表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/85

フロンティア

「確認するが、ここは地表なのか?体の具合を把握したら直ぐに出るぞ」

『はい。現時点で、既に地表に到着して居ます』

『体調の管理は万全です。以前と同じ状態で行動が可能です』

 通り一辺倒の回答に、俺は笑うしか無かった。

 起きてから、意識が事態を把握するまでに、結構なタイムラグがあったのだ。

 機械にしてみれば保存した記憶のロード時間程度に考えているのかもしれないが、生憎と俺はそこまで信用できない。

 そもそも不慮の事態が無いとしても、久々に体を動かしてみたいというのは当然の欲求だろう。

「再調整し直したら、試乗や試射する物もあるだろう。あれと同じだよ、使い手である俺自身が自分の性能が万全か把握したいんだ」

『扉から出て正面に日常的な生活を送れるスペースがあります。トレーニングルームは…』

 勝手知ったるなんとやらだ。

 以前と異なるという警告が無かった段階で、返答など聞かずに『リビング』向かって歩き出す。

 扉を開けると見知った構成に大きな差は無く、鏡で自分の姿に差がない事を確かめる。


「外面は問題なさそうだな。軽く体を動かしてみるか…」

 黒目黒髪をした典型的な東洋人の姿が姿身に映り、かつての記憶と狂いが無い事を確かめる。

 体に影響を与えるような外傷も特に残って無い。

 これならばちょっとした運動を行っても支障がなさそうだった。

 その後は軽く腹ごしらえでも…。と思った時、ようやく機械音が返答を返さない事に気が付いた。

「そういやあ此処には殆ど設置してなかったな。自分で作るとしますか」

 ハッキリいって、そこまで機械に管理されたくない。

 そう言ってプライベートスペースの類には、体調管理など最低限のコンピューターしか用意し無かったのを思い出す。

 当時の誰が言い出したのかは忘れたが、その時は喝采を覚えたものだ。

 面倒だと言う奴は栄養剤でもかっ喰らって貰うとして、俺は適当に調理する事にした。


「居住区画までの地図を可能な範囲で転送しといてくれ。それと誰か残っているなら、徒歩で向かうから期待しないで待ってくれと伝言を頼む」

『了解しました。正確な地図ではありませんが最新の物と、測定可能なデータを照合して転送します』

『伝言を送信しました』

 ストレッチやロードワークで軽く汗を流した俺は、鍋に火を掛けるとMAPと伝言を頼んでおいた。

 端末に最新のMAPが転送され、卵が煮えるまでの間にザっと目を通して確認する。

 地図は比較的新しい物だが、テラ・フォーミングの一環で、急成長する改良型の植物を植えているので、それほど当てにはならないからだ。

 それでも無いよりはいいし、居住区画までの道のりが判れば構わなかった。

『伝言に対する返答なし。なお現時点で居住している『クロガネ』は、この一週間ほど応答がありません』

「ベース維持の担当がおやっさんなら、即座に返答がある方が珍しいぜ。おおかた工房に籠ってるんだろうよ」

『はい。『クロガネ』は作業モジュール群の改良作業を実行中です』

 俺が適当に答えた相槌に、機械音が律儀に追い駆けて来る。

 はいよ、とやはり適当な返答を返して、俺はベーコンを取り出すと火にかけ始めた。

 カリカリになるまで焼くと、トーストの上に載せて最後の文明的な食事に取りかかる。

 別段旨いという程ではなく、料理を極めたダチが懐かしくなったが、『起きて』居ないのでは仕方無い。

 つい二人分焼いて余っちまったベーコンは、煮え過ぎて固茹でになってしまった卵ともども、保存食にしちまう事にした。


「それじゃあ出駆けて来るが、念の為に向こうに着くまでの日程分は待機しといてくれ。その後は適宜に軌道上に戻れ」

『はい。了解しました。エマジェーンシーを確認するまで、本システムは待機モードに入ります』

『本システムは捜索能力を除き、待機モードに入りました。良い旅をお祈りいたします』

 それから荷物を担いで降下船を飛び出すと、うっとおしい機械音が船外まで着いて来た。

 未知への冒険としては出鼻を挫かれた思いだが、機械のする事と苦笑して、振り返りもせずに手を振って応答の意思だけを示す。

 これから楽しい道中と思えば許容範囲だし、危険な生成生物に出会ったら逃げ込む事になるのだ。

「また…な。次にそのうっとおしい声を聞くのが何時か知らねえが…」

 機械に対して愛想とは気味が悪いという奴も居たが、俺の故郷では万物に魂が宿ると聞いた覚えがある。

 最後の最後くらい、愛想を良くしてもバチは当たるまい。

 資料でしか見た事の無いジャングルめいた道を進みつつ、俺は新しい星に第一歩を記した。

 うさん臭い陰謀騒ぎと、それらが造り出してくれた未知への期待を込めて…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