二人の再開
「よう。何をくっちゃべってるんだ?峠の向こうまで丸聞こえだぜ?」
「っっっ!!貴様、何時からそこに居た!?じゃなくて、何処から聞いて居た?」
その時、サルマンデルは頭の中身が真っ白になった。
独り言を言う癖があるのは知っていたが、どうせ滅多に人間に出会わないからと気にもしなかったのが、結局は行けなかったのだろう。
まさか考え事を口にしているとは思わず、しかも妄想している最中に、よりにもよってその相手に聞かれてしまうだなんて…。
「あん?割りと最初っからポイが、詳細が聞こえ出したのは、別に風呂に入る必要なんて辺り……。まて、止めろやめろ!」
「死ねしねしね死ね。聞いた内容を今すぐ忘れろ。記憶を無くせー!!!!」
彼女は真っ赤になって絶叫をあげた。
アドベンチャーが咄嗟に何かするのに気が付く事もなく、右手左手に連続で火炎の矢を出現させる。
ソレは火の球になって次々と炸裂し、もうもうと立ち登る煙を見て、視界を遮る煙ごと打ち抜こうとした。
「ストップ、ストップ!お前、俺を殺す気か!?最後の方だけしか聞いて無いから、いい加減にしろ!」
「もっ、燃え尽き……。ほ、本当だな?」
加算系のモジュールを強化項目に組み入れ、辺り一帯を薙ぎ払おうとした彼女を、アドベンチャーは寸前で喰い止める。
聞いて居ないのは本当だが、この反応を見ればだいたい判るけどな…。
とは流石に言えず、頬を書いて誤魔化しつつ、サルマンデルが落ち着くのを待った。
「で、ここで何をやってたんだ?見た処は…焚火にしか見えないが」
「…松明を造っていたんだ。見ればわかるだろうっ、燃え尽きてる…。これというのも、全て貴様のせいだ」
明らかな言いがかりに対して、さいですかと男は適当に流した。
肩を怒らせてゼイゼイと大暴れしていた女を落ち着かせ、ナーバスな部分が鎮まるまで時間を稼ぐ。
赤面した顔を落ち浮かせようと頬を叩く仕草なんかは可愛いと思うのだが、それならそうともうちょっと落ち着いて欲しいとか、ストレートな素直さであって欲しいと思わなくもない。
情熱を窺わせる赤毛に豊かなボディ。少しも似合わないダークスーツ状の戦闘服。
ここまでは良いとして、ラテン系の情緒豊かな感性と、東洋系の秘めて置くのを良しとする概念が中途半端に混ざっている。
ハーフとは言えここまでゴチャゴチャしなくても、と思いつつ続く言葉を待つ事にした。
おおよそ、何を言われるかは判っていたけれども…。
「そうだ、誤魔化される所だった…。私は進捗状況を聞きに来たんだ。もちろん惑星探索の事じゃないぞ?司書の事と、この異常事態に対する調査の事だ」
「…誤魔化してなんていねーよ。とはいえ、どこから気が付いて、どこまで理解しているかが問題なんだが…」
話題を替える意味でも、サルマンデルは当初の用件を持ちだした。
尋ねられたアドベンチャーは、単刀直入な質問に、困ったようなフリをする。
実際に困っているのだが、単純な彼女ですらそう思っているのならば、隠しておける者でも無いだろう。
となれば、自分の方が疑われない内に、さっさと話してしまうに限ると決心を決めるのである。
「確認するんだが、てめーの番号は幾つだ?俺は七番なんだが」
「番号?私は六番だ。モルガナは五番と言っていたがな」
それは知ってるよ…。
アドベンチャーはそう言って周囲に明かりを灯し、地面に書き物をすべく適当な枝を取った。
その様子に自分が苦労した呪文をアッサリ使う男に、サルマンデルは含む所があったが、黙って見守っておく。
「いいか?異常事態が起こって俺ら対策班が投入される意味で順次増えてるんだが、俺は七人目だ」
彼ら初期移民者は、様々な職能を持ったエージェントの中から、状況に合わせた責任者が起こされる。
順番としては最も必要な管理者をマスターナンバーを0として、次席の1番には対極の性質の者がサポートにつく。
今の責任者が知識系の司書なので、行政を中心とした実務型の伯爵が補うという形。
その後に各種の技術者・専門家が必要に応じて起こされ、今回の様な問題であれば、対策能力に長けた彼らが目覚めたという訳だ。
「それがどうしたんだ?通し番号も七なんだから、変な所なんて無いじゃないか」
「あのな…。その高性能なオツムをクリアにして、よーく考えろ。覚醒している者は七名、通し番号も七。だけどよ、管理者はマスターナンバーだから基本の0なんだぞ?」
そう、それが問題。
どこまで異常事態に関わっているかは別にして、数字が合わないのだ。
