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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第一章:機甲騎士の目覚め
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03-日本脱出

 守備隊が壊滅した。

 つまりそれは、基地を守る盾がなくなったということ。


「どうするんですか、ヘイゼルさん。このままじゃあ……!」

『どうするかは考えてある。三番ドックに向かい、そこでキミは乗船手続きを済ませろ。それと……ここで降りるというわけにはいかなくなった』


 どういうことだ、と問いかけたが答えている時間はないとはぐらかされた。反論して、ここからすぐに逃げ出したかった。だが逃げてどこに行くことも出来ない。いまの自分に出来ることはヘイゼルに従うことだけだ。

 なるべく施設を破壊しないようにしながら三番ドックに向かう。しかし、地上にも海上にも乗船出来るような船は存在しなかった。


「ちょっと、どこに行けっていうんですか! ふざけてるんじゃ……」

『少し待て、三秒後に浮上する……お前を乗せるための船はな』


 海を割って何かが浮上して来た。

 ヒラメのように平べったい船が。


「潜水艦……これに乗れってことなのか」

『ビーコンが光っているだろう。あそこまで歩け、くれぐれも慎重にな』


 イスカは慎重に船の上に足を乗せた。いかにも頼りない見た目をしているが、それよりはしっかりした作りをしているようで一歩一歩踏み出して行っても軋みさえ立てない。イスカが目標地点に到着すると甲板上部デッキが左右に開き、中のカーゴが起き上がった。背中を合わせると固定ボルトがロックされ、キャバリアーを寝かせる形で収容した。

 ハッチが閉まるのと同時に潜水艦は音を立てて動き出した。水音も聞こえて来たので、潜航を開始したのだろう。イスカは胸を撫で下ろした。


『降りてきたまえ。キミに話しておきたいことがある』


 イスカはハッチを開き、外に出た。その時だ。


「大変なことをしてくれたな、海東イスカ!」


 イスカを何人もの軍人が待ち構えていた。島田、デカい男、そして石動羅門。彼らは銃を持っており、下手に動けば撃たれそうだった。


「石動、さん? どういうことですか、ちょっと待ってくださいよ……!」

「問答は無用だ。見ろ、貴様のせいで厄介な荷物を抱え込むことになった」


 石動は腕を振り指し示した。作業用のレーンはバトルウェア整備用に一段高くなっており、下部デッキを見下ろすような形になっていた。指された方向を見て、イスカは目を疑った。そこにいたのは白浜の住人だったのだ。


「ちょっ……どういうことですか、これは!」

「キャバリアーを見られてしまった以上、彼らをタダで降ろすわけにはいかん」


 奥の方からヘイゼルも出て来た。

 相変わらずの仏頂面で。


「キャバリアーは軍事機密なのだ。それも、高度に秘匿されたな。一般人の目に触れることなどあってはならない。緊急事態であるから致し方ないことではあるのだが、それでもけじめというものがあるのでな。一時拘束させてもらった、キャバリアーを移送するまで。キミがあの時不用心な行動をとらなければ、こんなことをする必要はなかった」


 まるでイスカのせいだ、と言っているようだった。


(ふざけるな、あの段階で他にやれることなんてなかったじゃないか!)


 イスカは彼らが、イスカを戦わせるための枷であることを理解していた。彼らは明らかにあの場にいた人々から選別をしていた。御堂たち若い人間が数名。邪魔になる老人はあそこから取り除かれている。

 いつでも制圧することが出来て、邪魔にもならない。そんな人間だ。


「彼らが無事にここから出ることが出来るかは、キミの行動にかかっているぞ」

「……分かっている、分かっていますよ! 戦えばいいんでしょう、戦えば!」

「分かっているならいい。我々はこれよりオーストラリ方面を経由して、ドイツへ抜ける。格員、持ち場に着け。イスカくん、キミはもちろん機体にな」


 それだけ言って、ヘイゼルは踵を返して戻って行った。イスカは歯を噛み締め、黙っていることしか出来なかった。何もかもが恐ろしくてたまらなかった。


 民間人を平然と利用するヘイゼルも。

 民間人が乗っていたとしても躊躇なく撃ってくるであろう火星軍も。

 自分が命懸けで守った人々が恨みを込めた視線で自分を睨んで来ていることが。


 夕菜はただ、兄の手を握った。

 ぬくもりがどこか遠く感じられた。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 房総半島掌握。その方に火星軍は湧いた。

