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始初-ハジマリトハジマリ




Arraignment【罪状認否シリーズ】

第一章 -嘆きの鴉と嗤う魔女-






東京国


世界において、この国の名を知らぬ者はいないだろう。


何故なら、世界の中で最も安全で、貧しい者のいない国だと言われ、また、科学の進歩も凄まじい国だからだ。資源が乏しく、大陸の従国という点を除けば、世界の人々は誰もがこの国に住みたがるだろう。


AM 8:30


朝ということにもかかわらず、廊下からは女子高生の笑い声や、教室からは、男子生徒の叫び声や、勉強の話が聞こえてくる。


公立東京都志水高等学校


そこは、東京国になら、どこにでもある普通の高校だ。




だけど、そこは、外国では考えられないほど、充実した学生生活だということをこの国にいるものは、それを知らない。


文字や言葉ではそれを知っているのに、実際に恵まれているのだと、本当に知っている者などいないのだ。



「・・・暇だ」



そんな世界一平和だと言われる国の高校で、高校三年生、音無沙刀(オトナシサトウ)は憂鬱を感じていた。




ワックスで、整えた、少し暗めのこげ茶の髪と、東洋人にしては、明るめの瞳をしたサトウは、身長も高くルックスもいい。そのため彼は女子から壮大な人気を得ており、普通、そのような男は同性からは嫌われるのがセオリーなのだが、しかしサトウの、カリスマ性を持っていながらも、余り目立とうとしない、そんな意外にも控えめな性格に、男子からも好感を持たれており、サトウは要するにクラスの男女から共に人気があった。


そんな、普通の高校生より全てが、充実し恵まれた様に感じられる彼からは、溜息ばかりが漏れ出ていた。



「沙刀ったら、また溜息吐いてんの?」


突然、爽やかなハスキーボイスが声をかけてきた。



沙刀は、普段は控えめな性格で、人付き合いも良い方なのだが、やはり見た目が不良的雰囲気を醸し出しているせいか、沙刀が機嫌が悪そうなときに声をかけてくる者などクラスの中には殆どいない。


窓側の一番後ろという自分の特等の席で、思い切り、伏せたまま話かけてくるなという雰囲気で、溜息を吐いていた沙刀に声をかける人物。


それは、沙刀の中ではたった一人しか思い浮かばなかった。






「なんか文句あるか、盧杞(ロキ)


伏せた顔を起き上がらせることなく返事をする沙刀。


「・・・あれ?なんでわかったの?」


その言葉に、今度こそ沙刀は、身体を起こし声の主を睨みつける。


「当たり前だろうが。機嫌の悪りぃ俺に話しかけてくるなんてクラスじゃ限られてるし、第一お前と何年の付き合いだと思ってんだ」


「あぁ、そっか。8年間の付き合いの幼馴染が声かけてんのに気づかないのは流石にないか。」


あははっと、洗剤のCMが似合うほどの爽やかな笑顔で、沙刀に笑いかける彼、風見盧杞(カザミロキ)は、正真正銘、沙刀の幼馴染であった。


盧杞の、染めた胡桃色の髪の毛は、後ろ姿をみれば、一見チャラい学校中退前の生徒に見える。しかし、人懐っこい性格もあってか、正面をみれば、その顔は、爽やかなスポーツマンというばかりのイケメンで、脱色をした不良という雰囲気は一ミリも感じられない。


「で?我等がクラスの人気者沙刀君は、何が気に入らないのかな?」


「・・・人気者って・・、お前に言われたくないんだけど」


沙刀も、一応クラスの中心的人物ではあるが、盧杞ほどではない。盧杞こそがクラスの中心にいつも存在している。


沙刀は盧杞の、嫌味ではなく素の言葉に、は~っと溜息を吐いた


「別にただ、進路どうしようかと悩んでただけだ」


「進路?」


真剣な表情をし盧杞に問いかける沙刀に、先ほどまではふざけた表示をしていた盧杞も、気持ちを切り替えるかの様に瞬きをした後、真剣な表情になった。


「いいや。俺もまだ悩んでる。でも、そうだよね・・・・警察とかに就職した方が、一刻も早くあの時の【犯人】が見つかるかもしれない・・・だけど」


盧杞は、イキナリ言葉を止め、そして窓の向こうを見つめた。


「・・・だけど、その仲間の【バケモノ共】を一人でも多く殺す為には、キャリアがいる。そのためには進学が必要で、俺たちはまた、何も行動することのできない無力な日々が続く」


「・・・無力」


「・・・そう無力。俺たちは、家族を、大事な全てを、【魔能力者】という名のバケモノ共に奪われた。・・・なのに、あんなに復讐を誓ったのに、俺たちは未だに何もできていない。・・・それも、8年間、8年間ずっとだ。」



「・・・ああ、そうだな」




8年前の夏、俺たちはかけがえのない、大切な家族を失った。

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