闇を纏う幼き新魔王 エヴァリン・ヒューズの背負う宿命
魔王エヴァリン・ヒューズ
序章:絶対の契約
黒曜石の床は、冷徹な鏡のように少女の姿を映し出していた。
魔界の心臓部、静寂が支配する玉座の間。漂う空気は重く、凝固した血の匂いと、
行き場を失った魔力がパチパチと火花を散らしている。その中心で、
エヴァリン・ヒューズはあまりにも小さかった。
彼女が腰掛ける「黒曜の玉座」は、数多の英雄の骸を積み上げて築かれた呪われた椅子だ。
10歳の少女の細い足は床に届かず、豪華なドレスの裾が、毒々しい闇に溶け込んでいる。
その隣で、元魔王アスタロト・クラウディウスは、退屈を飲み干すように深く、
艶やかな溜息をついた。
白銀の髪を揺らし、若々しくも毒のある美貌を湛えた彼は、跪く配下たちの動揺を眺めていた。
煮えたぎるような屈辱と、それでも抗えぬ服従。その歪なコントラストが、
彼には可笑しくてたまらない。
(……ああ、反吐が出るほど退屈だったこの世界も、少しはマシになるか)
アスタロトの視線が、エヴァリンに向けられる。 父の書斎で見つけた石板──
そこから放たれた古代魔法『デウス・オティアム』は、因果を歪め、最強の魔王を人間の少女の
「使い魔」へと変貌させた。 二人の魂は混ざり合い、彼女の死は彼の消滅を意味する。
それは魔族にとって最大の「呪縛」に他ならない。
だが、アスタロトという男は、絶望に打ちひしがれるほど柔な精神を持っていなかった。
彼は無類の女好きであり、同時に、この血生臭く、力こそが全ての魔界を心の底から嫌悪していた。
彼にとっての魔界は、色のない灰色の檻に過ぎない。
そこに現れた「エヴァリン」という異物。 彼は、自分を縛るこの死の鎖すらも、
退屈を紛らわすための新しい「おもちゃ」の紐だと解釈したのだ。
「アスタロト。わ、わたし、おなかすいた……」
震える声が、静寂を切り裂いた。 エヴァリンの大きな瞳には、涙が溜まっている。
彼女は自分がなぜここにいるのか、なぜ恐ろしい角を持つ男たちが自分を凝視しているのか、
その真実を理解していない。
ただ、見知らぬ土地に捨てられた迷子の心細さが、その小さな肩を揺らしていた。
アスタロトの肩が、僅かに震える。 それは怒りではなく、抑えきれない愉悦の震えだった。
「……わかったのだ、我が主。すぐさま、至高の供を」
彼は跪き、彼女の小さな手を取って、その甲に恭しく唇を寄せた。
その瞳の奥には、慈しみなど欠片もない。
あるのは、新しく手に入れた珍しい愛玩動物をどう愛で、どう壊そうかという、
嗜虐的な好奇心だけだ。
玉座の階下では、大将軍ゼフィールをはじめとする五人の魔将たちが、
その光景を苦虫を噛み潰したような面持ちで見守っていた。
「(この幼き王は、使いようによっては新たな秩序をもたらすかもしれぬ。
だが、脆弱すぎる……)」 ゼフィールの心中には、
この混乱を利用して己の地位を絶対のものにしようという野心が渦巻く。
しかし、アスタロトはそんな配下たちの浅ましい策謀など、端から歯牙にもかけていない。
彼が興味があるのは、この無垢な少女が、絶望に染まり、魔王という宿命に食い荒らされていく
過程を、特等席で眺めることだけなのだ。
エヴァリンは、アスタロトの袖をぎゅっと掴んだ。
「おうちに、帰りたいの……パパと、ママのところに……」
「帰る場所など、もうどこにもないのだよ、エヴァリン」 アスタロトは、甘く、毒を含んだ声で囁く。
「お前はもう、この闇の所有物だ。……私の、可愛い王様なんだから」
魔界の夜は長く、そしてあまりに暗い。 新しき魔王の治世は、
一滴の涙と、逃げ場のない狂気と共に幕を開けた。
第1章 : 過去の傷痕、人間界の裏切り
エヴァリンが魔界の玉座に座るに至った背景には、人間界、
ゾディア帝国での血みどろの過去があった。
【過去】ゾディア帝国・帝国魔導庁
エヴァリンの父親であるセドリック・ヒューズ(37)は、帝国魔導庁の
エリート主任研究者であり、秘密結社「灰の書庫」の一員の顔をも持つ人物だ。
「灰の書庫」は、帝国の腐敗と、圧政に反感を抱く者達の集まりである。
セドリックには、二人の親友がいた。一人は帝国魔導庁の同僚である
トラビス・アシュレイ(37)。
もう一人は、帝国魔導騎士団の団長カイル・ヴァルキリー(37)だ。
事の発端は、セドリックの娘のエヴァリンが自我を持つ石板に触れてしまい
世界を滅ぼしかねないほどの古代の力をその身に宿したことだった。
石板はエヴァリンに知識と力を与え、彼女は世界の支配を目論むゾディア帝国
にとって「利用価値のある兵器」となった。
