いただきますの前に
お読みいただきありがとうございます。
日常の小さな違和感について短編の作品を書いてみました。
だいぶ誇張していますが...
日常の細かい引っ掛かりみたいなところをピックアップして何本かだそうかなと思ってます。
是非他に投稿しているものも見てみてください!
ポテトは、もう鳴いていなかった。
揚げたてのときだけ持っていた、あの小さな音。
さく、という軽い呼吸は、とっくに止まっている。
紙の容器の中で、ただ静かに横たわっていた。
「待って待って、まだ撮ってない。」
ハンバーガーにかかる手が止まる。
「今の光よくない、もう一回。」
スマホが何台も、料理を囲む。
まるで、供物のように。
「ポテトちょっと寄せて。」
「ナゲットもうちょい近く。」
「それ影入ってる。」
指先が触れるたび、温度が逃げていく。
でも誰も、それに触れない。
「はい、いくよ。」
カシャ。
「いや違う、今のナシ。」
「ちょっと笑って。」
笑いながら、もう一度並べ直す。
その間にも、ポテトは沈黙を深めていく。
「ねえ早く食べよ。」
ひとりが言う。
「ちょっと待って、ストーリーあげるから。」
食べるための手は止まり。
見せるための指だけが動く。
「#放課後」
「#マックしか勝たん」
「#優勝」
何が優勝なのかは、誰も説明しない。
「いいね来た!。」
「早くない?。」
「絶対私たちのこと好きじゃん。笑」
彼女たちは笑う。
料理は、冷める。
ポテトはもう、完全に息をしていなかった。
触れても、何も返ってこない。
ただの油と塩と芋。
「じゃあ食べよっか。」
ようやく許可が出る。
誰に対しての許可なのかは、誰も言わない。
ひとりがポテトを口に入れる。
「……なんか微妙じゃない?」
そりゃそうだ。
「さっきの方が絶対美味しかったよね。」
「揚げたてだったし。」
「まあいっか。」
いっか、で片付ける
彼女たちはまた笑う。さっきと同じように。
テーブルの上には、完璧な写真だけが残る。
そこには、湯気があった。光もあった。
美味しそうな瞬間が、ちゃんと切り取られていた。
現実には、どこにもないのに。
「これめっちゃいい感じじゃない?」
「盛れてる。」
「最高。」
何が、とは言わない。
ふと、隣の席のサラリーマンがハンバーガーをかじる。
届いてすぐに包装紙を雑に開けて、形も気にせず、写真も撮らずに。
ただ、食べる。
その音が、一瞬だけ空気を変える。
「ねえ、次どこ行く?」
誰かが言う。
その音は、すぐにかき消される。
テーブルの上のポテトは、もう冷たい。
でも画面の中では、まだ熱々のままだ。
彼女たちは、それを見て笑っている。
帰り際に微妙と評されたポテトは半分ほどを残しゴミ箱へ捨てられた。
「いただきます」は、結局一度も言われなかった。
けれど「いいね」は、ちゃんと貰えていた。
お読みいただきありがとうございました。
先ほど店でハンバーガーを食べていて、隣の客が撮影会を始めたので
そのまま今思ってること書いてやろうと思いました。
小説のおおよそが書き終わり、余っていたチキンナゲットを口にしたところ
冷めきっており同じ穴の狢だなと反省しました。
結局一人で寂しく食ってる自分が集団で楽しそうに食べている人達をただ妬んでいるだけと
気づかされました。




