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※※※




・・・8年前



今でも思いだす。


いつもより豪華な料理に、蝋燭のついたバースデーケーキ。


あの日は俺の、音無沙刀の10歳の誕生日だった。



近所に住んでいる幼馴染の、盧杞と、盧杞とあまり似ていない双子の妹、百合香を、自宅に招いて、開いたバースデーパーティー。何もかもが幸せで、最高な時間だった。



だけど、その幸せな時間は突然終わりを迎える。


料理も食べ終わり、ケーキに蝋燭をつけて、沙刀が火を消そうとした瞬間


突然、蝋燭の火じゃない、真っ赤な炎が家の全てを覆った。




そして、炎が広がると同時にリビングに現れた、気味の悪い男。あの不気味な笑い声は今でも覚えているのに、何故か、どんなに顔を思い出そうとしても、未だ盧杞も俺も顔を思い出すことはできない。





そして、何時の間にか気を失っていた俺たちが、気がついた時には、周りには何も無くなっていた。



俺と盧杞以外の全てが真っ黒な灰になっていた。


家も、百合香も、自分の父と母も、焼けた、炭の様になった木材すらも見つからなくて、住宅街の自分の家だった空間だけが、最初から何も存在していなかった様に、ぽっかりと黒ずみの空き地ができた。




警察は、その通常ではあり得ない火災の家の焼け跡の状態から、あの男は、全てを燃やした犯人は、【魔能力者】だろうといった。



【魔能力者】



幼い俺たちでさえ【魔能力者】という言葉は知っていた。




人の形をしたバケモノ達、それが魔能力者だ。




時には、魔女や魔人などと様々な名称で呼ばれることもある彼らは、人間と同じ人の形をしていながら、炎や地震といった自然を自在に操る。


ある者は竜巻を起こせ、ある者は大地を揺らすことができる。


人間とは違う摂理で生きる者たち。


彼らは、西洋に存在する、【アルタシア王国】という名の魔能力者の国以外で、世界中の殆どで人間としては認められず、恐れられていた。



ここ東京国なんかは、特に、魔能力者に批判的で、東京国で魔能力者を見つければ、速攻で国外追放か、犯罪者として始末される。


だから、東京国で魔能力者が発見されること、ましてや魔能力者によって、殺人が行われるなど、早々あるものではない。







それなのに、この国に、それも殺人鬼として魔能力者は俺たちの前に現れた。


あの日、盧杞は最愛の妹を失い、俺は両親・・・いや、家族と言える存在全てを失った。


断片的な不完全な記憶。


だけど、この完璧じゃない断片的な記憶は、俺たちの復讐心を増幅させるには十分で



俺たちは、あの日確かに誓いを立てた。


「犯人を必ず見つけ、復讐してやろう。そしていつか、世界中の魔能力者を・・・、バケモノ共を皆殺しにして、俺たちが平和な世界を作るんだ」


ちっぽけで、簡単な口約束。

だけど、俺たちは本気だった。


・・・魔能力者を皆殺しにする。



その為に、まずは偉くなって、そして強くなって、バケモノ共の国である【アルタシア王国】を滅ぼしてやろう。





・・・そんな風に俺たちは、魔能力者を恨み続け、既に8年もの時間が過ぎていた。






※※






「・・・ねぇ、沙刀」


ーーービクッ


あの日のコトを思い出してた沙刀は、突然、盧杞の言葉により現実世界に呼び戻される。


「な、なんだよイキナリ」



「・・・・。」


沙刀が盧杞を見なおせば、彼は、既に窓の外ではなく、再び真っ直ぐと沙刀を見つめていた。




、・・・まるで沙刀を、いや、沙刀と同じもう一人の復讐者、自分自身を、まるで鏡合わせの自分を自傷するかの様に見つめ



そして


「・・・。本当はわかってるんだ。俺も・・・お前も、進学以外に道はないってこと。だって高卒の公務員なんかじゃ、国は滅ぼせないんだから」


そして、馬鹿みたいだと、言いながら、嗤った。



「ああ、・・・そうだな」


沙刀も、盧杞を見て嗤う。





無力な日々がまだ終わらない・・・。

だけど、俺たちは止まれない。



全てのバケモノ共を皆殺しにしてやるまで



目の前のちっぽけな目標よりも、その先の祈願を叶える為に



お互いが本当に馬鹿みたいだと言いながら声を出さず笑った。


そして、沙刀は、突然、盧杞から視線を外し鞄の中から、一本のボールペンと、紙を取り出した。


そして、しっかりと大きな文字で、進路希望書と書かれた、その用紙に沙刀は、今度こそ迷いなく、【進学】と書かれている方に、しっかりと大きな円で、丸をした。











彼らは、は8年間、何もできなかった。



大事な全てを奪われたのに

今もこれ程憎みを抱えているのに。



そして彼らの無力さは

これからも・・・少なくとも、大学を卒業するまで・・・また、続く。



まだ続く。




・・・・そう思っていた。


沙刀も、盧杞も。



何故なら彼らはこの時、知らなかったのだ。




本当は、真実が、目の前に迫っているということを、無力だった日々が、偽りを抱えていた日々が、終焉を迎えようとしていた事を。



彼はは、知らなかった。



AM9:45



残り15分・・・。


それが、彼らの、今まで無力な日々が終わるまでの時間だ。


そして、新たな選択が始まる時間であった。










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