だるい。
「よし、行こうか、ジャミル」
俺を救った白い光は、エミル魔術の封じ込め呪文だった。
虚を衝かれ青い石に一瞬で閉じ込められたジャミル。
ザラの手の中に収まる青い石にその陰気で不平を湛える顔が薄っすら浮かんでいる。
「さようなら、ザラさん」
「拓君も一緒に来ないのか? 」
俺はこのおっさんについて行きたくなかった。
この辺りは村や町はないそうなので、ザラは幾分心配そうに俺を見つめている。
「いえ、一人でなんとかなります」
「辺鄙な場所だ、何がいるか分からないぞ? 」
「大丈夫です、俺これでも強いですから」
断固拒否。少し意固地になっている。
ここまで頑なにに断る理由は単純。
面倒な輩と係わり合いになりたくない、ただそれだけだ。
「分かった、じゃまた会おう! 」
お断りだ。
ザラは前方にできた波紋のような形の空間の歪みに飛び込んでいった。
森を抜けると、少し開けた場所にでた。
真っ直ぐそのまま歩いていく。
どこまでも続く草原……かと思いきや、
小高く盛り上がった先には、踏みしめる大地がなかった。
目が眩むような深い谷底。
切れ間に立って、下を覗き込んでいると、吸い込まれそうになる。
背筋に薄ら寒いものが走って後退った。
谷底に鳥になって下りていくことにした。
時折、吹き抜ける強風に俺の白い体は左右に揺らぐ。
だが、その辺は鳥。
うまく風の流れに乗って、時々旋回しながらもバランスを保ち、
底へと着実に降下していく。
底にたどり着くと、人間の姿に変わった。
湿った空気が辺りを満たしている。
見渡すと、背丈を越える岩が、あちこちに点在している。
岩壁に挟まれた狭い谷底の道には薄っすら白い靄がかかっていた。
不気味な場所だ。
ザラがいうには、この辺りはあまり人の出入りがない未開の土地らしい。
そんな場所の谷底へ俺は自ら身を投じた。
無謀とも言えるが、俺は平坦な道にはもう飽き飽きしていた。
少し変わった場所を探索してみたかったんだ。