ルルルル。
「あなたは誰? 」
「誰か知りたいかい? 」
「はい」
彼女の顔を正面に捉えて、思ったより幼さが残るその顔に驚いた。
「君の父親だよ」
「え? 」
彼女の白く目鼻立ちのくっきりした顔を露骨に歪めて上目遣いで俺をじっとみていた。
時間が恰も凍ってしまったように。
「嘘だよ、ごめん」
「ですよね……」
記憶でも失っていないかと思って、
初対面で大きな賭けに出たのだが、嫌そうな顔をされたので素直に謝った。
簡単な自己紹介を終えた。
彼女は秋山恵さんというらしい。
あの駅から二駅ほど西に行った地域にある公立高校に通っている。
「佐竹さんは、それで、私を救おうとして列車に巻き込まれて……」
「そうだよ」
「すみません」
俯いて長い髪を貞子のように垂れる彼女。
俺は次に発する言葉を考えあぐねて、静かに周囲の景色に目をやった。
その異様な光景を眺めながら、煙草の煙でも吐き出すかのように細く長い息をついた。
「で、ここは何だと思う? 」
「何って? 」
「天国か地獄かってこと」
「さぁ……」
蜃気楼のように周りの空気が揺らいでいる。
目に映る全てのものが、水を透してみるような不明瞭さに包まれていた。
最初見たときは、俺の目がやられているのかと思った。
だが、違うようだ。
1メートルも離れていない彼女の様子は鮮明に見て取れるのだから。
瑞々しい肌理の細かい肌、肩よりもう少し長めの髪はウエーブがかかっていて、
白いシャツに濃紺のスカート、黒光する靴、白いパンツまできっちり……
「ど、どこ見てんですか!? 」
「いや、パンツじゃなくって君」
乾いた音とともに、強烈なビンタが飛んできた。