転点-テンテン
AM8:56
ホームルームの予鈴のチャイムがなり終わる。調度沙刀の席からは校門がよく見える席で、校門では、予鈴に間に合わず生徒指導室につれていかれていた。
「うわ、めっちゃ連れてかれてんだけど」
「ほんとだー、俺らのクラスの奴いんの?」
盧杞の言葉に、沙刀はクラスを見渡す。しかし、殆どのクラスの奴が、予鈴が鳴ったにも関わらず自分達みたいに席に座っていなかったので、正確にはわからなかった。
ただ、逆にいつも予鈴が鳴ると席に必ず座っているクラス委員の二人がいない。
沙刀は顔にハテナマークを浮かべながら
「佐久間と椎葉がいねーぞ?」
と、盧杞に問いかける。
すると、盧杞もあれ?という顔をした。
「本当だ。あの二人が席に着いてないなんて・・・欠席?いや、もしかして意外にサボりとか?」
「アホか・・・、椎葉の方はともかく佐久間が、学校サボるとかあり得ねぇだろ。あの佐久間だぞ?」
佐久間煤記と椎葉魔虎はクラス委員という間柄からか、よく行動を共にしていることが多い。
しかし彼らは、親友というほど仲が良いわけではなく、協調性の無い椎葉魔虎を、やけに紳士的な正確な佐久間煤記が、周りと馴染ませようと共にいる、といった方がシックリくるのかもしれない。
要するに、佐久間煤記の考えはわからないが、結局、椎葉魔虎には、佐久間煤記と仲良くしておきたいという、友情はまったく無いということだ。
その二人が居ないということは・・・。沙刀が思考を張り巡らせる。
・・・と、その時
「何が、あの佐久間ですか?沙刀君?」
噂をすればなんとやら、とは正にこのことで、ニッコリと紳士的だがドス黒い笑顔を向けて、後ろのドアから入ってきたのは、噂の張本人佐久間だった。
「「ゲッ」」
沙刀と盧杞は互いの顔を見合わせる。
そんな二人に追い討ちをかけるように佐久間は言葉を続けた。
「二人ともおはようございます。朝から僕が居ないのを言いことに、言いたい放題ですね」
ニッコリ
「「・・・・。」」
生まれつきだという、明るめの色をした茶髪と、茶色い瞳だけでは軟派なイメージを匂わせるが、十代というには、余りにも丁寧すぎる彼の言葉使いと上手く溶け込み、日頃から彼は独特の色気を醸し出している。
しかし、何故か時々彼の紳士的な笑顔には、ドス黒いオーラがにじみ出ていた。
これは、決して気のせいではない。
そう、沙刀と盧杞、・・・いや、クラスの全員は確信していた。
何故なら、そんな時の彼は、佐久間煤記は、
【瞳】がいつも本気で笑ってないからだ。
「はぁ、まぁイイですけどね、別に」
これみよがしに、大きなため息を吐く佐久間。
そんな佐久間に二人はヤバイと焦る。そしてそういう時にまず一番大切なのは、どちらが先にこの、ブラックな微笑みから開放されるかということだ。
そして、意外にも先に微笑みから開放されたのは、・・・いや、先に親友と呼べる仲間を裏切ったのは盧杞の方だった。
「ごめん佐久間~ッ!沙刀だって悪気があったワケじゃないんだ!許してあげて!」
そんな盧杞に沙刀はハァッ?!っと顔を睨みつける。
しかし、盧杞は見ようともしない。
「オイ?!俺だけか?!俺だけが悪いのかよ?!」
「そうだよ?だって俺は、佐久間と椎葉は休みなのかな~?っていっただけだし」
「ふざけんな!?元はといえば、お前が、二人ともサボりかなぁ~とか言ってたんだろ」
「ちょっと?!それはいわなッ・・・いや、それは沙刀が言ってたんだよ!」
「はぁー??ちょッオイ!あー!もういい!!お前は今ここで死ね!!」
沙刀は丁度自分の机においてあった未開封のペットボトルを
ガンッ
盧杞の顔面めがけて投げる。
しかし、そのペットボトルは狙いが外れ、盧杞の右肩に命中した。
「ッいッた!!ちょッ何すんだよ」
「お前はがダチを裏切るからだ!」
「だからって普通ペットボトルは投げないでしょ?!」
盧杞も投げられたペットボトルを握りしめ、いよいよ本気な喧嘩になろうとしていた時、
「・・・ハイハイ!このままだと、冗談がマジの喧嘩になりそうだから、もう止めてください。さっきのは冗談で言ったことです。別に二人が本気で僕の悪口いったなんて思ってませんよ」
と佐久間が苦笑いで仲裁に入ったのだった。