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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第三章:熱砂の地獄編
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09-迷い

 ビームライフルの一撃は両軍に衝撃をもたらした。優位に立っていた火星軍は浮足立ち、火星軍とグラディウス解放同盟は生き残るため、必死になって戦った。彼らは開いた一点の穴を通り、戦場から遁走することに成功したのだ。

 逃走の途中で機動兵器隊を拾って、オリバセウスも戦場から離脱した。アスタルと御堂の機体は損傷が激しかったが、乗っていた二人の命に別状はない。撃墜時の生存率においても、バトルウェアは通常兵器を上回っていた。

 皆が生存を喜び合う中、イスカはその輪に混ざらず一人だけその外にいた。彼は自分の手を覗き込み、ついさっき自分がしたことを思い出そうとした。


(あんな凄まじい力を、キャバリアーが……ビームが持っていたなんて)


 あの光に飲み込まれた機体は、一切の例外なく撃墜された。ランドキャリアーも原形を保っていなかったので、ほとんどの乗員が死んだのだろう。自分が一瞬にして数十、百数十の命を奪った。想像しようとしたが、出来なかった。

 あまりにあっけなさ過ぎた。現実感さえないほどに。ボタン一つで苦も無く人を殺すことが出来るなど、人間の想像力が及ぶ領域ではないのだ。


(本当にこの力を、普及させてしまって大丈夫なのかな……?)


 自分が命の重みを理解していないだけかもしれない。それでも、とイスカは思う。これが戦場に撒き散らされることになれば、更なる悲劇がもたらされるだろう。普段から考えの足りないイスカでも、その程度のことは分かった。

 それに、イスカはこの力を嬉々として振るうであろう人間がいることを知っている。アスタル・ペンウッド。復讐のためなら躊躇なくビームを使うだろう。


(父さん、アンタが作り出した力は人間には早すぎたんじゃあないのか? それとも……こうして誰も彼も殺してしまうことが、アンタの望みなのか?)


 父は答えない。イスカは頭を抱えた。そんな彼の苦悩を知ってか知らずか、能天気な笑みを浮かべてロナがイスカの方に近付いてきた。


「ビームライフル、一射でぶっ壊れちまったよ。フルパワーの威力はそりゃあ、想像を絶するものだったけどさ。一発で壊れちゃ使い物にならんよなぁ」

「そう、ですか。夕菜は、どうしているんですか? アイツ……」

「部屋に帰ったよ。さすがに疲れたんじゃないかな、徹夜通しだったから」


 徹夜で作り出したものが、残忍ささえない危険な殺人兵器だと気付いた時、夕菜はどう思っただろうか? 普段は顔にも出さないくせに、繊細な子だから、きっと傷つくのではないだろうか。そうイスカは思った。


「ありがとうございます、ロナさん。僕は、この辺で失礼しますから」

「おっ? そうか。こっちの整備はしっかりやっておく、よく休んでくれよ」

「……あんなことをしてしまった手前、休むことなんて出来ませんよ」


 思いがけず、言い方が皮肉気になってしまった。ロナは驚いたように目を丸くしたが、やがてニヤッと、嫌なニヤッとした笑みを浮かべて言った。


「ミサイルや剣で殺すのは、そんなに上等なことなのかね?」

「……失礼します、ロナさん」

「まあ、なんだ。あんまり気に病むなよ。あれはただの武器なんだから、さ」


 そうですね、とだけ言って、イスカは足早に格納庫から去って行った。


(そうだ、ただの武器だ。だったら気にする必要なんて、ない)


 いままで何人も殺して来た。それでも罪悪感なんてない。生き残るために当たり前のことをしてきたと思ってきたから。だが。

 もしかしたら、これなら他の人も罪悪感なしに人を殺せるのではないか? そんなことを考えて、空恐ろしい感覚に陥った。


(あっ……レンの部屋、今日も見張りがいないんだ)


 大方、これからの方針を決めるためにブリーフィングでもしているのだろう。不用心だな、と思いつつも逃げる方法などないのだからそれでもいいか、と思い直した。イスカはその前を通り過ぎようとして、止まった。


「……なあ、レン。起きているかい?」


 何の気なしに、イスカは彼に話しかけてしまった。


「あ? お前か……ああ、起きてるよ。何の用だ、お前」

「……人を殺すのに罪悪感を覚えないのは、おかしなことかな」


 どうしてそんなことを聞いたのか、イスカ自身にも分からなかった。敵なら味方より公正な目で見てくれる、と思ったのかもしれない。あるいは汚い罵倒を聞くことで、相手が撃ってもいい(・・・・・・)相手だと認識したかったのかもしれない。

 いずれにしろ、レンの回答はイスカの望んだものではなかった。


「ケース・バイ・ケースだろ。路上で無関係の人間を刺し殺そうってんならそいつは異常者だし、罪悪感以前に牢屋に入っておけって話だ。戦場なら、自分より立場が上の人間から相手を殺せって命令されてんだ。違反を起こした時の処罰まで決まってる。だったら戦場でやむなく人を殺した人間がすなわち悪人である、なんてことにはならないだろう?」

「それでも、僕は、人殺しを楽しんでいる……」

「誰かに罰してほしいなら、他を当たれ。しょせん俺は囚われの身だからな」


 レンはそう言って寝ころんだ。イスカの心に寒風が吹く。


「厳しいんだな、レン。僕がしてほしいことを知っているのにそうしない」

「善悪価値観の判断なんて最終的には自分ですることだろう? 人道主義を押し付けて来やがる奴らもいるが、そんなもんは自分で戦場に立っていない人間の戯言だ。そしてそんなものは、砲火であっけなく吹っ飛んで行くんだ。少なくとも俺が知る限り、戦っている最中にそんなことを言える奴は見たことがない」


 寝ころんだ姿勢のままで、レンは続けた。


「撃つのも、撃たれるのも、結局のところは自分自身だ。だから自分で決めるしかないんだ、どう戦うかなんてな。借り物の価値観なんてものは、極限状態で何の役にも立ちゃしないんだからな……」


 レンの話はそれで終わった。どれだけ待っても、彼がそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。イスカは少しだけ寂しい思いをしながら歩き出した。


 自分で決めるしかない。

 その言葉がイスカの心を鋭く貫いた。


(そうだ、僕が決めるしかない。代わりにトリガーを引いてくれる人はいない)


 イスカは思い出した。この戦いを始めた、そのきっかけを。


(僕はみんなを守るために戦いを始めた。みんなを守るために手を汚すことを決めたんだ。だったら最後まで、それを貫き通すしかないんだ。どうするべきかは僕が決める……僕は迷わない。敵を倒すことを迷わない)


 イスカはまた、前を向いて歩き出した。

 二度と揺らがないと決めて。


 この時気付いていれば、まだよかったのかもしれない。

 戦いを始めたきっかけを、自分自身で捻じ曲げてしまったことに。

 借り物の価値観に身を委ねてしまったことに。

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