俺…生まれ変わるから。
「これで終わるんだ………………。」
「や、やめろよ!」
「何もかもこれで……。」
「真也ぁぁあ!」
4秒後………。
真也の体は30メートル下の天に向かって槍のように尖った岩に叩きつけられた。
その場に僕は崩れ落ち、泣き叫んだ。
夕日が僕の涙をオレンジ色に染めて、いたずらに感じるくらいに輝いていた。
真也は自殺した……。
真也は二重人格の恐怖に負けてしまった。
僕が真也の異変に気付いたのは三日前だった。
しかし真也は一年も前から、苦しんでいた。
それになんで気付かなかったんだ……。
三日前……。
「おう!真也!」
朝、通学路で真也の後ろ姿を見つけた僕は、軽く肩をポンっとたたいていつもどうりあいさつをした。
「おっ!卓哉!」
「なんか目蓋が重そうだぞ!寝不足かぁ??深夜番組見すぎなんじゃねぇの?」
「んなことねぇよ!12時に寝たんだから!でもねみぃんだよなぁ……。体だるぃし!」
「やっぱ深夜番組の見…………」
「ちげぇって!」
この時からすでに始まっていた。
その異変に僕は気付くことすらできなかった。
授業中……。
真也はずっと寝ていた。昨日の夜は徹夜だったのか、学校の間ずぅ〜〜っと寝ていた。
「おまえ、今日寝すぎだな!徹夜だったの?」
六時間目終了のチャイムがなり、気になっていたことを聞いてみた。
もう帰る時間なので、真也を起こした。
目をこすりながら真也は起きた。
「うん……。ちょっとな………。」
「そんなにねみぃの?昨日何してたんだよ?」
「いや……いいじゃん!最近眠いんだよ!」
「ちゃんと寝てんのかよ?寝ないと体もたないぞ!」
「あ………。うん。ちょっと先生に話あるから!先に帰ってて!」
「話ってなんだよ!おい!」
真也は足早に走っていった。
何か………ひっかかる所がある。
俺は急いで真也についていくことにした。
真也は担任の先生を誘い生徒指導室に入っていった。
俺は耳を近付け自分の声を殺し聴覚に神経を集中した。
しかし二人は小声ではなしているのか、聞き取りづらかった。
しばらく聞いていると担任の声が聞こえた。
「二重人格か……。」
二重人格……?
真也が……?
そうか……。それだったら話はつながる。
真也が家に帰り、人格が変わる。
夜中にもう一人の真也が行動する。
そして朝、人格が真也に戻る。
だから学校で眠い……。
真也に夜のことを聞いても何も言わなかったのは、覚えてないからなんだ……。
真也…………。
なぜ俺に話さない。
俺じゃ力不足か……?
「今日は遅いから、また明日きなさい。」
先生の声がした。
「やばぃ!!くる!」
僕は急いでその場を離れた。
真也か思い詰めた表情で出てきた。
そしてそのまま俯きながら帰っていった。
とても声をかけることなんてできなかった。
僕はその場に頭を掻き毟りながら座り込んだ。
あいつは……家に帰っても………。
真也が一人で怯えているんだ。
もう一人の自分の存在に恐怖を感じているんだ。
僕はしばらくその場から動くことができなかった。
日が暮れて、家についてもあの言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
「二重人格………。」
僕は携帯を手に取り、リダイヤルから真也の番号を探した。
思い切って聞いてみよう。そう思った。
でも電話した相手が真也だとは限らない。
もう一人の真也だったら、いったい何を話すんだ?
そんなこと考えても何も始まらない。
僕は電話をかけた。
「あっもしもし………真也か?」
「えっ………あぁ。どうしたんだ?」
すぐに真也が出た。
「あのさ……今日おまえの様子がおかしいと思っててさ……。気になってたんだ。」
「おかしい?俺はいつもどうりだぜ!」
「………話せよ。俺に………。」
「話せ?何を?」
「とぼけんなよ!悩んでることがあるんだろ?」
「はっ?だから何を?」
「二重人格。」
その言葉をいった途端、沈黙が走った。
「おれ…………。」
「何?」
「寝るわ!」
「はっ?」
「いや、明日も学校だしさ!今日は早めに寝るよ!また学校で寝てるのも、変だし。ということで、じゃな!」
「おい!真也!!まだ八時半じゃん!」
プープープー。
やっぱりなにか隠してる。
どうしたら………。
真也を助けられるんだ?
いろいろ考えているうちに朝がきた。
教室に入り、席に座った。
今日は真也…………学校休んでるみたいだ。
きっと昨日も真也の中で人格がいれかわり……。
あんまり考えたくなかった。考えていたら辛くなった。
ピピピピッ!
