ネクストターゲット
ハフハフと血の滴る肉を頬張り、熱い液体ごと飲み下す。
無くなれば鋭い歯と強靭な顎で新しい肉を噛みちぎり、同じ様に簡単な咀嚼で喉元を通らせる。
そんな『獣』が数匹、大きな『恐竜』にまとわりついて居るのが、眼下に見下ろす事が出来た。
「アバヨ。まとめてくたばれ」
俺はピッと指を弾くと、対岸に目標を定めた『魔法』が弾ける。
崖が尋常では無い勢いで、バラバラと落下する岩が獣たちめがけて殺到した。
比較的に無事で潜り抜けるモノもいるが、運悪く直撃するモノも居る。
恐るべき生命力を持ってしても、岩と言う無慈悲なカタマリだけはいかんともしがたかった。
そして…。
「悪ィな。危険を冒してまで作業する気はねーんだわ」
ビュオ!
再び指を弾くと、先ほどと同じナニカが無事だった獣に直撃する。
土煙を巻き込んだ事で改めて姿を現したナニカは、圧縮空気に分類される物であろう。
気流操作のモジュールによって造られたソレは、巨大なハンマーで殴りつけたようにふら付く獣たちへ襲いかかった。
「やれやれ。固定に来たのに埋めた方が早いなんてアホらしいよな。まあ大型重機なんてないから仕方ねえが」
これで何度目の作業だったろうか?御蔭で慣れはしたが…。
固定化作業の為に調べた岩盤も、崩れ易い場所が多すぎたので、めでたく利用する事になった訳だ。
最初はやって来る獣一匹倒すのに何回の攻撃が必要か、平均してモジュールを幾つ回収出来るのか計算していたが…。面倒になってた事もあり、まとめて処分する事にした。
とってつけた『魔法』なんぞよりも物理的な衝撃の方が、当たり前ながら圧倒的な威力を誇り…。
オカゲサマで生き残った獣を狩るだけの、割りと楽な作業になっていた。
「さてと、トドメを刺してモジュールを剥ぎ取るとしますか」
風を止めたおかげで血の臭いは漏れないが、その分だけ悪臭が酷い。
気絶してる奴にだけ手槍でトドメさしながらマスクを付けると、俺は解体作業に入った。
土砂に埋もれず露出している部分にだけ狙いを絞り、探知反応のある場所を深く抉って行く。
血と肉の中から取り出されたソレは、…だからこそ煌びやかな宝玉の様にも見えた。
「っとダブリか。流石にもうこの辺に違う種類は無いってことかな。だいぶ均したし、そろそろ潮時かねえ」
取り出したモジュールをまとめて袋の中に放りこむと、俺は大雑把に予定を立て始める。
地図に載ってる範囲を自分で確認しつつ、効果ポイントまでの位置に直通路らしき物を作り上げた。
これだけやれば、おやっさんにも義理を果たしたろう。
俺が持ち出す以上のモジュールを戦利品にしているし、地図に無い領域を目指して旅に出る時かもしれなかった。
「まずは他の五人を探しだして情報交換…、場合によっては顔合わせだけかな」
ようやくこの地で、それなりにやって行く自信を付ける事が出来た。
今更ながらに、この『起こされた』異常事態に向きあう事にする。
起きている中に犯人は居るのか、それともその直前に眠った連中か?
…いや、そんな事は極論を言えばどうだって良い。
今後も俺達の不利になる事をするつもりなのか、それとも満足して知らないフリをするのか確かめねばならなかった。
「支配者ごっこに付き合う気はねえしな。早いとこ、この星を俺達の故郷にしたいもんだぜ」
その為であるならば、ある程度の妥協はしても良かった。
綺麗事を言って追い詰めるよりも、新しい環境になれて、面白おかしいだけの日々を送れるようにする方が、俺にとっては遥かに重要だ。
警察と裁判官は他の連中がやればいいとして、その妥協範囲を探る事が何よりの重要事だと思える。
「…まあ逢って見ないと、こればっかりは判らんよなぁ」
問題なのは、俺の目的、そして犯人との目的がカチ合わない事を祈るしかないことだろう。
なにしろ俺達は強大な権限を任されたドミネーター、いわゆる支配者だからだ。
支配者ごっこしたい奴が居るとして、自分に影響ないなら他人をほっておく俺と同じ奴なのか、あるいは何もかも欲しい奴なのかにもよる。
「俺の知らない奴も居るのが厄介だな。あいつや馬鹿女には渡りを付けて置くとして…」
今回起きている連中には、俺の知って居る奴も知らない奴も居る。
『アマデウス』なんかは話に聞いてて、興味本位で今回みたいな事をやりかねない性格をしてるのは知ってるが、残りはまるで知らなかった。
まずは友人たちを経由して情報を収集しつつ、それぞれのスタンスを聞く事から始めるしかないか…。
「あいつに真っ先に会いもんだが…、神出鬼没は相変わらずって言ってたよな。となると馬鹿女の痕跡を探して歩くのか?アホらし過ぎる」
俺はその時点で、背後関係を洗う事を本気で投げ出し掛かった。
常日頃から面倒くさいやつなのに、こっちから探しに行くだなんて馬鹿げてる。
そうは思いつつも、気楽な探索だらけの日々を送る為には、必要最低限の情報を手に入れなければならないと…。頭の隅から懸念が消える事は無かった。
「仕方ねえ。めぼしい場所を歩きながら、連絡くらいはつけるとすっか」
地図の内側と外側を分ける場所の一角で、まずは知らない場所に行ってみるという興味で、げんなりする心を奮い立たせる。
俺は自分を励ます様に呟くと、次に目標と定めていた大きな山へ、ゆっくりと歩き出した。
この日を境に、地図に新しい領域が加わり始める。
急成長を続ける森によっていつまでも新しいままでは居られないが、彼の活躍であるのは間違いがないだろう。