書神 ローレライ
「ふあぁ~」
もう一度大あくびをしてやっと寝台から降りる。
「ラド!!もう朝よ!!」
隣の家から元気のいい娘がローレライの愛称である『ラドール』をさらに省略した名を呼ぶ。
「今行くよ、ブラン」
ローレライも彼女の名を愛称で呼ぶ。
彼女の名はブランシュ・フローレス・アルドン。
彼女の一族は、考古学者として有名だ。
彼女も考古学の博士である。
しかし、彼女は他の考古学者とは随分違う。
この世界の考古学は主に遺跡の発掘や古代文字の解読だ。
彼女は遺跡を発掘しない。古代文字もあまり解読しない。
彼女の専門分野は…。
人物のプロファイル。
史実を元に心理学を用いて歴史の人物たちの心理状態を調べあげる。
そのため彼女は考古学の博士号と心理学の博士号の両方を持っている。
「ラド!早くしないと朝ごはん下げるわ!」
「もう少し気長に待ってくれないか?」
「無理!!」
『はいはい』とローレライが言えば、後ろから『はいは一回!!』という声が聞こえた。
ローレライはふらふらしながら、ブランシュの家に向かった。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
ブランシュはローレライの向かい合わせの席に座り、一緒に食事をする。
彼女はどんなに忙しくてもローレライの分まで食事を作り一緒に食べる。
本当に良くできた娘だ。
「ご馳走さま」
ブランシュはローレライの横から食器を取り、洗い始める。
「近頃の仕事の様子はどうだい?何か面白いこととかないのかい?」
「あんまり目覚ましい発見はないわ。資料を手に入れようにも…誰かが買い取っていて調べられないし」
買い取られて調べられない。
ローレライは思った。
資料は買う物ではない。見つける物だ。
「ふうん、どの時代の資料?」
「ヴォルティエ王朝の資料。時代は分からない」
ヴォルティエ王朝。
考古学史上、一番謎が多い王朝だ。
どのような文化があったか、王は、何故その王朝は滅亡したのか、政治の仕組みや、高名な人物たちですら解明されていない。
しかも、どの時代の王朝かすらもはっきりとされていない。
(む?そいえば、その王朝の資料らしき物をこの前、50冊買い取った気がする)
この手の資料はまともな手段では手に入らない。
裏社会の人々に手引きさせ、初めて手に入る。
すごい桁の額にはなるが価値を考えれば妥当か安いぐらいだ。
金に関してはそんな資料集めにしか使わないし、これでもロード家の一人。父と兄の捨てぶちで余裕で買える。
「――――ブラン、ごめん。多分その資料買い取った人に心当たりがある」
「ふ~ん……っ!何ですってぇ!!」
ブランシュはすごい勢いでローレライに掴みかかる。
「誰っ!誰なのっ!?」
「あなたが胸ぐら掴んでいる人です。」
「あんただったのっ!」
「はい。写本と原本の両方を買い取りました」
一応、無抵抗のサインである証で両手を上げてるローレライ。
そうしなければ目の前の最強歴史博士に殺される。
「今すぐその50冊を※歴省に寄付しなさい」
「嫌です。結構な値はしました。合計三千万※ユーグ。その資料を元に小説を書く予定です」
普通の人なら驚く値にブランシュの瞳は据わる。
「あんた…また法外な手口で買ったわね!歴省より先に手に入れるために!!」
「はい。歴史省に持っていかれたら二度と表に出てこないし。―――小説が書けなくなるのは嫌です」
きっぱり言い切るローレライ。
(そうだ。こいつの頭の中は常に小説。―――歴史小説)
三度の飯より歴史小説が好き。
―――読む方ではなく書く方。
ローレライに文才がなければ、ブランシュは問答無用でその50冊の資料や他の歴史資料を取り上げていただろう。
しかし、ローレライは運がいいのか、天才なのか、前世での行いが良かったのかは知らないが文才がある。ものすごくある。
「ところでブラン。そろそろ胸ぐらを離してください。それと―――仕事の時間大丈夫?」
ハッとブランシュは時計を見る。
8時15分。
仕事は30分から。
家から仕事場まで20分かかる。
思考が追いつき、悲鳴を上げる。
「瞬間移動で送ってあげるから荷物持って」
ローレライの言葉と同時にブランシュは仕事鞄を持つ。
「忘れ物ない?」
「大丈夫!」
その言葉を聞いたローレライは瞬間移動の魔法をかける。
シュッン!
ブランシュの姿が消える。
一応、ローレライはブランシュの気配をたどり、無事仕事場に着いたかどうかを確認する。
別な場所だったら洒落にならない。
無事に着いている。
「さてと」
今日は何をしよう?
ローレライ:あれ?今日俺が後書き担当?ん?置き手紙がある。
『ローレライさん、ユーグと歴省の説明をお願いします。作者より』
ローレライ:投げやりな作者だ…。まあいいや、ユーグはこの世界のお金のこと。1ユーグ1円の価値がある。歴省は歴史省の略でブランの仕事場。他にも様々な省があるけどそれは本編で細かい説明があるので今は気にしない方がいい。
ん?紙が飛んできた。なになに…『ここまで読んでいただきありがとうございます。次回もお付き合い下さると幸いです。』――作者と同じくここまで読んでいただきありがとうございます。次の物語でまた会いましょう。