁で判決も出ています。無理にでも解除しようとすれば、すべてのデータが吹っ飛ぶでしょう。と、なるとキャバリアーのブートアッププログラムも損傷してしまうわけで……」

「なんということだ……死に際に厄介なことをしてくれたものだ!」


 石動は机を叩き、今度は怒り顔でイスカを怒鳴りつけた。


「どうするんだ! お前の親父のせいで、こんな!」

「し、知りませんよそんなの! 父が勝手にやったことでしょう!」

「黙らっしゃい、いいか! お前が考えているよりもあれは貴重なものだ! キャバリアーは後方に移送され、様々なデータ収集の材料となり、今後の戦局を左右するかもしれないものになるというのに! それを、それを……!」


 噛み付かんばかりの勢いで迫る石動。

 それをアスタルが制する。


「落ち着いて下さい、石動大尉。どうだろうか、海東イスカくん……キミが、あのキャバリアーに乗り込んで戦う、というのは?」


 それには石動もイスカも同じ反応を返した。

 『バカな』と。


「軍事機密に民間人を乗せるなど、言語道断! ありえない話だぞ!?」

「それ以外に方法はありません。仮にあったとしても、航空屋である我々が彼と同じようにキャバリアーを操れるかどうかは甚だ疑問です。それに、事態が切迫しているのはご存知でしょう、石動大尉。火星軍が接近しているんですよ?」


 火星軍が近付いて来ている。その意味を理解出来ないほど、イスカは愚鈍ではなかった。三機程度だったからどうにかなった、残った二機が後退してくれたから生き残ることが出来た。だがあれ以上の戦力で攻め込まれれば。


「キャバリアーを木更津まで送らねばなりません。あそこならここよりも戦力が充実しているから、まだ安心でしょう。ですが敵が一度で引き下がるとは思えない」

「木更津から増援を送ることは出来んのかね!? これは……」

「出来ません。向こうは向こうを守るので手一杯ですからね……こっちまで来た航空支援隊、ASD127装甲ヘリ一個小隊と装甲歩兵一個小隊が限界ですよ。少なくとももう一度、こちらに攻め込んで来る連中を迎撃する必要がある」


 アスタルは大きな手で、イスカの肩を叩いて言った。


「このままぼうっとしていれば、火星軍はこちらへと攻め入って来るだろう。そうなれば市街地への被害はこの比ではなくなるだろう。先に国際条約に違反したのはこっち、民間の土地に基地を作るのは違反だ。全体が軍事基地と見なされるだろう……そうなれば、敵は容赦してはくれないぞ?」


 何が言いたいのかはよく分かった。

 戦わなければ人が死ぬ。


「勝手に基地を持って来て、勝手に軍用機を作っておいて、それで被害が出れば連帯責任です、ってか……!? ふざけんなよ……ふざけんなよアンタたち!」


 イスカは吼え、立ち上がった。

 アスタルを真正面から睨む。


「やるよ、やってやるよ! どうせ戦わなきゃ殺されちまうんだろう、やるしかないじゃないか! でも、やるからには町の人のことは絶対に守れ!」

「交渉成立、だな。イスカ。一緒にこの町を守ろう」


 アスタルは涼しい顔でそれを受け止め、石動はただ右往左往した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