無意味な勝率
…ヴォン。
薄暗い倉庫の中、朝の静けさを破って、光と音が漏れ始める。
カチリと金属がこすれ合う音がして、奥から甲冑が動き出した。
鎧を軋ませながら歩くのだが、不思議な事に四足の下半身を持っている。
まるで伝承に言う、ケンタウルスのようだった。
「おー。そのドローン、とうとう完成したのかよ。どう戦うのか見物だな」
「バカモン!恐竜の相手をさせたら壊れるわ。…こいつを動かしたのはここの留守を預からせる為だ」
この四足の甲冑は、おやっさんが造り出したフィギア・スタッフ対応型のドローン・ロボット…。
ゴーレムとか言う肉体面だけを強化したクラスだ。
これから戦いに行くから、つい期待しちまったが、戻ってくる場所を守るのは確かに重要だよな。
四足にしてるのも、移動力を特化してる…のかな?
「で、こいつが戦力になるか聞きに来たと言う事は、なんだ勝てるか不安なのか?」
「おやっさんは騙せねえよなぁ。一番の不安だけどよ…、俺が報告したドラゴンレベルの奴、おやっさんならどのくらいで二体目を造れる?」
隠して置いても意味が無いので、俺は包み隠さず喋ってしまう事にした。
真面目な話、二人で致命傷付近まで追い込めたことから、ドラゴン一体なら難しくねえ。
問題なのは、他にも隠し玉があって…そいつも『あの』レベルっかってことだ。
「わしと比べるのか?まあ…こだわり過ぎる部分と相殺すればそんなモンか。モチーフを思い付けるかどうかと、準備期間だろうな」
「準備期間は無いと言いてえが…。今回の話の前から用意してたら判らねえよなぁ。じゃあ後はぶっつけ本番か」
素人と比べるな!と言おうとしたようだが、おやっさんは少し黙って冷静に考える。
おやっさんの方が設定や開発の腕が優れていると行っても、局地的になら、ズブの素人の方が上を行く事もあるだろう。
今回のドラゴンに関してもそうで…。
おやっさんなら…そうだな、俊敏な獣が恐竜より強いのを目指す過程の途中か、総量的に恐竜と変わらないので脅威では無くなっていたかもしれねえ。
「遅くまで話しあった挙句に、今朝から直ぐに出ると言ったのはお前さんだろう?勝てると思ってたが…」
「当然勝てるさ。増えたとして、雑魚が呪文を使うくらいなら余裕だな。…ただ、あのクラスが二体居るなら、俺たち全員が戦闘に専念しないとマズイ」
単純な戦力なら有利なんだけどな。
…だがドラゴンを倒すには最低でも3人必要だとする。
となると、同時並行で4番目を確実に包囲して倒すには、ギリギリの人数で戦力が微妙になる。
「ドラゴンに勝つ事が最重要目標じゃねえ。4番目を倒したうえで、ここに全員が戻ってくる事が一番重要なんだ。ドローンに此処を守らせるのも、帰ってくる事が前提だろ?」
「そりゃあ確かにの。…敵の戦力を高く計算し過ぎな気もするが、まあ想定して置いて損は無いか」
最大の問題は、有利では意味が無く、奴逃がしただけで負けという勝利条件の狭さだった。
対してこっちは一人も欠ける訳にはいかねえと、敗北条件が厳しい。もし奴が護衛を増やして居たら?
雑魚が呪文を使うくらいなら、機転を聞かせて幾らでもなんとかできるが…。
敵戦力を過小評価して良い事が無いし、俺は最大限に見積もって置く事にした。
相手は必ずこっちの裏をかいてくるってな。
「それじゃあドラゴンとやらは無視…というか足止めだけして、4番目を優先したらどうだ?」
「…クロガネ、それでは駄目なのだよ。断言しても良い、その時点で奴は逃げ出すだろう」
「あんたも朝が早いね…。伯爵の言う通りだ、奴が迷う程度の…詰将棋にしなくちゃならねえって事さ」
戦力が足らないなら、ドラゴンを相手にしなければ良い…。
おやっさんの言う事も当然だ、だが当然だからこそ成立しない。
どうやら俺と同じ様な不安を覚えたらしく、戦力を見繕いに尋ねて来た伯爵が俺の言いたい事を口にする。
俺達は良い手はないかと二手・三手先へ考えを巡らせ始めた…。
「しかし、4番目の方がその勝負に乗って来るとは限るまい?こちらを見つけた段階で逃げ出したら?」
「そん時は俺と伯爵が追跡に専念してる間に、みんながドラゴンを瞬殺して終わりさ。奴としてもリスクが高いと思う」
「奴から見れば、本来は十分に間に合う時間だ。設備があって護衛が居るという条件が都合よく幾つもはあるまい」
詰将棋に例えたのは、実にこのへんの読みあいだった。
4番目が自分の存在理由を無視して、こちらに脅威を与えずに逃げる可能性は確かにある。
だが、俺の追跡力と伯爵の優位性を考えれば、奴は不用意な逃げは打たないだろう。
奴の想定の範囲内で、その想像を超える事が出来れば、捕捉して撃滅する事ができるんだがなあ。
「先に言って置くが空間系で呼び寄せたり、駆け付けたりは考えるなよ?ソレを実行しようと思ったら、わしかモルガナが戦力外に成る」
「やれやれ。どうにも手詰まりだな。後は移動しながら考えるとしようぜ。3人…いや女性陣を待たせる訳にゃあいかねえ」
「そう言えば料理を作っていてくれるのだったか。しかし…なんだな、モルガナはともかく…残り2人は少し不安になるな」
出口の無い答えに、俺達は考えを中断して出発前の食事に向かう事にした。
最後の晩餐というには粗末だし、朝食と言うのが味気ないが…。
その辺はモルガナが上手くやるだろうとか思いつつ、残り2人が協力しているというのが俺達に共通する悪夢であった。
「わしらの方で美味い料理が出来るなら、こんな不安が無いように出来るんだがの」
「我々では、レシピ通りに形ばかりの物を作るだけで精一杯だからな。あまり面白くは…。我々なら?」
「…待てよ?あまりに前提条件過ぎて忘れてたが、俺たちの役割分担って固定じゃなかったよな…」
おやっさんの愚痴に付き合う形で頷いていた伯爵が、唐突に押し黙った。
俺も同様の閃きに達し、二人揃って答えが脳裏に浮かんだようだ。
口に出してみれば否定し合うだけなので、お互いにもう少し推敲してから意見を出し合う事になるだろう。
だが、俺達の手が届くところに光明が見えた気がした。
その名前を勝利と言う…。
ゲーム風解説第29回
@賢明な行動と、行動修正
いよいよ終盤に向けて走り出し、あとは第一部完というところまで行くだけですが
この辺で判定修正の話を。
能力値+サイコロ2つによる判定があり
そこからくる達成値の比べ合いがゲームの成功を分けることになります。
ですが、ここでより有利に動ける行動をとることで
より高い修正を得る事が可能です(逆に不利な行動ではマイナス)
例えば、Aボタンを押したら「戦う」と言う感じで戦闘すれば、成功率は同じ程度ですが
ここで相手の気がつかない場所に回り込む、あるいは仲間達と一緒に取り囲む事で
判定に修正を得る事が出来ます。
同時に、奇襲される・囲まれた方は、回避力にマイナスの修正が入るので非常に不利なことになります。
なお合計で入る修正値は事なる物の
一部の例外を除いて敵味方で二重に計算されることはありません。
基本的には、ちょっと有利+1、かなり有利+2、状況をひっくり返すほど+5ほどの修正値が入ります。