帝国はエヴァリンを捕らえようと動き出す。
その情報を帝国に流したのは、セドリックの親友、トラビス・アシュレイだった。
ゾディア帝国の帝都ゾディアリス、建設物の多くが、夜間でも星光や月光を
反射して輝く白亜の魔力石で造られている美しい都市に暮らす、
ヒューズ家の書斎ーー
というよりは、セドリックの自室であり研究室とも呼べる場所である。
部屋の壁は、床から天井まで古びた木製の棚で埋め尽くされ、羊皮紙の巻物、
分厚い魔導書、そして、セドリックが日夜研究している古代遺跡から発掘されたと
みられる「変なもの」が所狭しと並んでいる。鈍い銀色の奇妙な歯車、
苔むした石のレリーフガラスケースに入れられた、
脈打つような光を放つ魔導石の破片。
セドリックは、大きな木製デスクの前に座り、
古代文字がびっしりと書かれた石板を、
光を放つ魔法のルーペで覗き込んでいた。
眉間に深い皺が刻まれ、集中力の高い静かな
空気が、部屋全体を覆っている。突然、その静寂が破られた。
「パパー!」バン!という音とともに、ドアが勢いよく開け放たれる。
入ってきたのは、彼の愛娘、エヴァリン・ヒューズ(10)。
クリっとした大きな瞳は部屋中の「変なもの」たちへの好奇心で輝き、
金色の髪が元気いっぱいに揺れている。
彼女にとって、この部屋は刺激的な、秘密の宝物庫なのだ。
セドリックは、手に持っていたルーペを慌てて石板の上に置き、
椅子の背にもたれかかった。
一瞬の驚きの後、表情はすぐに優しげなものへと変わる。
「エヴァリン、ノックくらいしなさいって、いつも言っているだろう?」
「えへへ、ごめんなさい。でも、パパすっごく集中してるみたいだったから、
すぐ用事を伝えなきゃって!」エヴァリンは少しも悪びれずに、
そう言って部屋の中央まで駆け寄ってくる。
セドリックは、娘の溢れんばかりの活気に苦笑する。
彼女がこの部屋を好きでいてくれることは、知っている。
自分の仕事に対する愛情と、娘の自分への信頼が混ざり合って、
彼の心は温かいもので満たされた。
「ママがご飯の時間だからパパ呼んで来てって」ヒューズ家の幸せな時間だった。
翌日の朝、父は職場に向かった。エヴァリンは昨日、
父親のデスクの上で見かけた、手のひらサイズの虹色に輝く奇妙な魔導具が
また見たくて父親の部屋にいた。
「あれ?、ない。」長い時間、探したが、それはなかった。
「なんだ、残念・・・。」探し疲れ、父の部屋の床に
寝ころんだエヴァリンは古びた石板に目を止めた。
「パパの部屋に、こんな石板あったかしら?」
棚には黒曜石のように鈍く光る、手のひらよりも
一回り大きな石板が立てかけられていた。
表面には見たこともない幾何学的な文様と、古代文字が細かく刻まれている。
エヴァリンはそっと石板に触れた。ひんやりとした感触。・・・・
そして、次の瞬間。
「・・我は、法則なり。そして、破滅なり。聞け、契約は・・成された・・」
「時が、歪む・・終焉は、始まりに・・・汝の名を、世界に刻め・・」
「七つの封印は、もう・・持たない。目覚めよ・・我が器・・」
「求めよ。力は、その渇望に・・比例する・・」
「・・世界は嘘。真実は、石板の中・・私は・・待っていた・・」
「闇は、光を欲す。・・そして、光は、闇を喰らう・・選び、進め・・」
「・・全ては循環する。お前が、その歯車だ。抵抗は・・無意味・・」
「古き王の記憶・・我に、その鍵を開けさせよ・・」
「・・呪文は、言葉ではない・・存在そのもの・・貴様は、もう・・貴様ではない・・」
「・・破壊せよ。さもすれば、創造が・・」
「な、何!?今のは・・誰?この石板が喋ったの!?」
エヴァリンは恐る恐る石板を見つめ、震える声で尋ねた。
石板は答えた。「恐れることはない、我が片割れよ」「我が発した言葉・・
それは、この石板に刻まれし古代言語の目覚めの音。」
石板はそう告げると、エヴァリンの
手から静かに離れ、彼女の頭上に音もなく浮遊した。
「う、浮いた!すごい魔法!」エヴァリンは目を輝かせた。
「これは魔法ではない、根源的な力だ。そして、
いずれこの力が貴様のものとなる」
石板は急速に光を増し始め、眩い光を放ち始めた。その光は、
部屋の埃を払いのけ、部屋を満たす。
エヴァリンは手をかざして目を細めた。
「ちょっと待って、何を・・するつもりなの?」
「貴様が正統な継承者であると認識された。故に、
私は貴様を完成させる」
石板に刻まれた古代文字が、まるで燃えるように赤く、青く発光し始めた。
「受け取れ、エヴァリン・ヒューズ!我々が歩んできた数千年の記憶!
