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危険の臭い

「さてと、どうしたもんかね…」

 急成長して通れなくなっていた道を迂回して、何度目かの進路変更。

 途中で鉄錆びた臭いを嗅いだ俺は、再度の回り路を覚悟したからだ。

 ほどほどのサイズでも獣は危険だし、恐竜じみた大きさと聞いて居たから尚更警戒しておく。

 攻撃手段も一応用意はしちゃあいるが、避ける事が出来る状態で、なおかつ相手の能力を把握していない状態でやり合う気は無い。

「まあ、新しいユニットとやらを使いこなせば倒せるんだろうが…。無い物ねだりは良くねえよな」

 実物がここにあっても、試し撃ちして無い物を使う気にもならないが…。

 以前に使っていた『作業鞄』には、鉄板を焼き切る道具も岩を砕く装置もあった。

 小さくなった分、火力は落ちているかもしれないが…、そんじょそこらの獣を倒せない事は無いだろう。

 問題なのは有効範囲に入れられるかだ、当たらなければどんな武器だって効きゃあしないし、その意味で獣は足が速すぎて厄介だった。

「向こうに着いたら早速、おやっさんから新ユニットとやらを仕入れないとな。そん時までに、もうちょっと使い方をなんとかして欲しいもんだ」

 おやっさんの事だから、手に入れた新技術を弄り倒さずにはいられないはずだ。

 素人である俺の目からしても技術的にまだまだ荒削りで、数十のユニットを持ち歩いて組み合わせ様な面倒くさい物を、そのままにしておくとは思えない。

 到着したら進歩したユニットが完成している、なんて奇跡はないだろうが…。


「っと、どうにも独り言が多くていけねえ。コンピューター相手に喋りすぎたな。…監察はさっさと終わらせちまおう」

 気がつけば、俺は『必要も無い危険からは避けるべき』という心得を、どこかに放りだしていた。

 問題があれば乗り越えて見たいという興味と差し引きして、ついその誘惑に勝てなかったのだ。

 どこか陰謀の臭いがする今回の異常事態と違って、単なる危険であったから…というのもあるだろう。

 風上の中で可能な限りの高台に登ると、遠視装置を使って可能な限りの情報を集め始める。

 そこには俊敏な捕食者に囲まれた、ずっと大きな獣がいた…。

「…喰われてるのは確かに恐竜サイズの獣だが、襲ってるのはかなり小さいな。変異が早過ぎる」

 先ほどまでの独り言と違い、今度は明確な意図を持って考えを口に出す。

 言葉にする事によって考えを整理し、今起こっている事態を咀嚼する為だ。

 生物の進化と淘汰が、聞いていたよりもずっと早い。

 途中まではテラ・フォーミングによって作為的だが、中断してからの移り変わりが尋常ではなさ過ぎた。

「こいつはやっぱり誰かの陰謀…あるいは実験かね。誰が考えたのかしらねえが冗談みたいな状況だぜ」

 だが、悪くない冗談だ。

 意図的な進化はともかく、新しい技術と明確な困難ってやつは、乗り越えるには楽しい目標であり過ぎた。

 だからこそ、前向きで居られたし…。

 だからこそ、作為的を感じ取れた。

「あの馬鹿女は別にして、おやっさんにあいつ、それに俺。出来すぎだな」

 よくよく考えてみれば、今起きているのは、殆どがこの状況を楽しめる奴ばかりだ。

 名前しか知らない連中も、恐らくはそういう奴らだろう。

 だとすれば、これは意図して組まれた陰謀というか、作為的な実験である可能性が高い。


「あれが作業モジュール群ってやつかな。確かに小せえ…っ、本当に喰いやがった」

 キラリと輝く物を目にした俺は、考えを中断して詳細の確認を続行した。

 鈍く光る宝石の様な塊が数個、大型の『恐竜』から露出する。

 喰いついて居た中型の『獣』たちは、それに気が付くと今食べている部位を放っておいて、我先に喰いらい付く。

 …気の弱い女の子ならば確実に卒倒するような捕食劇を見ながら、俺は作為に対して確実にクロであると断定した。

「光モンが好きな生物も居るが、喰う為じゃねえよなぁ。つーか美味そうには見えねえ」

 ついでに喰う。というよりは、明らかに優先していた。

 異常事態を加速し生物に強制的な進化を目論んだ誰かが、優先順位を書きこんだのだ。

 倒れている『恐竜』や食らいついてる『獣』の周囲に、何の『痕跡』も無い事にホっとするが油断はならない。

 はっきりいって、喰ったからといってすぐさま進化を遂げるとは思えないが…。弄る奴が居るなら何世代か後にはモジュールを役立てる個体が出現するかもしれない。

 少なくとも現時点で、いきなり火を吐いたりしないだろう。だとしたら扱えるように進化を促された種が一般化する前に、『要請』に関してひと段落を付ける事は可能なはずだ。


「可能なはず…か。我ながら気弱な事だ」

 俺は監察を終了すると、居住区画への旅を再開する。

 他の『獣』が寄って来ても面倒だし、作業ユニットの端末であるモジュール群を見かけた事で、実際に使ってみたいと気持ちを抑えられくなったからだ。

 未知の物を触ってみたいという願望が半分、もう半分は一刻も早く新技術で装備を整え直したかったのもある。

 俺はそれなりに腕があると言える方だが、問題なのは同レベルの相手が敵に回る可能性を捨てきれない。

「異常状態に、支配者並の強力な裁量権を持たされたドミネーター。…敵に回すと厄介だからな」

 単に新世界を造りたいだけのアホなら、『それは壮大な夢ですね』ですむが、邪魔物扱いされたらコトだ。

 だいたい、陰謀に対処するなんて俺のガラじゃない。

 真相解明はやりたい奴に任せるとして、巻き込まれない程度の対処と…何より今後の事を考える。

 俺は対処すべき異常事態から、攻略すべき問題として頭を切り替え始めた…。


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