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二人目のドミネーター

「おやっさんは『大丈夫』かなぁ」

 野営の後を片して、再び居住区へのコースを歩く。

 竹を割ったような判り易い人だ、このアホらしい実験(あえて陰謀とは呼ぶまい)に関わっているかは直ぐに判るだろう。

 加担していようといまいと適度に付き合えば良いのだが…。

 問題なのは首謀者の一人でいきなり襲って来るとか、逆に目障りだと殺されている可能性もある。

「まあ、おやっさんの腕を考えれば、殺すよりは利用するか放置だろうけどな」

 杞憂と判って居ても感じてしまう不安を、楽観論を口に出すことでかき消す。

 話に聞いた限り、新技術は造られたばかりで未発達だ。

 使い勝手は悪そうだし、性能もタカが知れるレベルだろう。この段階で有能な技術者を殺すだなんて、異常事態を起こした意味が半減しかねない。

 少なくとも辿り着いたら死んでいるなんて事は無いだろうし、仲は良い方なので死んでいて欲しくは無い。


「あれか…。思ったよりも遠いが、このままのペースでも今日明日中には辿り着けそうだ」

 粗末な柵が見え、随分と離れた小高い丘に建物が確認出来た。

 遠視装置で建物の周囲を確認すると、草を踏み分けた地面とガッシリした本格的な柵が巡らせてある。急げば今晩中には…。

 そう考えた時、俺は二つの選択肢をあえて追加した。

 一つ目は言うまでも無く可能な限り急いで、日が暮れる前に安全であろう居住区へ飛び込む。

 二つ目は無理せず、むしろ様子見するつもりで明日いっぱい掛けて確認をするという物だ。

「いや、ないな」

 俺は首を振って付け加えた選択肢を否定した。

 ビビって逃げ込んだと思われるのは別に構わないが…。

 無理して掛け込んだあげく猛獣を引き連れたり、猛獣避けの罠に飛び込むのも馬鹿馬鹿しい。

 まして誰かに監視されるとしたら、作為に気が付き陰謀として対処していると思われる方が後々の面倒になる。

「無理せずこのまま行くか。獣を気にせずに居られる寝床があるだけマシと思っとこう」

 まあ、おやっさんが管理してるんじゃあ、快適とは言えねえだろうけどな。

 寝食を忘れて作業や研究に没頭するような人だ、まともな日常生活を期待する方が無理だろう。

 せめて温かく寝られる事を臨みながら、俺は歩き続けた。


「いよう。誰かと思ったら根無し草の小僧じゃねえか、相変わらずしけたツラだ」

「そう言うおやっさんこそ酒樽ぶりは同じじゃねえか。見上げるような巨漢だったって言う祖先に詫びてろよ」

 粗末な柵を踏み越えて、丘を目指す途中で声を掛けられた。

 野太い声に相応しいガッシリした体格に赤ら顔、ビヤ樽を思わせる体型はおやっさんに間違いな。

 意外だったのは工房では無く野外で出会った事だ。

 付け加えるなら、俺を殺すにしても猛獣を狙うにしても軽装で…。とうてい未開発の惑星でうろつく格好ではない。

「お前が居るなら調度いい。代わりに使ってみろ」

「相変わらずの伝法だな。主語を入れてくれねえと、何の事だかサッパリだよ」

 もちろん、嘘だ。

 おやっさんが試しに来たなら例のモジュール以外にありえない。

「チッ。口の減らねえ小僧だ。モジュールを改良中に決まってるだろうが」

「ひゅーっ。流石はドヴェルグと言われる事だけはあるぜ。いい仕事してやがる」

 軽口を言いかえすと、おやっさんは赤ら顔をますます赤くして怒り始めた。

 バイキングの末裔と言えば巨漢というイメージが強いが、背が低く小太りなのを気にしているらしい。

 それはそれで居直れば立派な名前になのに、気にするものだから、ついついからかってしまう。

 …違うな。あんまり懐かしいもんだから、つい昔ながらの口論をしたくなったのだ。


「悪りぃ悪りぃ。これ以上は言わねえからあんまり怒るなよ。…だけどよ、あんまり軽装過ぎるんで作業モジュールの話とは思えなかったのさ」

「カカカッ。お前の想像力で語るんじゃねえ。セットはこっちでやってやるから、鞄にコイツを放りこめ」

 遠まわしに技術を褒めると、おやっさんは怒り顔をニヤリと崩した。

 相変わらず判り易い人だ…。

 とは思いつつ、軽装に意表をつかれたのは本当なので、言われたままに作業鞄へ包みを放りこんだ。

 カチャカチャと小さな音を立てたそれは、あの時に遠視装置で見たアレなのだろうか?

「そいつは一種の中間装置だ。こっちがモジュールになるから、しっかり握って適当な樹に向けな」

「作業ユニットとの中間?なんだか面倒になってないか?しかも2つもかよ…」

 過程を増やしてどうするよ…。

 睨みつける俺に対して、おやっさんはドヤ顔を見せた。

 どうやら想定された通りの応えを返してしまったらしく、いいから向けて見ろと言い直される。

 想像がつかないので諦めて従うと、手渡された宝石大のモジュール達から光が漏れ始め……。

「火の球が飛んでった!?」

 俺の拳の先辺りから、反動も無く火の球が飛び出ると大きな樹に命中する。

 ソレはブスブスと焦げ臭いを発し、確かに火の痕跡を示していた。

 この状況を理解するのに、少しだけ時間が掛かった。


 いやいや、進んだ技術は本当に魔法と区別が付かねえ……。


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