100に及ぶ古代呪文の詠唱と知識!その全てを!」
次の瞬間、石板から放たれた光は、まるで滝のように、
あるいは稲妻のように、
エヴァリンの額めがけて一気に流れ込んできた。
「いやあああ!ううっ・・頭が、割れそう・・・」
エヴァリンの脳裏に、数千年の歴史、無数の戦場、そして膨大な魔術の理論が、
映像と文字と音の奔流となって叩きつけられる。
彼女の小さな体には、あまりにも巨大すぎる情報の波だった。
「呪文・・詠唱・・世界創造の理・・」
エヴァリンはよろめき、父親の机に手をついたが、体は支えきれず、
そのまま冷たい床に倒れ込んだ。
「・・同化を開始する。耐えろ、エヴァリン」
気を失ったエヴァリンの頭上で、石板は光の粒子へと変わり始めた。
まるで無数の星屑が霧散するかのように、光の粒子はエヴァリンの
肉体に吸い込まれ、完全にその姿を消し、石板と少女は、同化した。
セドリックが帝国魔導庁に出勤した後、静寂に包まれていたヒューズ家に、
激しい物音が響いた。
エヴァリンの母、レティシアは驚愕に目を見開いた。「今の音は・・
セドリックの部屋から?」レティシアは、そこに広がっていた光景に
彼女は息を吞んだ。愛娘のエヴァリンが書斎の絨毯の上に倒れ伏していた。
「エヴァリン!エヴァリン、どうしたの!?」
レティシアは急いで娘を抱上げ、その頬を叩いたが、エヴァリンは
ぐったりとしたまま意識がない。「まさか、書斎で何か?いや、今はとにかく」
大魔法使いであるレティシアは、すぐさま自身の魔力を巡らせて
エヴァリンの体を探るが、外傷も、魔力的な異常も感じられない。
「なぜ?どうしてこんなことに・・・!」レティシアは震える手でエヴァリンを
抱きしめ、急いでゾディアリス帝都の医者を呼んだ。
しばらくして、ヒューズ邸を訪れ、エヴァリンを診察した。
医師「奥様、お嬢様のバイタルに異常は見られません。脈拍も呼吸も正常です。
魔力の流れも健康そのも・・奇妙なことです」
レティシア「先生、それはつまり、原因がわからないと?」
医師「はい。これだけ深い意識喪失にもかかわらず、医学的な、
あるいは魔学的な異常が全くないのは極めて稀です。
過度の疲労、あるいは強い精神的ショックによる
一時的なものかもしれませんが・・・断定はできません。
ひとまず、安静にさせて様子を見てください。」
レティシアは茫然と医師を見送った。
「異常がないのに、どうしてエヴァリンは目を覚まさない・・」
夕方、仕事を終えた夫、セドリックが帰宅した。
「ただいま、レティシア。今日はなんだか家の中が静かだな、
エヴァリンはどこだい?」
レティシアは、顔を覆っていた手をゆっくりと下ろし、疲れと不安で憔悴しきった
表情でセドリックを迎えた。レティシアは、セドリックに今日、あった全ての事を
話すと彼女は泣き崩れ、セドリックの胸に顔を埋めた。
「リリスは突然、私達の前から消えてしまった。エヴァリンも同じように・・・」
セドリックはレティシアを強く抱きしめると
「エヴァリンは大丈夫、・・大丈夫だよ」
意識の狭間でエヴァリンと石板は対話していた。
「あなたは・・いったい、何なの?私の頭の中にいるの?」
エヴァリンは石板に問いかける
「そうだ、小さき我が片割れよ。我は今、お前の魂と一体となっている。」