1番に行政担当の伯爵。
2番の技術師に改良担当のクロガネ。
5、6、7は先ほど言った通りである。
「技術が熟成し出した所で起きたのが、生態系の学者であるアマデウスとして…。4残りは誰なんだ?伯爵は名前くらいしってるが、4番に関して俺はまったく知らないぞ?」
「そう言えば私も知らないし、会った事がないな…。クロガネの後に起きた技術・知識で3番か、対策班で起きた4番なんだろうけど…としか」
初期移民者は職能を持つ、それなりの腕前・やり遂げる精神性を前提とした集団だ。
名前や人種などは二の次で、同じ名前が多かったり、出会いもしない相手すら居るくらいだ。
(アルベルトとアルバルトと、アルフレッドと言う人が同時に起きている事もある)
それゆえに判り易い通名で呼び合う事が多く、良く知らない人が居るのは、むしろ当たり前なのだが…。
「一人多い奴が肝心のタイミング…。怪しいってもんじゃないだろう!何で他のメンバーに聞かなかったんだ」
「事故で無く事件で有る可能性を考えて、迂闊に聞きまわれなかったんだよ…。コンピューターが告げた通し名は、『エキス・マキナ』とか言ってたが、生憎と覚えはねえ」
キナ臭いなんてもんじゃない。
一人多いなんてミステリーの常道な上、(おそらくは)誰もしらない奴がそいつなのだ。
何かあるとしても、重要な役割を担っているのは確かだろう。
ゲーム風解説第六話とオマケ
『フィギア・スタッフ』とキャラクター・クラス
宇宙服と、専用ツールという組み合わせであったが
技術の革新的な進化、そして使い勝手の良くなる進歩よって劇的に変化して行く。
作業鞄と呼ばれた専用ツールは、付け替えが必要な大容量・大型の物から
特定の組み合わせならば、少量で組み合わせられるスタッフへと移り変わった。
やがてスタッフの制御に必要な能力を拡張、あるいは特定要素に集約する形式が顕れる。
それがキャラクター・クラス(職能性質)であり、スタッフに組み込むことで完成する
フィギア・スタッフの登場である。
キャラクター・クラス
当初はなんとなくやっていた組み合わせなのであろうが、ある種の利便性があるからという一面も持つ。
そうなれば当然、同じ事を考えない人間が居ない訳では無い。
同様の利便性を追求し、性質を解析して拡張、一部に集約する役割を持たせたのがクラスの開発経緯である。
最初に登場したのは魔法系の特質を3つ持つサルマンデルを参考に精霊が
そしてその逆である、肉体系能力向上を3つ組み合わせたゴーレムが判り易さからくみ上げられる。
続いてモジュール管理能力に長けた魔術師、母船からの能力継承持つレギオン…という風に、最初の七人が多いに参考になったという。
オマケ:ドミネーターの通し名
初期移民者は百名~二百名程度の職能集団で、基本的に数人単位で交替性で行動する。
生態維持エネルギー(食料その他の)を節約する意味でも、テラ・フォーミングかかる無意味な時間を短縮する意味でも、その大部分は凍結されて眠って過ごす事となる。
ここで問題となるのは
特化系のスペシャリスト・万能系のゼネラリストなどの差はあれ
様々な能力を持つ事が優先され、名前や人種などは考慮されていない事である。
よって同様の名前やスポンサーが重複する事も珍しく無く、基本的には眠って過ごす事から出会わない者も多い。
そこでもっぱらに使われるのが、特徴を顕した通し名である。
同じ医局に所属するエージェントや上位のアークエージェントであっても、様々な差があり
登場するモルガナの他にも、ケイ・ローンやアスクレピオス、万能型のフィンまで様々な人物が居る。
必要になった段階で起きるメンバーが決まるのだが
黎明期である事を踏まえて仲間内でのスキル習熟を考慮しモルガナとケイロンが選定され、戦闘担当や探索担当が別部門になる事から、ケイローンが外される事になった。
これが逆に、医師に野外能力や自衛能力が必要ならばフィールドワークのケイローンが、統治能力も同時に求められるならフィンの出番となる。
なお通し名の決まり方は、イメージ元に似ているかとか血統はほぼ関係無く
友人同士の呼称紹介が先に来る為に、
周囲の持つイメージと、順番性が重要になる。
この為、クロガネがドヴェルグでもバイキングでも無いのは、本人の意向もあるが順番の問題である。
なお、後にドヴェルグやバイキングも起床し、技術局に勤めたので
ここはドワーフ族の集落か?と周囲は冗談交じりに語ったものである。




