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 「俺の計画はこうだ。つまるところな、超速で魔境の森を駆け抜けちまえば、あっという間に最深部へ到達できるんだよ。わざわざ危険な魔物と対峙する必要もない。行って、帰ってくる。単純な話だろう?」


 自らをサンダーと名乗るその青年は、腕組みをしながら、自信に満ちた表情でリリスの前に歩み寄った。溌剌と力強い物言いをする男である。比較的長身のディオンと比べても、彼の背丈はかなり高いように感じられた。浅黒く日焼けした肌。顔の傷。鋭い眼光。身に着けた装備品を見るまでも無く、この青年が密猟者であることをリリスは確信する。


 「商会製の魔靴じゃ消耗が激しくてな。噂に聞いたぜ。ここは本物の魔道具だけを揃えてるってよ」


 意外に思った彼女は首を傾げ、腕組みするサンダーに向かって、


 「うちの店、中心街じゃ評判悪いって聞いてるけど……」

 「そんだけ扱いの難しい商品が揃ってるんだろう。むしろ信用できるってもんだ」

 「まあ……」


 こうも褒められると、かえってきまりが悪い。リリスは苦笑して、店頭に並ぶ商品の中から、何足かの靴を持ってくると、


 「サイズが合えばいいけれど」

 「こりゃあ、骨董品か?」

 「うちはこんなのばっかりだよ。新品が欲しければ、商会の百貨店へどうぞ」

 「いや……最高だぜ……」


 サンダーは興奮した調子で、彼女の手からその魔道具を受け取った。


 ヘルメスの魔靴。作製時期の詳細は不明。帝国時代の中期に使用された履歴が残っているため、大方その時期に作られたものと推定できる。現王国領より東、アナトリオ地方の征伐に投入された先遣部隊の一兵士が、敵兵の撹乱と伝令に用いたとされる代物であった。


 「使い方次第では、数キロの距離を二分と掛からず走破できるけど。魔境の森で使おうものなら……」

 「ああ。岩石や樹木にぶち当たって死んじまうだろうな」

 「ええ……」

 「だが、俺なら使いこなせる」


 サンダーは懐から杖を取り出して、自らの周囲に結解を張って見せた。その、自信に満ち溢れた表情が、より一層彼女に懸念を抱かせる。


 「やっぱり危険よ」

 「鎧熊の硬皮も粉砕した防壁だ。どんな障害が立ち塞がろうと、この俺を止めることは出来ねえさ」

 「それでも、深層部は未知の領域なんだから。いったい何が出てくるか……」

 「これ以上はよしてくれ。起こり得る危険を数えてたらキリがねえ」


 右手を突き出して、彼女の話を遮ろうとするサンダー。すると傍らで、ディオンがまた不機嫌そうに頭を搔きながら、


 「僕からも言っておきますよ。どうか、命は大切にした方がいい」

 

 サンダーは、ここに来て初めてディオンの存在に気付いた様子で、彼の顔をまじまじ見つめると、


 「あんた、ギルドに所属してなかったか? 見たことのある顔だぜ」

 「よく、気付きましたね……」

 「やっぱり元ハンターか。ま、色々あるよな」

 「色々……。そうですね。あなたもお気をつけ下さい。くれぐれも、ギルドの連中を刺激しないように」


 忠告を受け、少し考えるそぶりを見せるサンダー。所属組織のしがらみが脳裏に過ったのである。


 魔境の完全攻略を目指すことは、この街では暗黙のタブーとなっていた。


 密猟者は魔物を狩って生計を立てている。その、魔物の巣食う森を突き進み、万が一完全攻略の達成者が現れてしまったら。ギルド構成員は稼ぎの手段を失ってしまうのである。


 「全力で止めにかかりますよ。連中は」


 しかしサンダーは、己の欲求を抑えきれない様子で、


 「別に、森の魔獣を狩り尽くそうってわけじゃねえ。前人未到の魔境最深部。そこに何があるのか、見てみたいだけなんだよ」

 「だったら猶更、このことは他人に喋らない方がいいです。僕の二の舞にならないよう……」


 目を見開くサンダー。ディオンは苦しそうに奥歯を噛みしめている。


 「あんたのこと、完全に思い出したよ……」

 

 全てを理解したように、サンダーは呆然とその場に立ち尽くした。


 ああ……そうだ……。こいつは先の遠征で……。正確には「遠征の真似事」で、生ける亡霊として街に帰還した、たった一人の憐れなる生き残りなのだと。


 五十三万ステーロの支払い。商会製の最高級品でも四十万弱であることを鑑みる。しかし、あの女店主……リリスと名乗る、驚くほど美しいあの女性は何者だろうかと、退店したサンダーは背後を振り返った。


 「リリスの武器屋」の看板を眺めながら、彼は陳列された店内の商品を思い返していた。それは確信に近かった。自らの勘が正しければ、この店に置かれている商品の大半は……


 「そりゃあ、わざわざ本土を離れて商売するわけだ」


 帝国時代の製作物はほぼ例外なく、王国法によって固く所持が禁じられている。王都で店を開こうものなら即営業停止。下手すれば投獄もあり得るだろう。


 「だから、この街は面白いんだよ……」


 一人呟きながら、サンダーは購入した魔靴を鞄に入れた。そして、今すぐにでも試してみたい衝動を抑えながら、彼は中心街のギルド本部へと歩みを進めるのであった。

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