「あっ!電話だ!…………………真也?」
どうしたんだろうと疑問に感じて電話にでた。
「もしもし!真也?どうした?」
「……話があるんだ。」
その声を聞いた時、あまりの疲れ切ったような声に驚いた。
「どうしたんだよ?」
「できるだけ早くいつものところに来てくれないか?」
「………わかった。今から行く!」
僕は先生に早退届けを出して、学校を飛び出した。
いつもの場所………。
僕と真也がいつも遊んでいた、あの場所。
保育園の時も、小学校の時も、中学校の部活帰り、二人でいつも話していた。
真也が待っている。
急がないと………。
急がないと!
町の住宅街を抜けて、10分くらい走った所に小高い丘がある。
そこに登ると180度海しかなくて、ちょうど夕日が海の真ん中に沈んで行く。中学校の時、毎日この景色を見ていた。
息を切らしながら全力でその場所に向かった。
真也は先についていて、何か、思い詰めた顔をしていた。
「真也、話って……?」
僕は額から流れ落ちる汗を拭きながら、真也に話しかけた。
「わるいな。俺は先行くわ。」
真也が黒い幕で覆われているように感じた。
そう感じれるほど真也にいつもの明るさはなかった。
「おい!先に行くってなんだよ!どこ行くんだよ?」
「この崖のした………。」
「そんな……。まさか………。」
「自殺することにした。」
「冗談やめろよ!自殺してなになるんだよ!」
「もう疲れたんだよ。」
「なに言ってんだよ!」
「これで終わるんだ………………。」
「や、やめろよ!」
「何もかもこれで……。」
「真也ぁぁあ!」
4秒後………。
真也の体は30メートル下の天に向かって槍のように尖った岩に叩きつけられた。
その場に僕は崩れ落ち、泣き叫んだ。
夕日が僕の涙をオレンジ色に染めて、いたずらに感じるくらいに輝いていた。
真也は自殺した……。
俺に何も言わずに……。
一人で全部抱え込んだまま……。
真也はこの世界から消えた。
その日は警察からいろいろ取り調べを受けた。
僕は完全に犯人扱いだ。
まぁ無理もない。あの場所にいたのは僕だけ………。警察に疑われてもしょうがない。
その日は家に帰してもらえず、警察署で夜を明かした。
次の日警察の疑いが一気に晴れた。
真也の家から遺書が見つかったからだ。
取り調べ室で取り調べを受けていた僕に真也の遺書が手渡された。
その遺書を見て、驚きと愕然の涙を流した。
『 卓哉。今までありがとな。卓哉がこの遺書を読んでる時は俺はこの世界にはいない。
落ち着いて聞いてくれ。
おまえは二重人格なんだ。
そのことに気付いたのは約一年前。
夜中の一時に卓哉から電話がきた。
その声を聞いた瞬間、寒気がした。
卓哉じゃない……。
ドスがきいていて、重々しく、口調も卓哉とは違っていた。
卓哉はこう言った。
「今からうちにこい。来なかったら殺す。」
俺は卓哉が寝呆けているんだと思い込みそのまま布団に入った。
電話が来てから10分後、大きなノコギリをもった卓哉が窓を突き破り家に入ってきた。
卓哉はノコギリを俺の首にあてながらこういった。
「次裏切ったら、殺すからな。これから毎日誘ってやる。」
その日から毎晩同じ時間に卓哉から電話がきた。
毎晩俺の家の前に車をとめて、俺を朝までつれ回した。
もう一人の卓哉は狂っていた。ありとあらゆる犯罪を犯した。
暴行。レイプ。強盗。覚醒剤。
毎日毎日いろんなことをした。俺は車のなかで震えながら見ていた。
そして昨日の夜、とうとう卓哉は人を殺した。
20代前半の男を。
もう一人の卓哉は笑い叫びながらナイフで刺しまくっていた。
俺には悪魔が乗り移ったように見えた。
その日の帰り、血だらけの卓哉は俺にこういった。
「俺達、友達だよな?親友だよな?だから裏切ったら殺すから。」
その恐怖に耐えられなくなった。
だから、俺は……。
この世を去ります。
卓哉………。
早く治せよ。
お前だったら絶対にできるから。
じゃあな!
真也 』
その手紙を読んで、僕は泣き叫んだ。
全部俺のせいだったんだ。
真也……。
今までごめん……。
俺は自分のことにまで鈍感だったのか……。
気遣ってくれてありがとう。
真也っていう親友がいたことを絶対に忘れない。
だから天国で待っててください。
二重人格……。
絶対に治すから。
俺…生まれ変わるから。