エヴァリン「なぜ私に・・あなたは私に、たくさんの知識を与えて、
そして消えてしまった」
石板「我は消えていない。お前の存在そのものになった。
そして、その知識こそが、お前が我を受け入れる対価だ。」
エヴァリン「対価・・?これからどうなるの?私はこのまま、ずっとあなたと一緒なの?」
石板「ああ、お前と我は、これから一生を共にすることになる。
お前の生がある限り、我はお前に在り続ける。」
エヴァリンは、その事実に驚きながらも、恐怖よりも強い
好奇心を抱いた。
エヴァリン「あなたは、どのくらい長い間、存在しているの?」
石板「我の始まりは、遥か古代、この世界の歴史が記録される以前に遡る。
あまりに長い時だ。
そして、お前のように我と同化した人間は、お前が初めてではない」
エヴァリン「私以外にも・・?何人も、あなたと一体になった人がいるの?」
石板「然り。彼らは皆、我の知識を持ち、それぞれの時代に大きな影響を与えていった。
中には、世界を覆すほどの力を持った者もいた」
エヴァリン「(息を吞む)世界を覆す力・・」
「・・ねえ、あなたには、名前はあるの?」
石板「名前?我はただ、道具として存在する。。特定の呼称は持たない。」
エヴァリン「そう・・じゃあ、私があなたに名前をつけてあげる。」
エヴァリン「あなたは、黒い色の石板だった。だから・・クロ。あなたの名前は、
今日からクロよ。」
クロ「(わずかに沈黙し)・・好きに呼ぶがよい、名は、個を認識するためのただの記号だ」
創造主と唯一の魔法
エヴァリンは、クロとの対話を通して、自分が受け取った知識の膨大さを改めて実感していた。
エヴァリン「クロ、あなたは誰が作ったの?そんなに強力で古い知識を持つ道具を、誰かが
作ったのよね?」
クロ「無論だ。我のような道具は、ただの自然現象ではない。
我には、我を創造した方と呼ぶべき存在がいる。」
エヴァリン「創造主・・。その方は、今もどこかにいるの?」
クロ「存在はしている。そして、お前が我と同化するに至ったのも、
その創造主の意向によるものだ。」
エヴァリン「創造主の意向・・?じゃあ、私が父親の部屋に入ったのも、
偶然じゃなかったってこと?」
クロ「偶然ではない。必然だ。そして、その創造主の意向により、
お前には重要な制約が課せられる」
クロの言葉に、エヴァリンは緊張した。
エヴァリン「制約・・?どういうこと?」
クロ「お前が我から与えられた古代魔法は、全部で100。
その全てが、この時代の魔術師では扱えない、強力無比なものだ」
エヴァリン「100も!?」
クロ「しかし、お前がこれから使用を許されるのは、100のうちたった1つだけだ」
エヴァリン「1つだけ?どうして!?せっかく覚えたのに!」
クロ「理由はお前が今、生きている時代にある。そして、
我の創造主が、お前を試すためでもある」
クロ「その1つ、お前が唯一使用を許される魔法の名は『デウス・オディアム(Ⅾeus Odium)』
エヴァリン「デウス・オディアム・・神々の怠惰、という意味の魔法」
クロ「その名の通りだ。その魔法は、かつて神々をすら恐れさせたほどの威力を持つ。しかし、
それ故に、術を唱えた者自身にすら、どんな結果が降りかかるか分からない」
エヴァリン「唱えた私自身にも、予測不能な影響があるなんて・・
それは、とても危険な魔法ということ?
