お家に帰れません
何なんだよ俺のステータス。
いやね、俺は巻き込まれた人間だから?
ホーリーオーラとか無くてもまぁまぁ理解できるさ。成長補正も…実に惜しいスキルだけども、まぁ分かる。
でもさ、いくらなんでもこれは無いんでないの?
『パーツチェンジ』は…なんだこれ。
『吸収』ってなに?あのピンクの悪魔みたいに口からごおって吸い込めるとか?でもいざ実行しようにもイマイチ理解できないし、俺のシックスセンスさんが違うからねと生ぬるい笑みを送ってきている。
『雑学』に関しては…役に立ちそうにない予感がビシバシ漂ってきてるんですけど。
確かに俺はそれなりに役に立たない知識は豊富だと自負している。なんたってネットで小説を読み漁ってるからな。気になる単語とかすぐに検索してたしな。
この世界で、それ、役に立ちますかぐーぐる先生。
A、もしかして:無駄
はーいノッカーウ!!
分かってた、分かってたよ。
自分の中でいくら自問自答しようが俺の中の理性と常識と知識が非情な決断を下してくる。
俺の得たスキルは、役立たず、だと。
それで魔力が多ければまだ救いもあったと思うが、勇者くんと聖女ちゃんの魔力より少ないのが表示されているし…(中)あることを逆に感謝した方がいいのかもしれない。
ちょっと、いやかなり自分のステータスの結果に凹んでいると、不意に勇者くんと目線があった。
あ、あ。
「ははっ、ひでー」
こ、このクソガキ!
俺を見て嘲笑しやがった!
すっごい腹の立つ笑い方をしやがったよコイツ!!
俺は大人だから簡単に挑発に乗って社会不適応者の方たちみたいに掴みかかったりはしませんがね、でも馬鹿にされたままは男のプライドに関わると思うんだよ。
と、言うわけで反撃だ。
あ、負け惜しみとかではないからな!
「あー、俺のスキル変なのしかないな…まぁ伸びしろがあるってことで気長に頑張るかな。よくある巻き込まれってのも大器晩成型だし」
あはは、と笑って恐らく異世界召喚の知識を勇者くんが持っているだろうと踏んだ俺の発言に、彼は目を見開いて明らかに驚いていますよと言う顔をした後、むっつりと黙り込んでしまった。
聖女ちゃんはその辺りの知識がないのかあまり気にした様子がない。
周りのお姫様とか賢者のオッサンは俺が何を言っているのか理解できていないようだが、言葉の中にあった「巻き込まれ」って台詞を聞いて、俺が召喚に巻き込まれたという事を悟ったらしい。
賢者のオッサンは更に異物を見るかのような視線を強めてきた。
おいこら、だからテメー初見から態度悪すぎるだろ。
見てみろお姫様なんか物凄い申し訳なさそうな顔して俺のこと見てるよ。
清楚系美少女に心配そうな顔で見られるとか液晶越し以外だと初めての体験で俺の中のアカン何かがハッスルしそうだ。
とは言ってもお姫様多分年齢が勇者くんたちと同じくらいなんだよな。
俺年下より年上が好きだからもう少し育ってほしいね。
「何と言う事でしょうか…まさか、こんなことが起こってしまうなんて」
「姫様、大丈夫です。確かに召喚に異物が紛れてしまいましたが、間違いなく勇者様と聖女様は確かに御出で下さった。この位の些事に心を痛める必要はありません」
おろおろと俺を見ながら不安そうに腕を組むお姫様。好感度がうなぎ上りです。
反対に賢者のオッサン、お前こっちが大人しくしてたら好き放題言ってくれるじゃねーか。
そろそろ俺のながーい堪忍袋も限界間近だぞ。
「あのさ、些事って言うなら早く俺をもとの世界に返せよ。巻き込んだのはお前らの責任だろ」
異世界には確かに心躍るが、俺にも生活と言う物があってだな。
確かに凄く凄く楽しそうだしこのまま冒険したい気持ちもあるよ。
(中)とはいえ魔力があるなら魔法も挑戦してみたいし。
でも現実問題、会社はどうする。
家族はどうする。
車の支払いとカードの支払いがあるし、もうすぐ発売する新作ゲームはどうなる。
もう予約してるし、何よりあれだ。
俺の部屋にあるPCのデータとか薄くて高い本とかR指定の入ったDVDとかいろいろ見られたらやばいものの処理とか!!
色々なことが山積みな社会人にとっては何もかも放り投げて生きていけるほど無責任な生活は無いんだ。
「いらないんだろ。なら早く俺をもとの世界に返せ」
「貴様!姫様と賢者殿に何たる口の利き方!」
「うるせーよ。お前らにとっては偉くても俺には初対面の女の子とオッサンだ。あと俺被害者。お前らが下手打って巻き込まれたの、おわかり?義務と責任放棄して被害者に強く出るとか、お里が知れるぞ」
あ、このお里が知れるって言葉一度使ってみたかったんだ。
ちょっと意地悪っぽくてニュアンスが気に入ってたからいつか使ってやろうと目論んでいたんだが…思いのほか悪役口調だなぁ。
「無礼な!!」
「自分でもそう思う」
召喚の間?かな、ここ。そこに居た兵隊が顔を真っ赤にして俺に剣を突き付けてくる。
うわ、近くで見ると迫力…いや、あの、半分くらいは悪ふざけなので今にも殺しそうな勢いの姿勢止めてくれませんか。
こちとら平和ボケした現代日本でゆとり世代とか言われるもやしっ子なので、戦闘とかマジ勘弁!
「まぁ、待ってください。僕たちもまだ混乱しているんです、大目に見ていただけませんか」
お、おお!
黙り込んでた勇者くんがまさかの援護を買って出てくれたよ。
流石に勇者くんに言われては兵隊さんも強く出られないのか賢者のオッサンに視線でお伺いを立てている。
すると賢者のオッサンが何か言いたそうなお姫様を手で遮るような動作を取った後、嫌そうな表情を隠しもせず説明し始めた。
俺たちをこの世界に召喚するにあたり、星の位置が重要になってくると言う事。
それは日付、時間がほんの少しでも狂うと成功せず、また膨大な魔力が必要になる。恐らく俺が巻き込まれたのは星の位置が秒単位でズレたか魔力量の調整を誤ったか、真実は定かでないがそれらが作用した可能性があると。
また招くのは簡単だが、送るとなると軸も時間も不明瞭なため、元の世界元の時間に確実に戻れる保証はない…はい詰んだー!!
「なにか、俺はこのガキどもに巻き込まれた上に帰れないと。車とカードのローンどうすんだよ、会社は?ばれたらやばいモンの処理は!?」
「お前が何を言っているのかはわからないが、この世界の一大事に人間一人の為に便宜を図るわけにもいかないのだ。理解しろ」
「相変わらず上から目線だなオッサン。そのうち罰が下るぞ」
毛根が徐々に死滅して頭が焼け野原になるような罰が下ればいいなったらいいな!
異世界に来るにしても、何にしても、部屋の中の整理整頓をする猶予はほしいよね。
あと社会人にはいろんな制約がいっぱいだよ!