 指揮官位にいる者以外は。


「かなりの数、民間人が半島に取り残されているのだな?」

「はい。市町村から非難が遅れたもの、また避難計画の遅れで移動できなかったものなどです。木更津基地の周辺だけでも3000を越えていますよ」

「国連め、民間人を盾にしてキャバリアーを移送するつもりだったということか。いつもながら、奴らはそこに過ごす人のことなどまったく……」


 ミサイルと砲撃で木更津の土地を更地にしたことを棚に上げて、フランツは憤慨した。彼はテキパキと避難民への対応を部下に指示し、行動に移らせた。手荒な真似をせず、さりとて自由を許さず。占領政策は困難が付きまとう。


「関東を手に入れた以上、一気呵成に全土へと打って出たいところなのだがな。北海道方面の挟撃、その後の九州方面、及び大陸への足掛かりに……クソ、しかしうまく行かんな。こうしている間に中国は準備を整えておるのに……」

「中佐、今後の行動について具申がございます」


 部屋の脇に控えていたアッシュは思案しているフランツに口を挟んだ。少し不快げな表情をしたものの、フランツは部下の言葉に耳を傾けた。


「言ってみろ、大尉。この状況で我々はどうすべきかな?」

「大したことではありませんが、キャバリアーの進路について少々」


 アッシュは世界地図を広げ、キャバリアー移送隊が取る進路をいくつも提示した。もっとも、そのうちいくつかはすぐに消えることになったが。


「北米へは向かわないでしょう。戦場のど真ん中で新兵器を建造するとも思えません。また潜水艦隊を抜けて行くことは出来ないと分かるでしょう」

「と、なれば彼らが取るのはヨーロッパ方面への脱出か……」


 蓋然性が高いのは中国から入り陸路を進んで行くいわばシルクロードルート。中国降下部隊と戦闘が続いているとはいえ、距離は短く国連の勢力圏ではある。内陸部に入ってしまえば危険はほとんどなくなると言っていい。

 だがアッシュはそのルートを否定した。


「なぜ? 私が策定したルートだからというのではないが蓋然性は高いだろう」

「ほとんど直感です。ですが質量兵器攻撃に晒され陸地の地形さえ変わったこの地域は反国連の機運が高まっている。秘密裏にそうした者たちと接触し、戦力として取り込もうとしていると小耳に挟んだことがありますので」


 フランツは唸った。

 よく勉強している、と。


「相手が聡い指揮官ならリスクがあると分かるはずです。ですから」


 アッシュはオーストラリア方面に線を伸ばした。


「こちらは国連と火星軍の戦力が拮抗しています。リスクはありますがヨーロッパに抜けるルートがある……流刑地ルートとでも言いましょうか?」

「オーストラリアからヨーロッパに抜けるか。なるほど、確かにその可能性はあるな。元々オーストラリアには応援を送ることになっていた……」


 フランツはアッシュの目を真っ直ぐ見つめた。


「キミに行ってもらいたい。ラージ・マンタ二隻、それと新型を付けよう。キミの働きには期待しているぞ、アルス大尉」

「了解しました。火星軍の一員として、期待に沿えるよう尽力いたします」


 恭しく敬礼する。

 だが、アッシュには彼の魂胆が分かるような気がした。


(中佐殿は勝ち戦の指揮権が欲しいのだ……どれほどの戦功になるかも分からない新型の追跡ではない。俺に新型を寄越すのも、不安定な機体で部下を危険に晒したくないだけなのだろう……誉れある火星の軍人としてあまりに情けない!)


 それでも軍は絶対的な階級社会。情感を非難し、あまつさえ侮辱することなど絶対に許されない。アルスは内心を飲み込み、任務を拝命した。

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