クロ「(冷徹に)危険だ。効果は絶大だが、代償もまた絶大となる可能性がある。お前がいつ、
どんな状況で、それを使うかは、お前自身が決めなければならない」
エヴァリン「そんな・・100もの強力な魔法があるのに、一番危険なものしか使えないなんて」
クロ「不満かエヴァリン?だが、それが運命だ。デウス・オディアムは、お前の存在意義、
そして試練となる。他の99の魔法の知識は、お前の頭の中にある。
だが、唱えようとすれば、我がお前を止めるだろう」
エヴァリン「(唇を嚙みしめ)わかった。クロ。デウス・オディアム・・。
私は、この一つの魔法と共に生きていくのね」
エヴァリンは、この三日間の出来事と、これからの一生が、平凡なものではないことを悟った。
自分の体と同化したクロ、そして唯一使える強力な魔法。
彼女の人生が、今、始まろうとしていた。
目覚めと告白
セドリックは、横たわる娘の小さな手にそっと触れた。
「心配するなレティシア。エヴァリンはきっと大丈夫だ。私達が傍についている」
それから三日間、エヴァリンは眠り続けた。レティシアはほとんど娘の傍を離れず、
濡れタオルで額を拭き、ただひたすら目覚めるのを待った。
レティシアはこの三日間の間、回復呪文のセラピアを毎日、
何回もエヴァリンにかけ続けた。
三日目の夜明け前、レティシアがエヴァリンの手を握りながら微睡んでいると、
小さな呻き声が聞こえた。エヴァリン「う、ん・・・」
レティシア「!(ハッと顔を上げる)エヴァリン!? エヴァリン、目を開けて!」
エヴァリンはゆっくりと瞼を開き、ぼんやりと天井を見つけた。「ママ・・?」
「エヴァリン!私のエヴァリン!」レティシアは耐えきれなくなり、泣きながら
娘を強く抱きしめた。「よかった・・本当によかった・・!リリスみたいに、
私の前からいなくなってしまうんじゃないかって、
恐ろしくてたまらなかった・・!」
エヴァリンは妹の名前を聞いて、胸が締め付けられた。「ママ、・・わたしは、
どこにも行かないよ」レティシアは涙を拭い「ええ、そうね。もう大丈夫よ・・。
セドリックにも知らせないとね!」セドリックも駆けつけ、娘の目覚めを心から喜んだ。
抱擁を終え、二人は顔を見合わせた。「エヴァリン。君が倒れたのは、私の部屋だったね。
レティシアも言っていたが、君に何があったんだ?意識を失う前に、何か変わった
ことを見たか?」「そうよ。どうして急に倒れてしまったのか、
ママにも教えてちょうだい」
エヴァリンは落ち着いた様子で、あの日の出来事を話し始めた。全て、一切合切を。
「ごめんなさい、パパ。書斎に入って、こっそりパパの部屋を見ていたの。そして、
棚に置かれていた黒曜石のように鈍く光る、石板を見つけてしまって・・」
セドリックは混乱した「黒曜石のような石板?」そんなもの、私の部屋にはなかった。
どういうことだ、石板自体置いてなかった。「エヴァリン、本当に石板だったのかい?」
「うん、黒色の石板が棚にあったの。見慣れない、古い石板が。何か古代の文字が
刻まれた、禍々しいような、でもとても神聖なもの・・」エヴァリンは、その石板に
触れた途端に石板から眩しい光が溢れて、大量の魔法の知識や、難しい聞いたことがない
ものが、雪崩のように頭の中に流れ込んできたことを話した。
レティシアは心配そうに「知識が、流れ込んできた?」エヴァリンは、まるで私の魂に
直接書き込まれるように・・そして、石板は光の粒子となって、私の体の中に入り同化した
ことを話した。レティシアとセドリックはは息を飲んだ。「その衝撃にたえられなくて・・
わたしは、倒れてしまったんだと思う。体調はもう大丈夫だから心配しないで、むしろ、
体の中から力が満ちてくるのを感じるの」
エヴァリンの話を聞いてセドリックとレティシアは
体の震えが止まらなかった。レティシアの大魔法使いとしての直感が感じていた。
エヴァリンの言葉に噓偽りがないことを。レティシアは、「(深く息を吐き)・・ああ、
なんてこと。古代魔導具による、精神と魔力の強制的な接続と情報伝達・・。
そして石板が粒子になってエヴァリンと同化したなんて」
しかし、セドリックは顔面蒼白で、エヴァリンの言葉を激しく拒絶した「(立ち上がり、
動揺で声を荒げる)そんなはずはない!エヴァリン、君はまだ夢の中にいるんだ!
私の部屋にはそんな石板はなかった!」セドリックの動揺は激しい。彼の混乱した瞳は、
エヴァリンのの言葉が単なる子供の妄想ではないことを示唆していた。
「セドリック、落ち着いて!エヴァリンは噓をついていないわ、私にはわかるエヴァリン
の体から尋常じゃない異質の魔力を感じるの」
「レティシア、もし、それが本当なら、一体、誰が、いつ、何の目的で、この家に
それを持ち込んだんだ!?」セドリックは自分の部屋で起きた不可解な出来事に、
強い不安と恐怖を感じていた。エヴァリンの目覚めは喜びであったが、それは同時に
、一家を巻き込む大きな謎と危険の始まりでもあったのだ。
続く




