一連托生。
「起きろ……」
「んんん、朝? 」
彼女は顔を手の甲でごしごし擦りながら言った。
この緊急事態に暢気な奴だ。
「ん……ここは……? 」
どこか街の中にいるらしいが、判然としない。
表現しづらい町並みを敢て例えるなら異世界。
もしくはSFに出てくる別の星の居住空間とでもいうべきか。
「地球じゃないのは確かのようだ」
「ええ、あなた誰? 何言ってる……」
彼女はゆっくり半身を起こすと、眠そうな顔で辺りを見回した。
おき抜けの半分瞼で塞がった彼女の瞳は次第に驚きの光を強めて見開かれていく。
「え、なに、ちょっとここどこ……」
「俺が聞きたいところだ」
ここへ来る前の経緯を俺はしっかり覚えている。
俺は夜9時頃、外回りの営業を終えて会社へ戻ってきた。
報告書を書き終えて、タイムカードを押した後は、残っている面々にお愛想程度の言葉を交わした後、会社をでて駅に向かった。
外は道路沿いにある外灯やネオン、行き交う車の光に満ちていたが、
それでもこの時間帯はどこかうら寂しい雰囲気が漂い始める。
シャッターを閉める音が聞こえてくるし、道沿いにあるビルのオフィスの光も、
まばらになってくる。
足早に同じようにして駅に向かう会社帰りの人々。
これからお酒を同僚とのみに行くといった風な開放感をかみ締めながら、大声で談笑する一団とも擦れ違うが、一人、疲労をためこんだ表情で、無心に自宅という安寧の地へ向かって飄然と歩を進める男女も認めることができる。その情景はなぜか、頭の中ではっきり残っていた。何故この日だけその見慣れた風景が鮮やかに記憶に映りこんできたのかは分からない。だが、今考えると、それは何か異変が起こる前の虫の知らせのようなものだったのかも。
俺は駅に着くと、ホームへ急いだ。
人々が列を成して電車を待っている。
どこか倦怠感のような気だるい雰囲気が辺りを占めている。
皆、仕事を終えたばかりで疲れているんだろう。
俺は灰色にくすんだ階段を降りてすぐの列の最後尾にたった。
ワイシャツの白い大柄な背中が眼の前を遮るので、圧迫感に耐え切れず、少し体を右側にずらして視界を確保する。俺は口に手を当てて欠伸をしながら、視線を何気なく流した。その時偶然、人々の列の間に一人ぽつんと立ち尽くす女性を発見した。
線路とホームの境界線ギリギリに立っている。
なんとなくその頼りなげな背中を見ていると、胸の底で微かなざわめきを感じた。
だが、案の定というか、しばらくしてその体が視界から消えたのだ。
辺りにどよめきが、数瞬後狭いホームを駆け抜けた。
そして、時を移さず、電車の光が右側の闇の隧道から近づいてくる。
線路に落ちたに違いない、だが、人々はざわめくばかりであたふたしている。
俺は無意識に列から抜け出してそこへ走っていた。
そして、躊躇なく線路へ飛び込んだ。
けたたましく電車の警笛が構内に鳴り響く。
焦慮に突き動かされるように、彼女の傍に駆け寄り、
仰向けに倒れる彼女の下に肩を入れて立ち上がった。
滲むように広がって迫りくる光の輪。
俺は半ば彼女を引きずるように担ぎ、急いでホームの地面に手をかけた。
この時、ホームにいた50がらみの男と若い男が、俺達を引き上げようと手を伸ばしてきていた。
その後――
どうなったか覚えていないんだ。
目が覚めたら、この場所で彼女と重なって倒れていた。