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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第二章:オーストラリア縦断編
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05-イスカとアッシュ、再び

 赤い大地に点々と刻まれるのはバトルウェアという点。空に浮かぶのは国連軍から収奪された戦闘機か。元々は上空数キロ地点から対象をミサイルで狙撃出来る機体なのだが、ジャミング環境下では目視による照準が必要不可欠になる。よって彼らば、バトルウェアに見られるくらいの高度と速度で航行しなければならないのだ。

 敵機の数はそれほど多くない。せいぜい十か、二十か。威力偵察か何かに出ていたところを偶然ここを発見した、というところか。

 戦闘機の機首が下に傾き、イスカと目が合った。イスカはアサルトライフルを構えたが、突如として戦闘機の軌道がグラついた。それはそのまま不安定な軌道を描き飛んで行き、消えた。何があったのか、と後ろを見ると、ロナから説明を受けたLDSがあった。


『バトルウェアの装甲をこいつでどうこうすることは出来んが、戦闘機の……それも剥き出しのキャノピーであれば対処可能だ。相手の目を潰し、しばらく戦闘能力を奪うくらいしか出来んがな。空のことは彼らに任せろ、イスカ!』

「分かりました! 空戦なんて今後やりたくはないですからね……!」


 キャバリアーからはイスカの提案で両肩と背中、それからふくらはぎのもの以外スラスターが外されていた。機体を上方に打ち出すにはこれで十分だし、地上での制動ならば数個取り付けていれば十分だからだ。

 蹴り足を脚部スラスターで加速し推力を得る。正面から突っ込んで来たイスカにゲゼルシャフトたちが銃口を向けるが、イスカはそれをサイドステップで回避。肩部スラスターはキャバリアーの移動を後押しし、飛びずさったイスカを追って銃火を浴びせようとした火星軍の照準を僅かに狂わせた。

 後方からはアスタルがハッチから這い出していた。火星軍はいきなり出て来た自軍の兵器を前にして狼狽え、攻撃の手が一瞬止まった。アスタルはその隙を見逃さず、リボルビング弾倉を回転。敵の一団目掛けて発射した。


『特殊粘着焼夷弾……これを試してみるとするか!』


 通信機からアスタルの楽しげな声が聞こえて来た。放たれた砲弾はゲゼルシャフトのシールドによって防がれ、銃弾によって叩き落とされるが、着弾地点からゲルが広がりそこを中心として発火。火星軍を苛んだ。

 もちろん、炎の勢いはバトルウェアを焼くほど強いものではない。だが熱によりセンサーが狂い、視線を遮られる。更に体に炎が巻き付いたならば弾薬やミサイルが誤爆する危険がある。火星軍は炎の壁を前に攻めあぐねた、が。


『狼狽えないで! この程度の炎ならば、私たちの障害にはならない!』


 空から凛々しい声が聞こえた。見上げると、青い空には戦闘機やヘリ以外の機影も浮かんでいた。それは腰から剣を引き抜くと急降下、高空からアスタルを狙って切りかかって来た。アスタルはシールドを重ねギリギリのところで剣を受け止め、機体を弾き返す。

 落ちてきた機体――彼らは確かドラッケンと呼んでいた――は反動とスラスター制御で後方に跳躍、炎の中に降り立った。彼女の言う通り、アスタルが放った特殊粘着焼夷弾はバトルウェアの装甲を焼き焦がすくらいしか出来なかった。


『恐れることはありません! 所詮、虚仮脅しに過ぎませんから!』


 デカい声を出して味方を鼓舞することが出来るのも指揮官の才能。そうかつて父に教わったことがある。もちろん、それは古代の戦争での話だった。だが人の意思疎通すら難しくなった現代、戦場は古代に回帰しつつあった。


「アスタルさん、新型は俺がやる! ゲゼルシャフトどものことを頼む!」

『ふっ、言ってくれるな。一番難しいところは俺にやらせるか……!』


 意趣返しのようだったが、そうしなければいけないことは確かだ。ドラッケンの機動性、防御性能はゲゼルシャフト以上。旧型が真正面からぶつかって勝てる相手ではない。それに彼には、ハッチから出て来た国連軍兵士たちを支援するという重要な仕事がある。AAが先行し残った細かな瓦礫を退かし、戦車やヘリが出るための道を作っているのだ。

 イスカはアサルトライフルとガトリングガンを構えてドラッケン目掛けて発砲。女、マルグリットの乗ったドラッケンはシールドと装甲の厚い部分で銃弾を受け止めた。イスカはライフルを投げ捨て腰の刀に手をかける。そして全力で踏み込み突進しながら放った。


『くうっ……!?』


 マルグリットは単に受け止めるのではなく、後方に跳びながらそれを受け流した。キャバリアーの瞬発力を受け止め切れないと判断したのだろう。並の兵士ならば止めるために足を止めてしまったはずだ、そして受け止め切れずに転倒し、とどめを刺されていた。イスカは自分の口角が上がって行くのに気付いた。

 イスカは刀を袈裟懸けに打ち込む。マルグリットは剣を斜めに受け流しシールドでイスカを弾き返そうとした。だが、その前にイスカはシールドの銃口部分をマルグリットのコックピットに向けた。マルグリットは反撃を断念、シールドで銃弾を受け止めた。イスカは手首をクルリと回転させ返す刀でマルグリットを襲う。

 絶え間のない連撃を前にマルグリットは防戦一方となる。確かにマルグリットは白兵戦がそれほど得意ではない。むしろ精密な狙いと状況分析能力に長けた観測主(スポッター)タイプだ。だが不利の原因はそれだけではない。


『キャバリアーのパイロット……成長している!』


 イスカとてこの数日間を寝て過ごしていたわけではない。シミュレーターの戦闘訓練、ロナとのやり取り、実働試験。様々なことをしてきた。

 生きるための目的は、イスカの行動に指向性を与えた。すなわち、生き残るために何をすればいいのか、ということを。技を磨き、体に動きを叩き込み、そして考え続けた。反復訓練の積み重ねがイスカを急成長させた。


『マルグリット少尉、下がれ! そいつは俺が押さえる!』


 押し込める、そう思ったが妨害があった。湖の周辺で国連軍の戦車隊と戦っていたドラッケンの一機が突如として動きを変えたのだ。


「その声……白浜で僕たちを襲ったパイロットか!」


 首を取らんとイスカは刀を振るう。アッシュの振るった剣と激突し、激しい火花と金属音が戦場に響く。イスカはバックジャンプし、二人と距離を取った。


『今日こそお前を倒して見せるぞ、キャバリアー!』

「はっ、舐めるなよ。今日の僕は一味違うぞ……!」


 盾は無用。イスカはシールドを取り外し、左の刀を抜き放った。

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