表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/85

スペルキャスト

「火の球が出たのには驚いたが…。抉れてるだけみたいだな、少し威力が低く無いか?」

「基本設定だとこんなもんだろうよ。小型化の後は扱い易さを優先したからな。仕方あるめえ」

 たっぷり数秒驚いた後、俺は負け惜しみを口に出した。

 おやっさんが無視できない事を呟いたのに、後で気がついたくらいだから…。

 俺は本当に驚いて居たのだろう。いや、マジで仰天したよ。

「小型化したのは良いが、対物弾頭の兵器としても火炎放射器としても中途半端どころの話じゃないぞ?」

「基本設定ならと言ったろうが!火力の増強や延焼効果は別物だ。このバカモンが!」

 俺は混乱した頭を知ったして、ゆっくりと事態を咀嚼して行く。

 おやっさんの意図が判らなかったが、以前の『作業鞄』との比較だろうと想定し、樹は斬り倒したり燃やしたりしていた太さを選んだのだ。

 この位置なら燃えても周囲ごと延焼せず、折れるのだとしてもこっちに倒れない辺りを狙ったはず。

 だが、結果として火の球は幹を大きく抉ったというレベル。延焼も焦げ臭いレベルで…。

 もし仮にこのモジュールが『作業鞄』の代用だとしたら、比較にならない微弱な能力ではないかと、俺は『言い訳』したのだ。


「基本設定…。ということは、準備や設定次第で火炎放射器や削岩機並の事ができるのか?」

「当たり前の事を抜かすな小僧!ワシを誰だと思っとるんじゃ」

 認めよう。俺は未知の技術に狼狽していた。

 おやっさんが言った重要事項を、繰り返され今把握する位に狼狽していた。

 もちろんコレが敵対者の武器ならば、武器は武器だと割り切って行動に出ていたはずなのに…。

 事態を把握すると同時に、コレをどうやって使いこなそうか考え始めて…そこで思考が停止していたみたいだ。

 それだけ、このモジュールが長所と欠点に、そして可能性に満ち溢れていたと言えるだろう。

「まずはこのモジュールについて知ってる範囲で言ってみろ。二度手間は面倒だからな」

「そうだな…。エネルギー供給ユニットは別で、コマンドの一つ投射範囲の一つとっても、別途の入力と面倒くさい手順があったと思うが」

 俺は記憶にある限りの情報について説明し始めた。

 宇宙服に付ける『作業鞄』とあだ名されるユニットから小型化したが、大幅に手順や中途作業が増えたという物だ。

 エネルギー供給ユニットの他、専用のコマンド入力手段と、細かい投射コントロールが必要と表示されていた。

「火で言うと、固形爆薬まで燃料たらして点火した方が遥かに早い。そんな感想を覚えたよ」

 さっきの火球で例えると…。

 手の中に有る熱源モジュールを起点に、数メートル先に熱エネルギーを発生させ、さらに直進するように投射する事を決めねばならない。

 そこに必要な物は、熱源用供給装置・コマンド入力装置・投射法の制御装置となる。

 入力に取られる時間も馬鹿にならないので、火炎放射器と比べて勝るのはサイズくらいだった。

 比べて今の火球はどうだ…。威力こそチャチだが、火力を増減できるなら相当な利便性があるだろう。


「間違っちゃあいねえなあ。そん時と、どう違うかと言えばだ」

 おやっさんは俺の聞きかじりを耳にすると、軽く頷いて押し黙った。

 どこから説明しようか、あるいはどの部分から解説した方が手っ取り早いのか…。

 おそらくそんな感じで順番なり、重要な部分を選んでいるのだろう。

「万能さを捨てる事で、入力の手間と投射制御を不要になった。火炎放射器で火の輪くぐりをする必要はあるめえ?」

「ということは『さっきの設定』では、火の球にしか出来ないって事か?」

 コクリと頷いて、おやっさんは俺の理解であっていると告げた。

 片手で煙草かわりの野草を取り出すと、火をつけて煙を吸い込む。

 言うだけなら容易いが、相当な苦労の積み重ねがあったはずだ…。

 それを言い出したい気持ちを微塵も感じさせる事無く、おやっさんは必要な事だけを選んで続きを話す。

「予め入力したパターンにしかならねえが、決めておきゃあ輪っかでも放射状にだって投射出来る。肝心なのは…、その入力や変更に時間が掛かるようじゃあ、お粗末だ」

 そう言いながら、おやっさんは新しいモジュールを俺に手渡し、役目を終えて輝きの消えた古い方を回収する。

 良く見れば色の組み合わせが違い、役目の違う内容であると伺い知れた。

 何をするのか興味が湧いたが、ここで質問しても気を悪くするだけだろう。黙って次の言葉を待つ事にする。


「片手に持って、開いた方の手でその辺の枯れ枝でも拾え」

「あいよ。こんな感じでいいのか?」

 モジュールの片方が同じ物で、もう1つが別の物だった。

 ということはやるべき内容は半分ほど被っているということで、さらに指示の内容が樹に向けろでは無く、枝を拾えと言う事は…。

 そこまで俺の推測が付いた段階で、おやっさんは露骨に笑って何かの操作をした。

 その瞬間に枯れ枝は先から燃え上がり、そのうち持てなくなって放り投げる羽目になる。

「ここまでの火力なら先に言ってくれよ。火傷しちまうだろ」

「だが悪くねえだろ?簡単に言っちまえば、同時に持つモジュールによってコマンドや投射パターンを固定化した。最初は面倒だが、慣れりゃあ簡単だ」

 短縮コマンド用のボタンを、モジュール自身に設定してしまったという事なのだろう。

 よくよく考えれば、ソレは昔から有る方法であったと言えなくもない。目から鱗と言えなくも無いが…。

 重要なのは旅で使えるかどうか、だ。

 もちろん、旅で最も良く使う組み合わせを見たことで、この技術に対する興味は最高潮を迎えていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