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名も無き星の冒険者  作者: 流水斎
第ニ章
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ルールの裁定者

「おやー、早速に切り札を見せるなんて随分と気前がいいねえ」

「こう言う事は早めに済ませて置くものだ。…それこそ4番目の罠に陥って困るからな」

 アマデウスが茶化す声を適当にすませて、伯爵は簡単にメモを書き始めた。

 そのままガラス窓まで歩き、そのメモを張りつける。

 そして彼用のフィギア・スタッフを起動させると、何かの術を仕掛けたらしい。

 …らしい、というのは俺にはサッパリ検討がつかないからだ。


「さて、アドベンチャー。遠視呪文で窓の向こうを見てくれるかね?」

「そんなんで良いのか?…ちょいと待ってくれ、せっかくだから新たらしいバリエーションのお披露目もやっとく」

「谷で手に入れたモジュールか?あれをどうやって使うんだ?」

 伯爵の要請に従って、俺は遠視呪文を起動させようとした所で、使い方を切り替える事にした。

 洗面器に水を汲んで、テーブルの上に置く。

 一緒にモジュールを手に入れたあいつは使い方が判らないらしく、黙って見ておけと俺は笑った。

「多人数がる時用は俺一人の時と違うって気がついたんでな。ちょうど手に入れた事だし、作っといたんだ。…水鏡よ、映し出せ」

「ほう、これは便利だ。作戦会議にはピッタリだが…。とりあえず窓の向こうを写してくれ」

 これまで使っていたパターンだと、俺一人しか見る事が出来ない。

 今度は洗面器に入れた水へ映し出し、全員で見る事が出来るようにして置く。

 もちろん良い事ばかりでは無く、間接的に見る事になるので、俺自身の習熟スキルとか使えないのが難点だが…。

 伯爵が言う様に、全員で手分けするにはピッタリだった。


「じゃあ位置設定を動かすぞ…って、何で拡大して映らないんだ?」

「周囲はクリアに映るし、窓の向こうだけ拡大しないみたいねえ。ここから出る結論として、さっき伯爵が使った呪文は結界用かしら?」

「それなら切り札とは呼ばんさ。…では、本題に入ろう。私はアドベンチャーの遠視呪文の到達を、許可する。ただし時間設定は5分だけだ」

 遠視呪文を映し出す洗面器は、スクリーンの様にゆっくりと写す場所を変える。

 だが、透明なガラスの向こうまで拡大して写すはずなのに…そこには肉眼で見たのと同じ光景が映っていた。

 周囲の窓枠などは拡大して映ったままで、モルガナが言う様に、窓ガラスにだけ結界を張ったのか?

 そう思った時、疑問を予想していた伯爵は、窓ガラスに張りつけたメモへ、1つ文章を加えて行く。

 注意してメモを読むと、視認・通行を妨げると書かれた一行の下に、言葉通り俺の視認を限定的に許可すると言う内容を付け加えているようだった。


「…急に拡大すると目眩がするわね。でも、メモ書きだけで切り替えが可能だなんて…どういう原理なのかしら」

「原理の方はクロガネに聞きたまえ。私が注文した能力は、私の定めたルールを受け入れた物に対して、私の決定に優先権が来ると言う物だ」

「ああ、なるほど。権利の上位者として設定したんだね…。と言う事は、肉眼での方は問題無いのか」

 モルガナの疑問に対し、伯爵は彼らしい尊大さで語り始めた。

 それを遮る様にアマデウスが掻い摘んで説明すると、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 だけどまあ、コンピューターの命令者として上位ナンバーに立つようなもんだよな。

 なんとなくコンプレックスを感じる物の、俺は黙って納得する事にした。


「理論とかはどうでも良い。…とりあえず、伯爵が居れば4番目に物理攻撃が効かないという現状を打破できると?」

「サルマンデルの言う事だな。装置をとりつければ獣を大人しくさせたりもできるが、今回に限っては、こちらの方面が有効だろう」

「おーらい。んじゃあ、伯爵を切り札として奴を追い込んで行くとしようぜ何かあっても死んでくれるなよ?」

 人間に対しても獣と同じ様に洗脳できるなら大問題だが、それを先に言われる前に、俺達の目の前でやって見せたのだろう。

 4番目が煽って来る前に、教えて貰えたのは大きいだろう。

 奴の不死性に対して、伯爵の力は圧倒的に有利な相性に有るからだ。

 場合によっては伯爵を狙う攻撃を、俺達が身体を張って止める必要すらあるくらいに、この状況は大きな情報だった。


「…それで、てめえはどうすんだアマデウス?」

「どうするもこうするも無いでしょ?ここまで順序が決まったら、反対する意味なんて無いもん。決定にしたがって、協力しますよ~」

「何時でもその調子ならありたがいのだがな…。まあいい、早速にドラゴン退治の相談といこう」

 俺が腹を割って協力を要請したことで、伯爵の方も歩み寄って来た。

 彼の発言力と、力の有効性を示す行為なので曲者じゃあったが、まあこの際は有りがたい事だと受け止めて置く。

 その辺の絡みで紆余曲折がなさそうなんで、アマデウスの方も特には文句を告げずに協力を約束する。


 これで道筋は整った…。

 あとは4番目の喉元に、ナイフの切っ先を突きつけてやるだけだ!


ゲーム風解説第28回


聖職者ロードモナークの特性

 信じているのが神であろうと邪神であろうと、権力やお金であろうと…。

定めたルールに従わせるのが、このゲームにおける聖職者の役割です。

予め道筋を決定して置き、その定めたルールと方向性に対して許可を得た

いわゆる聖別した対象に対し

術者は大きな優先権が発生します。

日常生活に置いてこの力の意味は大きく、邪悪な物を退け、味方には大きな力となるでしょう。

 なお物理的には意味がありませんが、鍵となる呪文を使用する事で、限定呪文よりも便利にルールを設定する事が出来ます。

今回の様に、紙面に書きこむことで、最初の設定と順次変更するなど

その多様性は大きく、前提条件さえクリアすれば、術者には特に負担が無いのも大きな特徴になります。


オマケ:集合管理のモジュール

今回、遠視呪文に使ったのは

一定の集合物を、一として管理する『砂』属性のモジュールです。

これでひと括りにすると、水や砂などを対象に出来るほか…、もっとも大きな効用としては

逆転効果のモジュールと組み合わせることで、集合の逆である分解として使う事も出来ます。

(ディスペル・マジックになるという意味です)

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