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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第一章:機甲騎士の目覚め
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03-無差別攻撃

 木更津の軍港にいくつもの船舶が停泊する。水陸両用の全環境適応戦闘艦だ。それ以外にも民間から募った貨客船が次々と港に入って来る。

 ヘイゼルは港へと入ってく船を無感動に見ながら部下に尋ねた。


「市民の移送にかかる時間については、どれだけのものになる?」

「はっ。白浜から避難して来た1800人を収容するとなると、10時間程度かと。それもすべてが順調に行った場合、敵からの襲撃があれば……」


 そしてそれは現状確定事項でもあった。太平洋側から上陸して来た火星軍とは久留里を挟んで対峙していた。そして、四時間前から前線では戦闘が開始されていた。いまのところは数で勝る国連軍が優勢だが、果たして。


「当然ズレるな。分かった、敵軍の動きに関しては注視しておけ。それから」

「キャバリアーの輸送船については、最優先で出港させるようにしてあります」

「ご苦労、では下がってくれ。いいか、くれぐれも油断することがないように」


 現場指揮官はヘイゼルに敬礼し、部屋から出て行った。表面上は張り詰めているが、内側にはどこか緩みがあるようにヘイゼルは感じていた。


(北米から離れ、また主要な補給ルートからも外れた日本列島に火星軍が攻め込んで来るはずがない……そう考えているのかもしれないな、彼は)


 敵が宇宙から降下してくるこの時代、地理的優位ほど当てにならないものはない。頭では理解していても、真の意味で実感してはいないのだろう。歴史を紐解いてみれば、この国の軍隊は驚くほど楽天的で保守的な思想を持っている。それは国連統治下に置かれ、本物の軍が置かれるようになってからも変わっていない。


(いざという時は避難船に紛れさせ、出発させるしかないかもしれんな)


 すでに船を用意するのに10日もの時間を要している。敵が準備を整えるには十分な時間だ、どのような手を取って来るかは全く予想出来ない。対空、対地、対潜防御は拡充させているが、果たしてそれで十分なのかどうか。

 その時、内線に通信が入った。ECMの効力は無線通信にまで及ぶ、いざという時に頼りになるのは昔ながらの有線回線だ。ヘイゼルは受話器を取る。


「どうした、何があった? 敵軍に動きがあったのか?」

『ありました! 海上から水柱がいくつも上がり、高速で飛翔する物体が確認されました! クルーガー司令、もしやこれは……』


 ヘイゼルはハッとして空を見上げた。

 何たる迂闊、想定外ではない。


「精度さえ無視して、敵軍を殲滅するだけなら……使えるな、その手は!」


 それは潜水艦から放たれた一矢。

 旧世代の遺物、長距離ミサイルだった。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 海上から上がった水柱を見て、アッシュは自軍が何をしたのかを理解した。かつて敵軍の基地を襲撃した際、司令官はそれをまるで大切な宝物のように大事に扱うように命じていた。誘導が効かない近代では、長距離誘導兵器など目隠しをしたままストラックアウトをするようなもの。的中の見込みなどまるでない。

 だが、的中させる気がなければこれほど恐ろしい兵器もないだろう。


「司令官! 何をしているのですか! そのような、そのような兵器を!」

『弾道弾は国際条約で規制されてはいない。奴らが規制対象から外したのだ。使っていいものを使うことの何に、意見があるというのだ大尉?』


 アッシュは一旦言葉に詰まった。だがすぐに気を取り直した。敵の戦車砲をシールドで受け止め、反撃の銃撃を行いながら反論する。


「あそこには避難民も多くいます! 白浜から逃げて来た者たちだけではありません、戦場になった関東から逃れて来た人が多くいるのですよ!? 敵秘密基地を攻撃するのとはわけが違います、このままでは多くの人命が失われますぞ!」


 アッシュの抗弁に、フランツは小さく笑いながら答えた。


『キミは誤解している、アルス大尉。この攻撃で民間人は死にはしないさ』

「なっ……狙えない攻撃でどうやって当たる当たらぬを選べると!」

『我々は敵の対空迎撃能力を計算しているのだよ。ミサイルだけならギリギリ保つ、我々が使用した弾道ミサイルはすべて迎撃されるだろう。だが、その隙を突く。これはいわば布石だ。失敗するためにやっていることなんだよ、大尉』


 アッシュは混乱した。弾道ミサイルを使うことも、それがフェイクであることも、事前のブリーフィングでは伝わっていなかった。いったい本部は何を考え、フランツは何をしようとしているのか? 理解不能な作戦のために、自分は命を懸けているのだろうか? 疑念さえも湧き上がって来るが、それを彼は押さえる。


「民間人虐殺をするための攻撃ではないと……!?」

『人聞きが悪いな、大尉。私はこれまでもこれからも、戦争の怨念返しをするために戦うことは決してない。それだけは分かってもらいたいものだ』


 フランツの真意を図ることは出来なかったが、納得しなければならなかった。使い物にならなくなった盾を投げ捨て稜線の砲撃部隊を牽制し、剣を抜いた。そしてスラスター噴射で戦車の砲撃を掻い潜り、一刀両断切り捨てる。


「そのお言葉を聞けたのならば、私に一切の懸念はありません……!」

『任務に集中しろ、アルス大尉。キミの双肩には仲間の命がかかっているのだからな。余計なことを考えるのはキミの仕事ではないはずだ』


 そこで通信が切られた。

 アッシュの口に苦いものが満ちて来る。


(欺瞞だ……誰しもが、怨念をもってして戦っている。だから守るべき民間人を犠牲にすることも、それを躊躇なく殲滅することも出来るのだ……!)


 盾を失ったアッシュの機体に砲撃が殺到する。後方へのジャンプで距離を取り、電磁装甲で攻撃を受け止めるがそれにも限度がある。突っ込み過ぎにより攻撃を集中させられ、撃墜されるバトルウェアの数は多い。


『隊長、後退して下さい! 前に出過ぎですよ!』


 そういう意味では、アッシュは幸運だった。彼の尻拭いをしてくれる優秀な部下に恵まれたのだから。マルグリットは弾幕を張り敵を牽制、部下たちもそれに続く。砲撃が止んだ隙を見計らいアッシュは後方へと退いた。


『隊長、敵を気遣えるのは美徳だと思っています。ですが、いまは……』

「……分かっている。盾を取り換え、機体の損傷部位を交換する。戻ってくるまでの間、部隊を頼むぞマルグリット少尉。やってくれるな?」

『拝命いたしました、大尉。あなたが戻るまで死守いたします』


 アッシュは後退しながら息を吐いた。マルグリットはきっと、分かっていないということを分かっているだろうな、ということを何となく理解しながら。

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