表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一次創作物

雨色

作者: 蒼山詩乃

 今日の夜は自分の部屋に繋がっている、小さなベランダから見えるマンション前を眺めていた。

 コンクリートの間から咲く、小さく白い花を無惨にも大人気なく殺しにかかってくるような雨が、辺り一面に蒼色の光を届けていた。それをずっと眺めていると、海中に閉じ込められたイワシになったような気分になる。

 海水で溺れる僕。それはそれでいいのかもしれない。そんな死に方をしてみたい。村上春樹だって、短編小説で死に方を考える作品が多分一つあったはずだ。よく読んだのに、名前はおぼろげだ。内容だけははっきりと覚えている。

 でも今は、色が違うな。その作品は焚き火だったけど、現実世界では雨だ。冷たさの中にある温かさではなく、冷たさの奥にある無慈悲さ。それだけが今、人々に与えられ続けているもの。

 ちょこちょこ体勢を眺めながら、雨がコンクリートに落ちているであろうところを眺めていると、一本の広げたピンク色の傘がマンションのエントランスから姿を現した。

 プリントアウトされていた柄から、妹の傘であることがわかった。

 そういやあいつ、今日約束がある、って少しほころんだ顔をして俺に言っていたな。

 適当に聞き流していたら急に怒り出して、書きかけの小説データを消去しようとして必死に止めた、数時間前の出来事を思いふける。

 なにげにかまってちゃんの気はあるよな。社交的で、俺なんかより友達とか仲良くしているように見えるのだけどなあ。

 傘は既に地下鉄の方へ進んでおり、角を曲がって俺の視界の中では、完全に消える。

 ぼんやりとしていると、雨が一層勢いを増していることに遅れながらも気がつく。

 蒼色もまた、比例するようにだんだん濃くなってきた。

 少しずつ染められてゆく世界には、一人も外に出ていない。

 多少路地裏みたいなところでもあるけど、もう午後六時だ。そろそろ人々が帰路に着いているはずだ。

 そういえば、妹は何の用でこんな時間に出かけたのだろうか。デート?

 だったら何で怒ったのだろう。ますます訳わからない。

 そこで俺が頭を悩ませてもしょうがない。

 只今は、ただただ体を蒼色に沈めてゆくだけ。

 目を閉じる。

 ほら、聞こえるだろう。

 ザーザー

なんか書きたかったから、書いただけだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして、こんばんは。 水桜さんが綴る文章がとても好きです。纏う雰囲気が心地よくて、気がつくと繰り返し読んでしまいます。噎せ返るような雨の匂いと音が聞こえてきそうで、すごく素敵でした。眠…
[一言] 雨の音が聞こえました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