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おまけ①【花の国】



 「綺麗な花がまた咲きましたね」

 「ええ。なんていう名にしようかしら」

 「カトレア、なんていかが?」

 「素敵な名前ね」

 そこは、大半が女性の国。

 花の生産が盛んで、様々な品種を咲かせている。

 国の中には四つの季節が存在し、季節に応じた花を多く咲かせていた。

 「あら、また来てるわよ」

 「本当ね。折角だから、お花を摘んでいきましょう」

 女性たちは花を摘んだ。

 そして、足を使って歩くわけではなく、着ている白いワンピースのようなものから羽根を出し、それを動かす。

 花畑を踏まないように飛んでくると、一人の男へと渡した。

 「お久しぶりですわ」

 「ええ、ええ」

 「あなたの好きな花を摘んでまいりましたわ」

 女性達の他の、花を育てていた女性も、男に気付くと皆駆け寄ってきた。

 女性達は、自分達の場所以外を知らない。

 生まれてからずっと、ここにいる。

 そして、決められた男性と子を産み、親となると飛ぶことも出来ず、花を育てる力も失ってしまう。

 しかも一夫多妻制のため、男は色んな女性と関係を持っている。

 「ありがとう。ん、良い香りだ」

 「そうでしょう?もう十年以上もかけて、ようやく咲いた花なの」

 「それは大変だ」

 女性たちは、国にいる男たちとは違うその男に、心惹かれていた。

 だからといって、男と結ばれることなど無いと、それも分かっていた。

 男は自ら名乗ったことがなかった。

 名を聞いても、答えてくれなかった。

 女性たちは男のことを勝手に“グレース”と呼んでいた。

 「ねえ、前から気になっていたんだけど」

 「なんだい?」

 「あなたのその目、とても綺麗な色してるわよね」

 「ああ、これかい」

 グレースの目は、オッドアイで、右目は緑、左目は青をしていた。

 「生まれつきでね。自分ではあまり気にいっていないんだ」

 「あら、もったいない。そんなに綺麗なのに。私達なんて、願ったってその色にはなれないのよ」

 「君達だって、綺麗な目をしていると思うよ」

 グレースのそんな言葉にも、女性たちは一喜一憂してしまう。

 グレースが立ち上がると、もう帰ってしまうのだと、女性達は皆引き留めようとする。

 「もう少しだけいてほしいわ」

 「すまない。これから行くところは遠くてね。またここへ来させてもらうよ」

 「いつでも待ってるわ」

 「ええ、いつでも来て」

 グレースが帰ってしまうと、女性達は名残惜しそうにしながらも、すぐに花の手入れにかかる。




 花を受けとったグレースは、ある国へと急いだ。

 「体調はどうだい?」

 「あら、今日も来てくれたの?」

 「もちろん来るさ」

 先程貰った綺麗な花を花瓶にさすと、ベッドに寝ている女性は微笑んだ。

 「綺麗ね」

 「君の色だよ」

 花は鮮やかな橙色をしていて、それは寝ている女性の髪の色でもあった。

 「私、やっぱり預けることにしたの」

 「・・・そうか」

 「それがきっと、あの子の為なのよ。ねえ、あなたは許してくれる?」

 「君が決めたことなら、応援するよ」

 「ありがとう」

 女性には、子が生まれたばかりだった。

 だが、女性の身体はすでにぼろぼろで、もう長くはないと医師に言われていた。

 グレースは女性にそっと口づけをすると、額と額を合わせる。

 「僕が守って行くよ」

 「お願いね」

 女性の目には、涙が浮かんでいた。

 「明日、来てもらえるように頼んでおく」

 「ありがとう」




 翌日、女性の病室に、グレースともう一人の白髪の老人が来た。

 「どれどれ」

 そういって、老人は女性の傍らで眠る小さな男の子を抱きかかえた。

 男の子は目を開けると、そこに見たことの無い顔を見て、大泣きしてしまった。

 だが、老人はそれを見てホッホッホ、と笑う。

 「元気な子じゃ。それに、綺麗な目をしておるな」

 「僕の遺伝だと思うんです」

 「悪い事ではない。名は決まっておるのか?」

 「それが、迷ってしまって・・・」

 老人は、まだ泣いている男の子を女性に渡すと、長い顎鬚を触りだした。

 「ワシの後を継ぐのであれば、名など重要ではない。だが、名とはその人物を示す重要な宝。後日迎えに来る。その時までにじっくりと二人で考えなさい」

 「はい」

 老人が去って行ったあと、男の子はスヤスヤと寝てしまった。

 グレースはベッドの端に腰かけ、女性の髪を撫でる。

 男の子は、母親に抱かれながら、夢を見た。



 後日、老人がやってくると、すでに女性は亡くなっていた。

 グレースは腕に男の子を抱きながら、そこに座っていた。

 「決めたのか」

 「ええ」

 グレースは老人に男の子を差し出しながら、名を述べた。

 「この子は、ディック。ディックです。どうか、よろしくお願いします」

 「うむ。ワシが責任を持って、この子を立派な伝道者に育てよう」

 「ディック、頑張るんだぞ。何があっても、強く、生きて行くんだぞ」

 老人は、ディックを連れて去って行った。

 グレースは遠くの町に行き、そこでひっそりと暮らした。

 すくすくと育っていったディックの姿に、老人も後継人として任せられると、安心していた。

 心臓に重い病を抱えてしまった老人は、ディックに願いを託す。

 「ディック、何があっても止めてはならぬ。ワシらはそれこそが道標。決して、途絶えさせてはならぬぞ」

 「はい、師匠」

 老人が亡くなり、ディックは墓を作った。




 とある場所に、一人の男がいた。

 男の右目は緑色に輝き、全身はパーカーつきの布で覆われていた。

 肩からかえられた大きなショルダーバッグ。

 男の名は、誰も知らない。

 男は歴史の表のみならず、闇に葬られるであろう出来事を、史実として書き記す。

 その男の姿はいつの世にも現れた。

 過去にも未来にも顔を見せるというその男は、人々に希望も絶望も見せる。

 男の正体が何であれ、彼は決して目を背けない。

 それは、教えられたから、というだけではない。

 自らの過去にも立ち向かえる強さを持つ為、彼は真っ直ぐに歩く。

 「ねえお兄ちゃん、何をしてるの?」

 「・・・物語を、書いてるんだ」

 「どんな?」

 「そうだな・・・。例えば・・・」

 彼らの意志は、受け継がれる。

 永遠はなくとも、紡がれていく。


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