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名も無き星の冒険者  作者: 流水斎
第ニ章
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騙し合いの果てに

『幻覚!?馬鹿な、そんな物へ簡単に…いや、待てよ?』

「その通りだ。こちら側で『私』は、ほとんど何もしなかったろう?しようとしたとしても、クロガネあたりが必死で止めたはずだ」

 驚愕を浮かべるエキスマキナに、伯爵が少しずつ説明して行く。

 言葉は彼の武器であり、説得する気など無くとも、時間を稼ぐことで有利になるなら…。

 幾らでも操って見せるし、死にかけた仲間が苦しむ事も、あえて顔には出さないで居られる。


 ましてこの好機は仲間が必死で作ってくれたものだ、心を動かして今後に禍根を残すつもりはなかった。

『じゃあ、表で矢避けの呪文を維持し続けていたのも…』

「意味も無く呪文の影響下にあったら、いくらなんでも不審に思うだろう?全ては、この瞬間を作る為だよ。…判ったかね?」

 良くできました。と教師が褒めるように、伯爵は説明を続けて行く。

 その結果、エキスマキナが激昂する事も、先ほどのやり取りで掴んで居たのだろう。


『ちくしょう!ボクをハメやがったな!?…だけどな、残念だったって言ってやる。君の仲間は死んでしまったし、君自身、水中の中じゃあボクを追い駆けてこれないだろう!!』

「ああ、その通りだな。…だが聞きたいのだがね、私にとってアドベンチャー達が死んで痛いと思うのかね?」

 淡々と、そして心底意外そうな顔を伯爵は浮かべた。

 えっと思わず声をあげるエキスマキナに、ため息をつくと丁寧に答えてやる。


 一言二言、エキスマキナの理解が追いつくまで待ってから続けて行く。

「確かにクロガネに関しては少々惜しい。だが、残る2人に反感を持たせたのは他ならぬ君だろう?」

「この状況下で、どうして私があの2人の事を惜しまねばならんのかね。むしろ協力してくれた事に感謝すべきだろう」

「そら、私が悔しがる必要は無い。…そして水中へ入る必要も無いのに、無防備に飛び込む訳も無い」

 そんな事も判らないのか…。

 伯爵はもう一度ため息をつくと、馬鹿にしたと言うよりは、心底見下したような目線を向けた。


 もちろんエキスマキナにだって、その説法がおかしい事は判る。

 何しろここにはモルガナ達だっているのだ、彼女がサルマンデルと親しい事は調べていたし…。

 多大な犠牲を出して自分を討伐したというよりも、妥協案を出してここまで手早く来たのなら、駒を失うのも惜しいはずなのだ。

『そんなバカな。君たちが今後も順調にやって行くには、犠牲なんか出したら!だいたいサルマンデルを見捨てたら…まさか…!』

「犠牲なら既に、これ以上ないくらいに出ていると思うがね。マスターナンバーの事故死、4番目の離反とね。…なんだ、ようやく気がついたのか。モルガナはとっくに救助に行っているとも」

 少しさがって、会話中に口を挟まない様にしていたモルガナは…。

 当然のことながら幻覚であった。

 この時点で、怒り狂っているとはいえ、エキスマキナが気が付けなかった事実に思い至れば。

 もしかしたら、結果は違っていたのかもしれない。

 だが、悠長に会話していた事が、救助の為の時間稼ぎであるという50点の回答を示された時点で…。


 エキスマキナは、真の目的から完全に目をそらされてしまっていた。

 これならば確かに正しい理論であり、感情論的にも理解が出来る。

 騙されているのは許せないが、ならばそれ相応の報復をしてやらねば気が済まなかったのだ。

『ゆっ、許せないな。ここまでボクを馬鹿にしやがって。…今からでもボクの方が先に探しだせるはずだ。…いいや、水中生物を連れて来て、無残に喰わせた方が速いんじゃないかなぁ…』

「愚かな…。もはや君はどこにも行けないし、どうもする事はできんさ。逃げる時間を無駄にしたいなら、構わないから水に潜ってみたまえ」

 …?

 ハッキリと判るほど歪んで居たエキスマキナの顔は、奇妙な具合に歪み直した。

 理解できない。

 ここには彼が関与する壁など無いし、アドベンチャーが立てていた土壁に関与できたとしても…。

 位置的に離れ過ぎていて、影響などあるとは思えなかったのだが…。


『ハッタリを!そんなにボクを馬鹿にしたいのか!いいさ、ならばせいぜい吠えずらを…』

「理解できないなら理解してもらうとしよう。…我が王国に雨は来ませり。乾いた大地に潤いを、人々に水の祝福をもたらさん。それは寿ぎ、そして対魔の水である。魔なるものよ、貴兄に行くあてなど無し」

 伯爵が呪文を朗々と唱える。

 歌にも似た旋律で、水を造り出す呪文を紡ぎあげる。

 それは彼の力を与えられ、干渉する事が約束されたルールに定められた物であった。


 ただの水であれば情報体と干渉波であるエキスマキナは抜けられる、だが、伯爵のルールによる干渉波のおびた水であれば…。

 彼にとっても抜けられるはずがないではないか。

『ぬ、ぎ…。ががが、なっ流される!?痛くもかゆくも無いのに、ボクの身体の行く事が…』

「もしかして、私が投げ網だけを使うと思ったのかね?それならば攻撃呪文で焼き切れると?…まあ最初はそのつもりでサルマンデルに渡していたのだがね。君らは夢中だったようなので、先に…水の生成呪文の方に細工をさせてもらったよ」

 まさかサルマンデルが使うのを忘れていると思わなかったがね…。

 いや、彼女も泳いでいるなら使えなかったかな?

 伯爵はそう言って、心の底から苦笑した…。


ゲーム風解説第38回


@学生のすること

学園での行動は、概ね2つに別れます。

1つは学園に持ち込まれた依頼に対応し、学園の装備を持ち出してする事。

もう1つは、様々な実験での検証になります。


学園ですが、10-30名の教室で基本授業を一通り受けた後

教師ごとに、1-5人程度の担当を受け持ちます。

これは教師が細かく指導する人数の限界であり、小隊として学園に持ち込まれた依頼へ当たる為です。


教師はその権限により

学生に依頼に必要なアイテムを貸し出したり、実権の為に様々なアイテムや

場合によっては、一時的なクラスチェンジを認めたりします。


例として転移をあげますが

1:このレア・モジュールを貸し出して、冒険してみる

2:一時的に魔術師になって、冒険中に研究室を呼び出すスキルを使ってみる

3:この結果から、1の呪文に限定下のアレンジを掛け、必要物資だけを呼び寄せる呪文を作るべきか?

 コスト的にどのくらいなら効率が良いのか、あるいは、効率が良くとも犯罪に使えそうだから後悔しない方が良いのか?


などを日夜研究したりします。

この結果、成果物として、剣や弾丸だけを召喚する呪文を作成し

召喚門や、ソレを前提とした流派に公開するわけです。


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