04-不時着
イスカは昇降段階でのボルト解除を指示、ハッチが開くと同時に床を蹴り跳躍した。イスカの勘は当たっており、出撃前のキャバリアーを狙って砲撃が行われた。カーゴキャリアーの一部が破損、じっとしていればああなっていたのはイスカの方だっただろう。
「新しい敵機……新型か! しかも、あいつら……」
イスカの目に飛び込んで来たのは、ほぼ完全な人型を取った黒いバトルウェアだった。それも一機や二機ではない、四機いる。ゲルダから不自然さを無くしたような外見で、角張ってはいるがゲゼルシャフトよりは曲面が多い。被弾時の跳弾効果を狙っているのだろう。そして何より、それは飛んでいた。
推力を生み出しているのは背負ったリフターユニットだろう。二対の翼からは絶えず噴射剤の青い光が迸っている。洗練された機構だ。
「いいなあ、あっちの方が。僕もああいうのに乗れたら……」
『戦闘の最中に冗談を言う元気はあるみたいですね』
聞き慣れないオペレーターの声がヘッドセットから聞こえて来た。
「しょうがないでしょう、あっちの方が機動性も高そうなんだから、さ!」
イスカは背部スラスターを起動させ、機体を押し上げた。飛び上がるイスカを対空砲火が援護する。新型バトルウェアは散開して攻撃を避け、オリバセウスに執拗な銃撃を加える。電磁装甲が銃弾を弾くが、いつまで保つか。
「これ以上やらせるかよ……あそこには夕菜がいるんだから!」
腰部マウントラッチからアサルトライフルを引き抜き、飛行する新型に向けて放つ。新型は楕円軌道を描くようにして銃撃を避けながらイスカに接近。左手で剣を抜き切りかかって来る。盾でそれを受け流し、後方に流れて行く機体の背中を撃とうとしたが別の機体に阻まれた。一対四ではやはり分が悪い。
(キャバリアーの機動性が生かせないな、空だと。まあ二本の足が使えないから当たり前ではあるんだが……どうしたもんだろうな、これは)
スラスターの角度を調整しつつ小刻みに動き敵の攻撃を回避。敵の新型にはバズーカを装備したタイプもいるが、基本的には剣と銃だけのシンプルな構成だ。一機一機の打撃力を複数体が連携することで補っているのだ。
そう、手数が足りない。この状況では航空隊も出られない、オリバセウスは敵潜水艦と航空隊への防衛で手一杯。このままでは守り切れない。
(どうすればいい。奇跡には期待出来ない、僕がどうにかするしか……)
両足のロケットランチャーを発射、左右から接近して来る二機を迎撃しようとする。だが彼らはシールドでそれを受け止め怯むことなく接近して来た。機動力だけでなく防御力まで向上しているようだ。さすがは新型といったところか。
イスカはアサルトを腰に戻し、大きく振りかぶって盾を左側から迫る新型目掛けて投げ捨てた。ブーメランめいて回転しながら飛んで行った盾は煙の中から飛び出して来た新型の顔面にぶち当たりその動きを止めた。
なおも接近する右の機体。イスカは素早く双刀を抜き、左の刀で突き込まれた剣を外側に受け流す。スラスターを起動、機体の位置を調整し新型の上へ。そして右の剣を振り下ろし、機体の頭部を切り落とした。
「チィッ! どうにかして下さいよ、ヘイゼルさん! もう盾もなくなっちまった、これ以上俺がこいつらを凌ぐのはどう考えたって無理だ!」
二方向からマシンガンの銃弾が迫り、それを避けた先にバズーカが待ち受ける。イスカはバレルロールめいて機体を捻り、遠心力を加えた斬撃で砲弾を切り裂きつつ弾き飛ばした。やや遠方で爆発した砲弾が表面装甲を焦がす。
『泣き言を言うな。それでも兵士か』
「民間人だよ! とにかく手が足りないんだ、このままじゃ……」
『やれやれ、切りたくなかった札だがこんなところで着る羽目になるとは』
轟、とオリバセウスが咆哮を上げた。いったい何が、そう思っていると船の週に白波が立ち、船体が段々と、不自然なほど浮かび上がって来た。
そう、浮いているのだ。
文字通り、潜水艦が空を飛んでいる。
「なっ……と、飛ぶのか!? 潜水艦なのに!」
『海も空も如何に抵抗を無くすかをいつも考えている……逆説的に言えば、良い潜水艦というものは良い飛行機になる素質があるということさ』
そんなバカな。
思っていても、現実は特に変わらなかった。
ともかく、水中からの攻撃を気にしなくてよくなったオリバセウスは空中の敵機へと攻撃を開始した。甲板のミサイルコンテナが開き、空に白煙の尾を引く短距離ミサイルが放たれる。新型は突然の事態に攻撃の中止を余儀なくされる。
(バトルウェアの強み……それは戦場の変化を利用出来ること……!)
イスカはスラスターをカットし降下、浮上して来たオリバセウスの甲板を蹴った。オペレーターが口汚く罵って来るがそんなものはどうでもいい。
機体の軌道を四十五度変え、ミサイルの雨を掻い潜り新型に接近。ゲゼルシャフトよりも遥かに速い反応で銃を向けて来るが、一瞬早くイスカは機体を下げた。僅かに上方を掠める弾丸、イスカは楕円軌道を描き新型の背後を取り振り向きざまに一閃。スラスターユニットを損傷した新型が海に落ちて行った。対空砲火を撃ち込まれ、ダメ押しとばかりにミサイルを喰らい、果たして生きているかどうか。
オリバセウスの浮上によって、戦況は一変した。不利を悟った火星軍は後退を始める、撃ち落とされた機体も二機掛かりで回収された。
「ふう……こんな切り札があるんだったら、初めに使ってくださいよ」
イスカは胸を撫で下ろし言った。
だがヘイゼルの表情は緩まない。
『切り札というのは切り時を見極め、ここぞというタイミングで使うからこそ威力を発揮する。こんなところで使う羽目になるとは思わなかったが……』
「オイオイ、敵を退けることは出来ただろ? それだけで万々歳……」
オーストラリア大陸が見えて来た。ゴツゴツとした岩と平原、そして低木の群。すべてがイスカにとって初めて見る、新鮮なものだった。
「これが、大陸……オーストラリア」
『呆けている暇はないぞ。帰還しろ、敵の攻撃はまだ終わっていない……!』
何を言っている、と思ったイスカは地平線の彼方で閃く光を見た。
『チャフを展開、ギリギリまで機体を低く飛ばせ、偽装爆発を起こしたのち本機は着陸し、敵軍をやり過ごす』
オリバセウスの甲板でいくつもの断続的な爆発が起こる。それが本当に偽装爆発なのか、はたまた着弾による爆発なのかは分からなかった。




