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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第一章:機甲騎士の目覚め
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01-崩壊する日常

 イスカたち兄弟が白浜に越して来てから、はや二週間が経過した。白浜の住民たちはみな優しく、疎開して来たイスカたちによくしてくれた。特に隣の農家であった御堂家は慣れないイスカたちのことを何かと気遣ってくれて、お裾分けの野菜を送ってくれたりもした。ありがたい反面、イスカは申し訳なかった。

 学校も在校者数こそ少なかったが、その分のびのびと遊ぶことが出来た。イスカは持ち前の明るさですぐにクラスと打ち解け、夕菜も何とか新しい日常に適応することが出来ていた。順風満帆だった、澄み渡る青空のように。


 5月26日、日曜日。良治はいつも在宅でプログラマーをしていたが、一週間に一度港の方に行くことがある。『漁業組合の人たちと仕事をしているんだ、プログラムに強い人はあまりいないみたいだから』と笑っていた。仕事ではなく、ボランティアのようなものだとも言っていた。

 今日も良治は出かけていたが、珍しく仕事用の鞄を忘れているのをイスカは見つけた。歩いて一時間くらい、散歩がてら届けようと彼は思った。


 畑の傍らを歩いていると、農作業をしていた老人が顔を上げて挨拶をくれた。道行く人々に会釈を返す。コンクリートと鉄筋で構成された都市部で暮らしていたイスカにとって、こういう体験は新鮮なものだった。


(こうやって穏やかに、ずっと暮らしていければいいな……)


 そんなことを考えながら歩いていると、クラクションを鳴らされた。邪魔をしていたか、と思って振り返ると、御堂のトラックがあった。


弘太(こうた)さん。どうしたんですか?」

「とぼとぼ歩いてるのを見てなあ。どうしたんだ、イスカくん?」


 事情を説明すると、隣が空いているから乗れと弘太は言ってきた。市場に行くから、ついでに降ろして行けると。市場と港が少し離れているのはさすがに知っていたが、好意を無碍にしてはいけないと受け入れた。


「すいません、弘太さん。でもおかげで助かりました」

「なんてことはないさ。こんなトコ歩いてたら倒れちまうよ」


 豪快に笑う弘太。歳は離れていたが、この逞しい男のことが兄のようでイスカは好きだった。弘太もまた、彼を弟のように思っているのだろう。

 緩やかな斜面を下っていき、白浜の港へ。青い海に太陽の光が反射し、キラキラと宝石めいて輝いた。もう少し時間が経ち、太陽が沈む頃になると海面が真っ赤に染まりもっと綺麗になる。それがイスカは好きだった。


「ここまで出大丈夫です。ありがとうございます、御堂さん」

「ああ、気を付けてな。それから、お袋が今日は飯食いに来いってよ。ああ、もちろんお前たちだけじゃねえぞ? 良治さんも一緒に、だ」

「分かりました、父さんにもそう伝えておきますよ」


 御堂家のご婦人が父にご執心なのは、イスカや夕菜の目にも見えていた。どちらとも独り身なので、付き合ってしまえばいいのにとも思う。

 弘太と別れ港の方へ。しかし、ゲートは開かれていたが人っ子一人港にはいなかった。せいぜい野良ネコが日向ぼっこをしているくらいだ。港の片隅では作業用のMW(マンワーカー)マシンがぽつんと突っ立っている。


(どうしたんだろう、もしかして別の場所に移った……?)


 かといって、ここ以外に寄り付く場所など思いつかない。

 イスカは頭を抱えた、と。


 重苦しい防空警報が鳴り響く。

 神奈川に、そして首都にいた時は飽きるほど聞いた音。

 イスカは反射的に空を見上げ、落ちて来る巨影を見た。


 黒い点が徐々に大きくなっていく。

 それは人型だった、鉄の巨人だ。


 角張った箱をいくつも繋げて作ったような人型は、両足と背中のスラスターを駆使して減速。ゆっくりと地面に降り立った。それでも、イスカが倒れ周囲が揺れるほどの衝撃が発生したのだが。


 バトルウェア。元々宇宙空間での作業用に作られた装甲服を大型、高出力化することによって誕生した10m大の人型兵器。電磁反応装甲、装甲厚、そして構造から来る防御力と生存性の高さが特徴的だ。パイロットの生還率も高く運用ノウハウの蓄積も容易。だがバトルウェア最大の特徴はそれではない。

 重力制御。機体にかかる重力を低減することにより、これほどの巨体が二本足で直立することが可能になっている。その技術は木星内部でも最重要機密とされ、もちろん国連側でその詳細を知る者は誰もいない。


「バトル、ウェア? どうして、こいつらが地球に……」


 角張った体つきが特徴的な機体だった。

 MBT02『ゲゼルシャフト』、火星軍の主力バトルウェアだ。生産性を重視して作られたモジュール構造のボディから、国連軍からは『箱型』とも呼ばれている。

 降り立ったバトルウェアは手に持ったバカバカしいほど巨大な銃を地面に向け、発砲。鼓膜が破れるほど凄まじい音が鳴り、着弾の衝撃で家屋が、倉庫が吹き飛んだ。衝撃に煽られイスカも吹き飛び、地面を転がった。


 何が起こったのか理解出来なかった。

 だが現実にはさせる気もないようだ。

 イスカが顔を上げると、丘陵部から火砲が放たれるのが見えた。


(あれは? ここは、戦争とは関係がないはずじゃ……)


 砲を逆の手の盾で受け止めるバトルウェア。黒煙の帯を引いてミサイルも飛来するが、そのほとんどが途中で迎撃される。更に高空から銃火が撃ち下ろされ、砲台が爆発。見ると次から次へと機体が降下を続けていた。


(何がどうなっているんだ、これは。僕はいったい……)

「イスカ、こっちに来い! 立つんだ、早く!」


 唐突に良治の声が聞こえた。見ると、下水道のマンホールから父が顔を出していた。なぜそんなところから、と考える暇もなく、イスカはよろよろと立ち上がりマンホールに向けて歩き、ほとんど落ちるようにして中へ入った。

 内部は下水管ではなく、通路だった。剥き出しの配線、パイプ、格子状の床面。いったいここはなんだ、とイスカは父の方を見上げた。


 爆風が良治の体を包み込んだのと、それはほとんど同時だった。

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